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機械姫と天の風  作者: ブラボー
機械のいる日々
6/18

機械少女フウ

「なら、試させて」

「え?」

「私と仕合しろって言ってんの!」


それを聞いて周囲が響めいた。

ムリはない。いきなり現れた少女にトップが手合わせをというのだ。


「おいおい!天ちゃん!何言ってんだ!」

「そうですよ!天さん!何もいきなりそんな」

「いかんですよ!!それ、いかんですよ!!」


周囲が反対するのは分かる。

ただ、どうしても試してみたいのだ。

本当に機械兵なら、アイツに近付けるかもしれない。


「承知致しました、マスター天風。ルールはございますか?」

「ない。ウチは実践派だ。」

「武器の使用は?」

「なんでもいい。」

「そうなりますと………いえ。なんでもありません。」


「お待ち下さい。」


そこへ陽助さんが割って入る。


「いきなり道場長を出すワケにはいきません。」

「陽助さん、邪魔しないで」

「いいえ、邪魔します。アナタがいきなり打って出たとはあれば、最悪の事態の時に門下生は立場がありません。私なら、不足はないはずです。ですから、どうか………」


確かに、道場破りなどが来たりした時にいきなり道場長が出てしまえば、最悪の場合、道場が無くなる。そうなれば、今の門下生も今後が上手くはいかないだろう。

陽助さんなら、私と渡り合う事もできる実力者だ。信用できる。


「分かった。任せるよ、陽助さん」

「ありがとうございます」


ルールは以下の通りだ。

武器は真剣は使用しない。

飛び道具は許可する。体術その他、使用も許可する。ただし、どちらかが降参、あるいは戦闘続行不可な場合はそれで勝敗を決する。

これは、フウの奴が「殺しはイヤです」などと言い出したためだ。


「では………」

「はじめましょうか♪私、楽しみです!」


ジリジリと既に間合いのせめぎ合いが始まっていた。沢山の門下生、龍治に勝虎、私が見る中、仕合は始まる。

陽助さんは平晴眼。まっすぐと1本、武器を構えるやり方だ。オーソドックスな型で、袴の下は見えないが、左足を後ろ、右足を前にし、後ろ足はかかとを浮かせ、そこに重心をかけて、一気に踏み込む体勢だ。


「おい、なんだありゃぁ。」

「踊ってるみてぇだな………」


一方、フウは見たこともない型だ。

木刀を2本。両手1本ずつ持ち、ふらりふらりと体を揺らしている。スカートなどがその度、波打ち、落ち着きがない。


2人の間合いが、少しずつ。本当に秒の単位でしか分からないほど、縮まる。


「さすが、陽助にーちゃんだ。あんなの、気が付かないぜ………」

「えぇ………?でも、フウおねーちゃんも動いてない?」


勝虎は鋭い。確かに落ち着きがない動きをしているように見えるが、フウは笑顔を崩さず、気が付かれないレベルで間合いを詰めている。


「シェァァッッ!!」


周囲を一喝するような気迫と共に陽助さんが飛び出す!一足一刀いっそくいっとう。一足あれば、一太刀だ。だが、陽助さんは一足三刀。あまりに早い。三刀の倉間と呼ばれる太刀筋の使い手だ。


「な、なんだありゃあ!」

「全部受けたぞ!?」


フウの周りから木刀がコンコンコンと軽く当たる音がした。それを回転するようにくるりと受け流したのだ。


「見事な振り抜き。見事な縮地。鮮やかな三刀。ふふ♪私、なんだか変です!楽しいかもしれません!」

「まだ、始まったばかりですよ」


━━━この時、一太刀だけで熟練の陽助は悟った。


(たったの一撃もかすらない。しかも………)

「シェァァッッ!!」


再び撃ち込む!一撃でも多く!もっと早く!

しかし、やはり木刀の軽い音だけが鳴る。


(………やはり、手加減されている。)


反撃してこないのだ。

たったの一瞬も素振そぶりは無い。

完全な手加減だ。


(…………これは、まずい)


ふと、ふらりとした動きを止めてフウは言った。


死中勝在しちゅうにかつあり。ふふ♪私、1つ思い出しました♪」

「…………何をですか?」

「私、人間の方が大好きなんです!とても、面白い!とくに顔立ちの良い男性は好きだった気がします!なので…………」


またふらりと動き出す。


「受け止めて下さいね♪」


「どうぞ」

(来る…………!!)


そう感じた瞬間、身をよじると尋常ではない速さで間合いを詰め、一撃!受け止めるが………


(重い!!)


木刀が折れかねない轟音が道場に響き渡り、空かず重い一撃が連続する!連続する中、片方の木刀を宙に投げると、それが陽助の頭上を舞う!


「なんだぁ!?」

「二刀流じゃねぇぞ!?」


取っ替え引っ返え木刀は頭上を舞う。油断なく、攻撃を受けながら頭上の木刀を弾く!それをいなすだけで精一杯だ。三刀出せる速さのある陽助でなければ既に手数が足りず終わっている!

しかし、フウは木刀を宙に投げたハズなのに既に手元には2本。更に投げて、合計4本。ジャグリングかのように正面と頭上で剣が舞う!


(暗器…………!袖に隠したものが飛び出している!?)

「まだですよ!まだ私は早くなれます!」


「あら、そうなんですか?なら、増やしましょう♪もっともっと増やしましょう♪」


フウは更に足を使い、体術まで仕掛けてくる!

これで攻撃は三方向攻撃だ!いくら陽助が早業に優れたとて限界があった!あまりに怒濤の攻勢に、陽助は息が上がって来る!


(ですが…………!見えましたよ!)


ようやく陽助は攻勢にスキを見つける!

しかし、次の瞬間だ。

━━━ぼすっと鈍い音がして、陽助の腹部に何かが強烈な勢いで入った。目には見えていない。

それにより、陽助は体勢を崩してしまう。


「ほっ!ほっ!」


それを瞬時に判断して、頭上の木刀をフウが弾いた。

誰が見ても明らかだ。何かが陽助に直撃したが、肉眼では捉えられない。あれで、次はトドメを刺されたはずだ。


「大丈夫ですか~?」

「参りました。えぇ、参りましたね。すみません、天風さん」


門下生一同、それを唖然と見ていた。

ただ、私は気が付いた。何度か昔、似たようなものを経験した。

あれは結構、痛い。


「陽助さん、見せて」


道着の上着をはだけさせて、直撃個所を見ると、青くなり、かなりの勢いで何かが直撃したのは分かる。問題は大きさだ。指先くらいの大きさ。


「わ!な、なんです!?マスター天風!」

「やっぱり………」


フウの腕を掴み、左手を見てみる。指先にわずかに穴が開き、それが開閉した。


「さすがマスター天風!ばれちゃいましたか!えへへ……」

「これは?」

「フィンガーショット。指先から銃弾を発射できます。あ!銃弾以外も出せますよ!?今回は圧縮した空気でしたが!」


攻撃途中にこれを織り交ぜたのだ。

さすがにこんな装備は読めない。私も知らなければ貰っていたかもしれない。


「なるほどね」


納得していると、周囲がまたざわざわとざわめき始める。


「おい」

「あぁ、そうだよな………」


「みなさん、お察しの通りかと…………」


陽助さんも、何故か諦めたように笑う。

なんだと言うのか…………


「なに?」

「天風さん、私はやられてしまったので、このままでは彼女は師範代です。」

「は?…………いや、ちょっと!え?なに!?」

「彼女がもし、あなたと戦って仮に勝てば道場は潰れます。かと言って彼女を追い出せば、彼女は他の道場で拾われ、間違いなく驚異となるでしょう。イチ、門下生としてはそれは全力で反対致します。」


そーだ!そーだ!と周りからも声が上がる。

は?ちょっと待ってよ!機械を門下生に。しかも、師範代にしろっての?

………なんか、ヤダ。


「えぇ!?私、棄てられちゃうんですか!?イヤです!ゴリラみたいなオジサンしかいない所とか行きたくありません!!」

「うるさいなぁ!お前の話なんて聞いてないんだよ!!」


涙目でしがみついてくる。

なんで、こいつはこんな人間くさいんだ。

しかし、やはり門下生達は、私よりフウの肩を持つのだ!


「天さん、ひでぇ!」

「あんな言い方ねぇだろ………」

「もう少し、慈悲があっても………」


「あぁ~っ!!もう!!うるさいよ!!決めるのは私だ!!」


そんな時、珍しく勝虎がずと前に出た。


「お願い、おねーちゃん。フウおねーちゃんを追い出さないで………」

「うーん。でもねぇ、勝虎。フウは……」

「私、フウおねーちゃんと同じ剣士になりたい」

「…………なんだって?」


耳を疑った。

あの引っ込み思案で、剣士になど不向きな勝虎が………

剣士になりたい?こいつと同じ?


「馬鹿言わないで!アレはあいつが機械だから出来る技で」

「でも、おにーちゃんが諦めたら終わりって言ってたもん!!」


涙を目に貯めながら、頬を膨らませて、必至の訴えである。

あぁ、ダメだ。直視できない。

こう言うの、苦手だ。


「これはもう決まりでは?」


陽助さんに言われて、私は観念する。

ムリだ。こんなの追い出せない。


「………分かったよ」


門下生達から「いぇ~い!!」と喜びの声が上がる!

勝虎や龍治も嬉しそうだ。


「勝虎に、剣術を教えて………」

「はい!」

「何かあったら、お前、バラすからね」


これは本気だった。

しかし、参った。本当はすぐ追い出すかどうにかする気だったのに…………。



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