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機械姫と天の風  作者: ブラボー
序章  鋼鉄の殺戮者
4/18

動け

翌日…………

彼女は目覚めないまま、与えた1室に眠り続けていた。

陽助さんは葬儀の準備を念のため取りかかり始めている。龍治と勝虎の2人には手伝いをさせて、道場も今日は休みにしてあるので誰か門下生が来ることはない。


部屋で今朝から彼女の体を拭くために濡れたタオルを手にしている。


「…………やれやれ、アンタはどこから来たのかな」


そう言って、手を取った時だった。

━━━━パキン。


音がして、手が取れた。


「…………え」


取れた手の断面からはネジや歯車やらが見え隠れしている。手首のあたりからも同じようなものが見える。


「…………………………。」


何も考えられなくなった。

なんだ、これは………。


「天ちゃん!!」


ふすまを開けて入ってきたのは柄日さんだ。


「遅かったか…………!!」

「柄日さん…………」


柄日はその場に土下座する!


「すまん!!昨日、気が付いたんだ!!そいつは機械だ!!恐らく、アンドロイドか何かだ!!」

「…………捨てましょう」


「落ち着け!捨てようたって、どこに捨てるんだ!!とりあえず預かるから………」

「柄日、テメェそれをどうする気だ………」


(口調が変わった………!?)

「落ち着けって!!どうもしねぇよ!!ただ機動すれば何か分かるかもしれねぇだろ!?」


「黙れ。家族を2度殺すなら、まずはテメェから刺身にして首を晒してやる」


(やべぇ……!完全に正気を失ってやがる!)


そんな時、ふすまのスキマから誰かが覗いていた。

…………龍治だ。龍治と勝虎だ。


「ねえちゃん…………」

「………………。」


黙ってしまう。

言葉が出なかった。


「ねえちゃん、そいつ、壊すの?」

「龍治、機械は人間じゃない。私達とは違うんだよ。平気で人を殺すものにもなるんだ。」

「…………ねえちゃん、なんか恐ぇよ」


「………………こいつらはただの武器みたいなものなんだよ」

「でも、武器は使い方でリンゴを剥く刃物にも、人を殺すナイフにもなるって陽助兄ちゃん言ってたぜ…………」


そこへ陽助も入ってくる。


「私も同意見ですよ。理由はどうあれ、中身も分からないのに、いきなり斬り捨てたとあっては道場としても、道場長としても、よくありません。ここは1度、柄日さんを信用しましょう」


「……………直せるのか?」


「保証はねぇ。だが、できる限りやる。だから3日待ってくれ。」


取り乱したものの、私は機械を柄日さんに預けた。

今思えば、諦めかけた復讐なのに何故、あんなにムキになってしまったのだろう。

━━━━剣術にも身が入らないまま、3日目を迎えた。

今日も手を合わせる。家族に。

けれど…………


「天風さん」

「……………。」

「今日はどうでしたか?」

「見えなかったよ」


「それは……………」

「陽助さん、私、どうしたらいいかな………」


弱気になっていた。

あの機械が動いたら、またみんなを奪わないだろうか?

今は昔とは違う。腕に覚えはある。それでも、この3日の間、瞼を閉じて眠るたびに思い出す悪夢。

そして思うのだ。父も適わないアイツみたいな奴だったら、私は勝てるのかと不安で不安で仕方ないのだ。


「天風さん………」


陽助さんはそんな私に近付くと、頭に手を乗せ、ワシワシと撫で回した。


「変わりませんね、アナタは。」


昔、まだ父が生きていた頃も兄弟子で少し年上の陽助さんはこうして頭を撫で回した。

遠慮無く髪をくしゃくしゃにしながら。当時は女子の髪を触るのは止めて欲しいくらいに思ったが、今はなんとなく安心する。


「きっと大丈夫です。」


ニコリと笑う陽助さんの顔を見て、なんとなく察してしまうのだ。

「今は私がいますから」そう言いたいのだと。


そして━━━━


道場の真ん中には柄日さんと、あの機械が在った。

ゴロリと転がった機械人形。壊れた右手だけが物々しいアーマーに改造されている。


「参ったな…………」


門下生もゾロゾロと集まり始めている。

そこへ帯刀した状態で到着した。


「天ちゃん…………。すまん。動かしかたは分からんかった!」

「いいえ。柄日さん、ありがとう。これで充分ですよ。」


そう言うと真横に座り、眺めてみる。

物々しいアーマーの右手以外はそのままだ。外傷が修復され、より綺麗な姿になっている。


「動け」


手をかざして、発言してみる。


「………なんてね」


立ち上がり、背を向けたその時だった。


「うぉお!?起きたぞ!?」

「天さん、すげぇ!!マジすげぇ!」


バカな!起き上がった!?

機械人形はまぶたを開き、起き上がる。

ガチガチと音をさせてやがて、こう言った。


「機動。損傷修復を確認。ありがとうございます。メモリロストを確認。申し訳ございません。記録は復旧できません。復旧にかかる時間、測定不能。マスター不在。新たなマスターを探します。」


「あ?マスター?」

「飲み屋の事か?」


柄日さんが、手を横に出して黙るように促す。

門下生達が黙る中、柄日さんは口を開いた。


「マスターはあっちだ」

「了解。マスターを確認。」


機械人形はよりにもよって私に近付いてくる!

ギシギシ音を立てていたが、次第にスムーズになり音をさせなくなる。


「登録。マスター、お名前は?」

「風間天風」


「完了。ユーミルの機動確認。解錠。」


瞳を閉じて、再び開く機械人形。

その瞳には新しく光が宿り、紅い色をしていた。

まるで命を得たように。


「ありがとうございます!マスター天風!私はロストナンバー!名前はございません!これからはあなたに尽くさせていただきますね!」


驚いたことに、機械人形は笑った。

流暢にものを話し、笑ったのだ。

……………違う。コイツじゃない。アイツはこんなに流暢に喋らなかった。これじゃ………これじゃぁ…………。


「すげぇ!!なんだこれ!!」

「アーツノイド。ロストナンバーです!みなさん、よろしくお願いしますね!」


「可愛い!!」

「まぁ、可愛いだなんて、そんな!」


「こりゃ、たまげた………。まさか動くとは!右手、どうだ?」

「違和感はありますが、慣れというやつですよ!大丈夫大丈夫!ノープロブレム!無問題もーまんたいです!」


門下生らとも普通にお話している。

これじゃあ、ただの女の子じゃない………。


「あ、マスター天風!」

「うるさい!私はマスターじゃない!」

「あらあら、マスター!どうなされました?生体デバイスは異常が見られませんよ?体調が悪いわけではありませんね!どうなさったのですか?」


「黙れ!!」

「それは困りますね!主命ですか!?」


そう言うと、周りの門下生がやんややんやと騒ぎ始める。

何をって、私への批判だ。


「天さん、ひでぇ!」

「いいじゃねぇスか!」

「心配されてるだけでは?」


クソ!なんで私が批判されるのか!

本気でイライラしてくる!


「でしたら、マスター天風!お願いが!」

「ぐっ!…………な、なぁに?」

「お名前を下さい!私、ロストナンバーで名前がないのです!」

「は!?名前!?」

「はい♪」


なんで憎たらしい機械に名前なんて!

その屈託のない笑顔をやめて!なんだか罪悪感がある!


「やだよ!!」

「せめて1文字でも………」

「あぁ!もぅ!かぜ!!ふう!!」


これにはワケが在る。何故かと言えば、一人旅をしていた時は廃屋や洞窟、野宿は沢山あった。

その度、風が吹いて思うのだ。スキマ風がうるさい。

まるでこの五月蝿さは旅の安眠を妨げるスキマ風だ。


「まぁ!自身のお名前を1文字も下さるなんて!フウは感激です!!」

「あ……………」


しまった。

自分の名前だった!


「ち、ちが」

「皆様!これからは私をフウとお呼び下さいね!」


「うぉおお!!」「ふうちゃんサイコー!!」

「サイコーかよ!!」


湧き上がる歓声の中、キラキラした目でフウはこちらを見る。


「まずは何からご奉仕しましょう!?」

「…………庭先を掃除してきて」

「はい!!」


頭を抱える私を余所に、嬉々としてフウは庭に走った。

遠くからこちらにブンブン手を振っている。


「ホウキどこですかぁあ~!?」

「……………はぁ」


頭を抱えながら、倉庫の方を指さした。

それを見て、また元気に走る。


「元気だなぁ!おい!」

「柄日さん、私は頭が痛いよ………」


━━━━……こうして、我が家に機械がやってきた。

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