ウミガラス
冷たい海の風を受けながら知也は防波堤の上を歩いていく。
海では遠くに見える高い波が穏やかに一定のリズムを刻みながら浜辺に押し寄せている。
知也は防波堤の上に腰をかけて海を眺める。
日がやっと登り始めた冬の海には、いつも通りサーファーたちが数人いる。
その中に一人の女の子を見つける。
その女の子の名前は玲奈といって、数日前に毎日海を見に来ていた知也に声をかけてきた。
波に乗って浜辺に戻ってきた玲奈が知也に片手を大きく振る。
振っていない手には彼女の体には不釣り合いな大きなボードを抱えている。
玲奈は砂に足をとられながら知也のところに走ってくる。
階段を上ってきた玲奈の息はあがっていた。
知也は玲奈に声をかける。
「また海に来てたんだね」
「君もね」
玲奈が知也に笑いかける。
知也は玲奈のポニーテールにしている、少し癖のある髪に浜辺の砂が付いていることが少しおかしくて笑う。
「見てて、今日はいい波なんだ」
それだけ言うと彼女はまた海のほうに走っていく。
知也は吸い込まれるように彼女の黒い背中を見てしまう。
彼女の背中には自信が満ち溢れていて知也のことを魅了する。
玲奈が海に入ってパドリングをしながら沖に出ていく。
四つほど波を玲奈が見送った時、玲奈がいるよりも沖から高い波が来るのを知也は見た。
「来る」
知也の口から思わず声が出たとき玲奈が知也のことを見ていくよと言った気がした。
玲奈がその波に乗って立ち上がる。
彼女は海の中を飛んでいた。その波を捕まえて高く空の上を泳いでいるようでもあった。
波の中で玲奈のポニーテールが後ろにたなびいているのが知也にはやけにかっこよく見えた。
「ウミガラス」
玲奈にはまさにその言葉が似あう。
黒いウエットスーツを着て海の中を自由に飛ぶ姿はまさにその言葉に似つかわしいものだ。
玲奈が浜辺について和也に手を振る。和也が手を振り返すと玲奈はピースをして屈託なく笑う。
彼女がまた海へと泳いでいく。
そうして彼女はまた海の中を飛ぶのだ。
ウミガラスというのはおそらく方言で祖父と祖母の世代の人からしか聞いたことがありません。
サーファーという意味なのですがなんだかかっこよくてこの言葉がすきです。
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