常連さんとバイトの私
「………」
「レーヴァンちゃん、今日もかわいいね。」
「………」
「その冷めた目もいいね!」
「………」
「む、無視されても私はあきらめないよ!」
現在、私が無視しているお客様はこの店の常連さんです。
週に4回はこの喫茶店に出入りしているお客様なのですが、
「ね、ねぇ?無視しないでよぉ。」
このように情緒不安定なのです。
怒り始めるということはないのですが、笑っていたと思ったら突然泣くというよくわからない女性なのです。
「レーヴァンさん、相手は一応お客様です。気持ち悪いと思っていてもちゃんと接客するように。」
「はい。」
「私はマスターの言葉が心に刺さったよ。」
お客様の名前はジゼルというそうです。
この方は見た目は男性のようですが、女性です。
可愛いものが好きと言っているのですが、なぜか可愛くもない私に絡んできます。
以前マスターにこのことを聞いた際には、
『レーヴァンさんは自身の顔を見て行っていますか?』
と、言われました。
私の顔は普通のどこにでもいる村娘の顔なのですが…
「ね、ねぇ、レーヴァンちゃん、せ、接客してくれないの?」
「あ、忘れていました。」
「忘れられるほど私の存在は薄いのか…」
「ご注文はいかがなさいますか?」
「カフェ・オ・レをお願い。」
「ストレートですね?」
「ちょ、私の注文は無視されるの!?」
「レーヴァンさん。」
マスターに叱られそうなので、
「冗談です。ご注文はカフェ・オ・レですね?かしこまりました。」
私はマスターのもとに行き、注文を伝えると、ほかのお客様のもとに向かいます。
「レーヴァンお姉ちゃん、こんにちわ。」
「コアちゃん、こんにちわ。ご注文はいかがなさいますか?」
「う~ん、今日はブラック、砂糖は抜きでお願い。」
「かしこまりました。」
マスターのもとに向かい、注文を伝え、ジゼルさんのもとにカフェ・オ・レを持っていく。
「お待たせいたしました。ご注文のカフェ・オ・レです。」
「待ってました!」
「ジゼルさん、お静かに。」
「はい…」
私が静かにするように言うと、おとなしくちびちびとカフェ・オ・レを飲み始める。
カフェ・オ・レはジゼルさんがこの店でよく頼むコーヒーです。
いつもおいしそうに飲んでいるのはいいのですが、
「ちら、ちら…」
いつもこちらをちらちらとみてくるのです。
少し鬱陶しいですがまぁいいでしょう。
コーヒーができたと思ったので、マスターのもとに向かうと、
「まだできてないから、コアちゃんのところに行ってきてくれないかな?」
「分かりました。」
私はコアちゃんの話し相手になるため、コアちゃんに近づくと、
「ん?レーヴァンお姉ちゃん、どうしたの?」
「コアちゃん、今ひま?」
「暇ではないよ。私、魔法辞典読んでるから。」
「………コアちゃんって何歳なの?」
「6歳だよ。」
「そう。……コアちゃん、魔法好き?」
そう尋ねると、私の方を向き、キラキラした目で、
「うん!」
そう言って、話が終わるかと思ったのだが、
「私、今、複合魔法について勉強してるの。2つの魔法を1つにするのは本当に難しいけど、使えるようになったらカッコいいと思ってるの。」
コアちゃんがキラキラした目で楽しそうに複合魔法について話してくれる。
「だけど、複合魔法の無詠唱は誰もなしえていないことなの。だから、私が最初に複合魔法の無詠唱をできるようになりたいの。」
ここで私はあることを言ってしまう。
この言葉が面倒ごとを呼び込むことになるということを知らずに、
「複合魔法の無詠唱ならできるけど。」
「………今なんて言いましたか?」
コアちゃんの目つきが猛禽類のような目つきに変わりました。
普通に怖いです。
怖がっている私を無視して、コアちゃんは、
「今ここで使ってください。」
「え?な、なにを?」
「複合魔法の無詠唱です。まさか、出来ないということはありませんよね?」
物凄い圧力に潰されそうになりながらも何とか頷く私だった。
「はやく使ってください。そうですねぇ。氷の魔法と炎の魔法を合わせた竜巻を作ってもらいましょうか。もちろん小さくしてもらいますよ。店内に被害が出ても困りますからねぇ。」
コアちゃんが怖い!
コアちゃんってのほほんってして、ちょっと大人びたところがあって、基本おとなしい子のはずなのに、
「どうしたんですか?まさか、出来ないということはありませんよね?」
「じゃあ、いくよ。」
私はこんな荒んだコアちゃんを見たくなかったので急いで複合魔法を発動させる。
炎の火力を少し弱めて、氷の勢いを強める。
「できたよ。」
私は手のひらの上に小さな炎と氷が混ざった竜巻を作った。
「………そ、そんな、ことって…」
ガクッという音が聞こえるほどの勢いで膝をつくコアちゃん。
「ど、どうしたの?私、ちゃんとやったよ。」
コアちゃんは顔をバッとあげて、
「レーヴァンお姉ちゃん!」
「は、はい!」
「私を弟子にしてください!」
「…え?」
「私の身近にこんなにすごい魔法使いがいるとは思いませんでした!私は強くなって、帝国騎士団に入りたいのです!」
私は頭をコアちゃんにがくがくと揺さぶられながら話を聞いている。
「お願いします!どうか私を弟子にしてもらえませんか?強くなりたいのです!」
弟子にするのはいいけど、帝国騎士団に入りたい理由を聞きたい私は、なんとかコアちゃんの両手を掴み、頭を揺らすのを止める。
「弟子にするのはいいけど、どうして帝国騎士団に入りたいの?」
「ん?そんなことは決まっています。老後を楽して生活したいのです!」
「コアちゃん何歳なの?本当は30歳くらいじゃないの?老後のことはもう少し先に考えるものよ。6歳児が考えるようなことじゃないと思うよ。」
「私は正真正銘6歳です!初めは商人になろうと思いましたが私にそんな金勘定ができる頭は持っていません。だからこそ、力があればある程度までは昇進できる騎士団に入りたいのです!」
「そ、そうなの。(可愛いころのコアちゃんはどこに行ったの?)」
私は実に悲しい。
こんな幼い子供までもがこのような現実的なことを考えるようになるなんて。
私は何としてでもコアちゃんの考え方を変えたいと思いました。
ということで、
「コアちゃん、あなたを弟子にすることにします。」
「ほ、本当ですか?」
「はい!」
「やったあああ!」
コアちゃんの身近にいれば、魔法を教えている最中に今のコアちゃんの考え方を変えることができるかもしれない!
早速マスターに休みの交渉をしようとする。が、
「そうですか。それはよかったですね?」
「はい。」
ジゼルとマスターが仲良く、仲睦まじく、スキンシップ(幻覚)をしながらイチャイチャしている(幻覚2)ではありませんか。
なんでしょうか、この胸の中に渦巻くこの感情は………まさか!これが怒りというものですか!(違います)
マスターとジゼルのもとに向かい、
「マスター。」
「どうしま、した、か?な、なんでしょうか。レーヴァンさん、迫力がすごいですね」
「休みをもらいたいのですが…おもに火の日と土の日に。」
「構いませんが。あの、気付いていないと思いますが、ジゼルさんの頭を潰しかけてますよ。」
「い、痛い!あ、頭が、わ、われ、る………」
「「「あ…ジゼルさん!」」」
こうして私はコアちゃんを鍛え、考え方を改めさせるために休みと弟子をとることにしました。
ちなみに、ジゼルさんは休憩室で休むことになりました。
恐ろしいですね。
無意識とはいえ、まさか、ジゼルさんの頭を潰しかけるとは………私も鍛えなければなりませんね。