第三話「形勢逆転」
ごつごつした岩に背中を預けながら俺は思った。
無事に帰れたら部下に背中をマッサージさせよう。
もうかれこれ小一時間になる。
側面から敵を襲撃するという考えは悪くなかった。結果としては大した反撃もなく鎮圧は完了した。
問題はそのあとだ。
「うおっ!あぶねっ!」
飛んできた赤い光の玉が近くの木に触れた。すると辺りに酷く焦げ臭い匂いが広がる。光の着弾点はなんと木を焼くのではなく溶かしていたのだ。あんなのが人に当たるところは想像もしたくない。
そもそも魔王軍は実弾を用いた銃を使っているというのに帝国軍は魔法かよ。それってなんかずるくない?
「くそっ!魔王様!ここは我々が体を張って盾になりますのでその間に後退してください!」
「おい待て、早めるな!我々がなぜこんな最前線で敵に包囲されながら籠城を続けるのか考えてみろ」
二人の部下たちは困惑した表情を浮かべる。
側面を完璧に叩いた魔王軍だったが、敵主力別動隊が急遽引き返し主力部隊と合流したことにより一気に形成が不利になってしまったのだ。
敵の情報伝達の早さにも驚いたが、現状で危惧すべきは敵戦力との差だろう。魔王軍が五千に対し帝国軍は六万。そしてもう奇襲は通用しないと考えたほうがいい。
不利な戦力差を少しでも埋めるため再び森に入りゲリラ戦に持ち込んだ。
そんな絶望的な状況でポジティブに考えろという方が無理な話だ。現に俺も今必死に頭の中で作戦を立ててはいるが浮かんでは没、また浮かんでは没を繰り返している。
部下の不安を煽らないためにも早急に打開策を考案する必要があるな……。
「捕虜を解放しよう」
「え?」
「すでに捕虜には我々の戦力では帝国軍に歯が立たないことが知られているはずだ。だからこそ開放するのだ。今すぐ解放してきてくれ」
「は、はい!」
奇襲を仕掛け、敵の包囲網を崩した魔王軍には戦う以外の選択肢があることに気づいた。まず捕虜の解放をしてこちらの戦力を敵に伝える。するとゲリラ戦が煩わしい帝国軍はおそらく全軍でこちらを踏みつぶそうとしてくるだろう。そこで魔王軍は全装備を外し全力で森から撤退する。物資が帝国軍に渡るのは痛いが、荷物を抱えながら敵の追撃を振り切るのは不可能に近い。だがこちらが身一つで動くのならば機動力は断然こっちのほうが上だ。帝国軍に捕虜の情報が伝わったと同時にこちらも動くとしよう。
「魔王様、敵の攻撃が止んだようです」
「全軍に伝達。我々はこれより首都に向け撤退作戦を決行。全武装を解除した後各隊は南東より迂回ルートで撤退に移れ。この作戦はスピードが命だ。各隊迅速に行動するように」
これでうまく敵さんが釣れれば完璧だ。なんせこっちは魔王という最高級の餌を用意してるんだ。釣れてくれないと逆に困るがな。