第二話「奇襲」
俺の目論見通り南東の敵は油断していた。これは想像以上の成果だ。
敵はこちらが森から出て南東に向かってくるなんて予想もしていなかったのだろう。こちら側の戦力を一切減らすことなく敵の無力化に成功した。いつの間にか自陣に敵が入り込んでいることを知った帝国軍は真っ先に気絶させられたため、騒動を友軍に知らせることが帝国兵は一人もいなかった。
それにしても俺の部下たちは揃いもそろって優秀だ。一人も殺すことなく素手で締め上げて敵陣を鎮圧したのだ。迷彩柄は伊達じゃない。
「魔王様、作戦成功ですね!」
幼い見た目ながら今回の作戦で先頭に立っていた副官が俺はほんの少し怖くなった。自分よりも若い少年が二メートル近い大の男を素手で殴り倒したのを見てしまったのだ。無理もない。
「このまま次の作戦に移行する。捕虜は動けないようにきつく縛り上げておけ。次は部隊を三つに分ける。一つは森から敵と交戦する囮部隊だ。あとの二つはそれぞれ北東と南西の敵を側面から叩く。今回みたいに敵は油断していないから負傷者が出るかもしれない。だがこれだけは言っておく。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。これを全部隊に伝達し、隊を分けろ。十分後に作戦開始だ」
魔王という立場を利用して偉そうなことを言ってはいるが、俺自身戦闘能力に関しては皆無のためみんなが戦っているのを眺めていることしかできない。
そもそも夢の中で死んだ場合、現実世界の俺はどうなるのだろうか?これまで様々な検証を行ってきたがそれだけは未だに検証することができないでいる。恐らくこれからも確かめることはできないだろう。
だがこれだけははっきり言える。
無くなってもいい命なんてない。敵も味方も一人の人として敬うことは戦いの中であっても忘れてはいけないのだ……と。