第一話「絶体絶命」
目を開けるとぼろぼろの薄汚れた布でできたテントの中だった。
またこの夢だ。俺はそう思った。
数日前から決まって毎日同じ夢を見続けている。
「魔王様、味方は森で立て篭もりながらゲリラ戦を繰り広げていますが敵はあまり深追いはしてこない様子から包囲することが目的と思われます」
目の前の男は寝起きの俺に敬礼をしながら早口で告げる。
俺の中では魔王っていうのはもっとこうファンタジーなイメージで勇者の前に立ちはだかる悪の存在なのだが、この男はなんで迷彩柄の衣装に身を包み背中に銃を背負っているのだろうか。例えるならどこかの国の軍隊だな。
よく見ると周りもそうだ。杖を持った魔法使いっぽいやつやツノを生やした魔物みたいなやつは一人もいない。みんな迷彩一色だ。
「詳しい話はあとで聞く。下がっていいぞ」
「はっ」
魔王と呼ばれるだけあってここでは一番偉いらしい。
「魔王様、そろそろと思い幕裏で待機させていただきました」
「副官か、例の件は調べてくれたか?」
副官と呼ばれた男はやはり迷彩を着ていたが、兵士と呼ぶには若すぎた。見た目だけでいうならば十四歳ぐらいだろうか。この周辺の地図と思われる紙を広げて説明を始める。
「我々は現在、南方のこの森でゲリラ戦を展開中です。一方帝国側は森を包囲し敵主力の別働隊が北西方面の我が首都へ進軍中です。我々も首都進軍を阻止したいところですが森北西方面には敵主力部隊総勢一万はいると予想されます。さらにその先にいる別働隊は二万。対してこちらは全部隊合わせて五千。いかがいたしますか」
この数日でもう一つ分かったことがある。それは俺が率いる魔王軍が敵対する帝国軍に対して恐ろしく劣勢であるということだ。
「副官、君ならこの現状どう対処する」
「はっ、私ならどうにかして北西方面を突破し首都軍と我々で別働隊を挟み撃ちにすると考えます」
「どうにか突破ってどうやるのかが明解になってないし仮に突破できたとしても挟み撃ちにする前に敵がこっちに引き返してくるはずだ」
「はぁ……それでは魔王様はどのように?」
副官は困ったように首を傾げている。
たしかに戦力で負けているのならば挟み撃ちにして敵の混乱を誘うしかない。だがそれは敵の不意を突けた時だけだ。戦力で負けているならば確実に不意を突く必要がある。そのためにまずは森を包囲している帝国軍を壊滅させる必要がある。
「まずは首都とは反対側の南東の敵を全戦力を持ってして打ち破る」
「なぜ首都と真逆の南東なのでしょうか……」
「一刻も早く首都防衛に向かわなくちゃいけない今、最短ルートを通る必要がある。だがな、敵も同じことを考えているはずだ。そしてこうも思うはずだ。『首都の反対側になんて来るはずがない』とな。その油断している敵を一瞬で壊滅させる。敵にこの情報が伝わる前に森を包囲している帝国軍を側面から叩く。この作戦だと休む暇がないがこれぐらいできなければ倍の戦力に勝つことは不可能だろう」
とか偉そうなことを言ってみたものの今の作戦が正しかったのかは分からない。自分だったらこう考えるなんてものは結局は憶測にしか過ぎないのだから。
だが副官は顔を輝かせながら何度も嬉しそうに頷いていた。
「さすが魔王様!これならいけますよ!それで作戦はいつ決行いたしますか?」
自信がないとはいえ、自分の知識が試せる絶好の機会だ。ここは臆さず魔王様としての責務を果たしてやるか。
「副官君、思い立ったが吉日という言葉を知っているかな?全軍作戦開始だ!」