翻訳魔法
「......じ、じゃあ、このスライムはこのまま一生俺の胸元から離れないのか!?」
もし、そうだったら絶望もんだぞ...。
スライムはあまり重くないとはいえ、流石にそれはきつい。街には入れなくなるだろうし、戦闘(逃走)の際には負担になる。
...デメリットしかないじゃねぇか。
≪......そんな深刻そうな顔して何を言い出すかと思えば、そんなわけないでしょ。君が一言命令すればすぐ離れるわよ≫
な、何だとっ!?
「ど、どうやって命令すればっ!?」
≪フツーに日本語で「離れろ」って言えば良いじゃない≫
「なっ!?ス、スライムに人間の言葉が...しかも日本語が通じるのかっ!?」
≪うん≫
ば、ばかな。異世界なのに日本語が通じるだと!?全く文化が違うと言うのに!?
ス、スライムに聴覚があるというのか!?耳なんて存在しないのに!?
≪残念だけど彼らに日本語は通じないよ。スライムに聴覚があるっていうのは合ってるけど≫
「じゃあ何で日本語で命令が出せるんだよ!異世界には異世界の言語があるんじゃないのかっ!?」
≪人間が言語を教えてもらわずに1人で学んで完全に覚えれるまで何時間必要か知ってる?≫
「話逸らすなよっ!」
≪答えは2480時間から2720時間。1日3時間勉強したとしても2年半必要≫
「それがどうし......」
そこでようやく俺は神の真意に気づいた。
≪君は2年半の間、誰とも会話できなくても精神が壊れないと言い切れるのかい?無理だろう?私と話せば多少は気が紛れるかもしれないが私はこれでも神だからね。年中、君の話し相手になってあげることは不可能だ。しかし、それでは言語を覚える前に精神が崩壊してしまう可能性が高い。だから━━━≫
「━━━だから翻訳、いいや、翻訳魔法を転生人に掛けたってことか」
≪......相変わらず変なとこで鋭いね。だけど、出来れば最後まで説明させて欲しかったよ。空気読んで欲しい≫
俺がそう言うと神は残念そうに呟いた。
???
空気に何か書いてあったのか?どうやって読めばいいんだ?読み方を教えて欲しいのだが......
≪そういう意味じゃないし......ホント賢いのかバカなのかはっきりしてよね!≫
神に怒られた。
◇ ◇ ◇
神の言った通りスライムに「離れろ」と命令したところ、いくら引っ張っても離れなかったスライムは簡単に離れてくれた。
スライムは名残惜しそうにこちらを見ていたが、俺は見て見ぬふりをした。
スライムを胸元から離してから俺は森を歩き始めた。もちろん、魔物に見つからないように隠れながらだ。そんな俺の後ろをピョンピョンと身体を地面に跳ねさせながらスライムはついてきていた。1列縦隊のその姿はまるでドラ○エのようだ。もっとも、か弱い少女とスライムっていう見るも無惨な雑魚パーティーだが......。
そんなこんだで森を歩き続けること2時間。
地図も持ってないのにそんなにデタラメに森を歩いていて良いのか?と思う人もいるだろうが、それは大丈夫だ。
お忘れかね?私たちには神が付いてるのだよ!(メガネくいっ)
そう。俺たち(?)は神の導くままに森を進んでいた。どうやら神の力とか言うやつで目的地までの道程が分かるらしかったので、その道程をナビしてもらっていたのだ。
しかし、町まではかなり遠いらしく、まだ森は抜けれそうになかったが、空は夕日で赤く染まっていた。多分あと1時間もすれば完全に闇に閉ざされるだろう。
夜の森は危険だ。頼れる明かりが星の輝きだけとなり、昼間のように周囲を確認できないからだ。
だが、闇に閉ざされた時こそがチャンスだと俺は考えていた。何故なら魔物は前にも言った通り殆どが昼行性だからだ。
夜に活動している魔物は殆どいない。だから夜の方が森を歩きやすいと思っていた。