神級魔法
ギューッ。
俺はスライムを胸元から離そうと両手を使ってスライムを引っ張るが、スライムの貼り付く力の方が強く全く離せなかった。
もっともスライムが貼り付いていたのは服であるため、服を脱げば離せるのだが、今の俺の身体は女子であり男子ではないため、そんな真似は出来なかった。
もちろん、スライムに攻撃の意志があるならば羞恥心など気にせずパッと服を脱いだのだが、何故かこのスライムには攻撃の意志というものが無かった。
さっきまで俺を殺そうとしてたハズなのに、何があったんだ?
心当たりが無いわけではない。むしろありまくりだ。多分、原因は神様が俺に使わせたあの魔法だと思う。
「......おい。神、お前、俺に何を使わせた?」
俺には『話を誘導して真実を喋らせる』とか、『相手の心を探るとか』そういった高等テクニックはない。だから単刀直入に聞いた。
≪魔法だよ≫
やはりさっきのあれは魔法だったか。だが、俺が求めているのはそんな回答ではない。
「━━━何の魔法を使わせたんだ?」
≪君が使った魔法は催眠系神級魔法【魅力】だよ≫
「神級魔法って?」
≪その名の通り神にしか扱えないっていうレベルの魔法の事だよ。神級って呼ばれる魔法はどれも規格外の力を持ってるんだ。
例えばさっき君が使った【魅力】は相手の恋心を無理矢理自分に向けさせるっていう魔法なんだ。弱ってる相手にしか効かないのが玉に傷だけど...。
どう?規格外でしょ!まぁ、その分、魔力の消費が激しいけどね。多分君の魔力じゃ1日1回が限界なんじゃないかな?≫
淡々と魔法の説明が頭に流れ込んでくる。
耳で聞いている訳じゃないため一文字一文字が直接脳に記憶されていく。お陰ではっきりと理解ができた。
だが、一つ疑問に思ったことがある。
「神級魔法がすげえのは分かった。だが、どうして俺はそんな魔法を使えたんだ?」
≪は?君が言ったんでしょ?≫
え?
≪君、言ったじゃん。『俺を誰からも愛されるようにしてくれ』って≫
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?
えっ!?何々!?何ですかっ!?愛っていうものは神級魔法に頼らないと手に入らないほど入手困難なもの何ですかっ!?それとも神級魔法を使わなければいけないほど俺の顔面終わってるんですかっ!?」
俺はまだ転生してから自分の顔を見たことがない。だから自分の顔がイケてるのか終わってるのか分からない。
だが、もし返答が後者だったら死ぬ覚悟はできている。だって誰からも愛されないような不細工に生きてる価値無いもんな。
≪いやいやいやいや、不細工じゃないって。君は何もしなくても男女問わず世界中の人から全身あらゆる所をペロペロしたいと思われるくらいめちゃくちゃ美少女だから安心してっ!≫
いや、それはそれで何か嫌なんですが。ペロペロされたくないのですが...。
「じゃあどうして神級魔法が俺には使えるんだよ!?」
何もしなくても世界中の人から愛されるなら要らないじゃないかっ!
≪だからぁ!君が言ったんでしょ!『俺を誰からも愛されるようにしてくれ』って。確かに君は何もしなくても人から愛されるよ。だけど魔物には愛されない。魔物は人間に恋しないからね。
だから私は君に神級魔法を授けたんだよっ!君が魔物からも愛されるためにっ≫
「魔物からは愛されたくねぇよっ!」
胸元のスライムを引っ張りながら呟く俺。
対するスライムは離れるものかと更に強く貼り付く。
た、確かに、スライムかわいいけど......リスク大きすぎるんだよな。危険だし、魔物だから町にも連れていけないだろうし......。
やっぱりスライムは自然に返すことにしよう。
「...なぁ神」
≪何?≫
「【魅力】ってどうやって解くんだ?解き方を教えてくれよ」
≪そんなの無いわ≫
へ?
≪神級魔法が解けるわけ無いじゃない。一生かかっても解けないから神級魔法って呼ばれてるのよ?≫
......開いた口が塞がらないとは今の俺のような状態の事を言うんだなって思った。