転生場所
ま、眩しい。
瞼の奥からでも感じる光に仰向けからうつ伏せへと姿勢を変えようと身体を動かした。
ザワリッ。
何かが身体に触れた。
これは何だ?
手を動かして確認してみる。
ザワリッ。
また触れた。今度は引っ張ってみる。
ブチッ。
何だ......草か。あれ?俺って外で寝てたっけ?
...ここどこだ?
俺は目を開けた。
そこで、俺は記憶を取り戻した。
目の前に広がる光景を見て記憶を取り戻した。
「...おい、神、これはどういうことだよ」
俺の周囲には、三頭身ほどで目玉が1つしかない人形の生物が大量にいた。
俺は直感で察した。こいつらは魔物だと。
そう。俺は魔物に囲まれていた。
◇ ◇ ◇
「━━━くそっ!くそっ!何でこんな目に遭わなきゃいけないんだよーっ!」
俺は全力疾走していた。
草原を馬のように凄まじいスピードで駆けながら叫んでいた。
走りながら、チラリと背後を振り返る。
4体の魔物が見える。
「ち、くしょーっ!まだ追いかけてきてやがるっ!
あの神、次合ったら死ぬまでぶん殴ってやるっ!」
大事な体力を無駄に消費すると分かりながらも俺は叫んだ。
≪えー......それはやめて欲しいかな≫
突然、俺の頭に直接声が入ってきた。
━━━て、この声はあのくそ神じゃねぇかっ!
≪相変わらず口が悪いね...いや、口で話してないから脳みそが悪いと言うべきかな?≫
それただの悪口だからねっ!?暴言だからねっ!?
≪あはっ。やっぱ君は面白いよ。ところで気になったんだが、何で走ってるんだい?≫
ブチン。血管が切れる音がした。
「お前のせいじゃねぇかっ!転生した先でいきなり魔物に囲まれてるとかどんなプレイだよっ!お前はあれか?Sですかっ!?ドSなんですかっ!?」
喋らなくても話は通じるのだが、ついつい叫んだしまった。
いや、叫ばずにはいられなかったと言うのが正しい表現だろう。
≪え、Sじゃないよっ!てか、君もう一度聞くけど本当に10歳未満だよねっ!?なんでSとか知ってるんだよ!?≫
「おい!話脱線してるぞっ!」
≪あ......ごめんごめん。転生場所についてだったね。実はね、転生場所はランダムに設定されるんだ。だからまぁ、君は運が良い方だよ。20年前に転生した子に比べればね≫
これで運が良い方だとっ!?そんなバカなっ!?俺より転生場所が悪い所なんてあるのかっ!?
「い、一応聞いておくけど、20年前の子はど、どこに転生したんだ?」
≪火山の火口≫
うひゃぁぁぁぁぁあ。
それ完全にアウトだろっ!転生した瞬間に死亡とか可哀想すぎるだろっ!?
って、あれ?
気づけば、いつの間にか草原を抜けていて、俺は森の中にいた。
ゆっくりと後ろを振り返る。
と、そこで俺は足を止めた。追ってきていた魔物が1体も居なくなっていたからだ。
走ってから急に足を止めると身体に悪影響が及ばされるとか聞いたことがあるので俺は歩きながら呼吸を整えることにした。
「......はぁ......はぁ。やっと...諦めてくれたか」
呼吸を整え終えた俺はその場にペタンと座り込んだ。
そういえば、この世界での怪我は自動で回復するのだろうか?
ふと疑問に思った。よくよく思い出すと、ゲームのHPも自動で回復しないことに気がつく。
もしかしたら異世界では、前の世界みたいに自動で傷口が塞がったりしないのかもしれない。
どこも怪我してないよな?俺は身体に傷がないか全身を隈無く見ることにした。
よし。腕に怪我無し、足に怪我無し、頭に怪我......あれ?俺って髪の毛こんなに長かったっけ?先程までは魔物から逃げているのに精一杯で気付かなかったが髪の毛が異様なまでに伸びていた。しかも、光さえもを吸い込む自慢の黒髪が黄金の輝きを持つ金髪へと変わっていた。
何故だろう。超嫌な予感がする!
俺は咄嗟に自分の胯間部に手を伸ばした。
そして気づく。息子が存在しないことに。
代わりに女にしかないとされているあれがあった。
「なんじゃこりゃああっ!おい神!説明しやがれっ!」
悲鳴にも似た声で叫ぶ俺。
ここが町じゃなくて人が居ない森で良かったと心底思う。神の声は俺の頭に直接入ってきているようなので他の人には聞こえないらしかった。つまり、端から見れば1人で叫んでるように見えるってことだ。誰かに見られたら完全に変態扱いされるだろ…。
≪あれ?言ってなかったっけ?じゃあ今言っとくけどこの世界に転生すると女になるんだよ~≫
何でだよっ!?
「何でだよっ!?」
≪えーっとね、この世界の男女比率は8:2で男の方が多いから、バランスを保つために転生した人は必ず全員女になるようにしてるんだよっ!≫
「それを先に言えっ!」
静かな森の中、俺の怒声が響き渡った。