転生
あれから1時間が経過したと言うのに少女はまだ泣いていた。
「......ぐすっ...ぐすん...」
あー、うぜえ!
気が長いとされる(自称)俺も流石に1時間も泣かれるとイライラしてくる。
「おい、いつまで泣いてるんだよ!あと五秒以内で泣き止まないと話聞かねぇぞ」
俺の言葉に、少女が小さな声で呟いた。
「......ないもん」
へ?
「泣いてないもん!」
少女は涙でグショグショになった顔を拭いて立ち上がった。
いや、泣いてただろ...。
◇ ◇ ◇
「...で、お願いってなんなんだ?」
「よくぞ、聞いてくれた!」
何か急にクールぶりだしたぞコイツ。
「━━━今更クールぶってもさっきの印象が強すぎるから無駄だぞ?」
「う、うるさいやい!」
『やい!』とか、ワロタ。
「はぁ...君と話してると全然話が進まないな」
「お前がいちいち反応するからだろ?」
「何で私のせいになるんだ...」
肩を落として落ち込む少女。
「いや、全般的にお前のせいだろっ!
━━って、ほらっ!またお前のせいで話が脱線したぞ」
「だから全部私のせいにするのはやめろ!
......まぁいい。本題に入るぞ」
キッと少女の表情が変わった。
真剣な表情の少女を前に思わず俺はゴクリと唾を飲んだ。
「実は君には異世界に転生してもらいた━━━」
「却下」
「え......」
即答。
あまりの返事の早さに唖然とする少女。
やがて気を取り戻したのか少女は表情を変えて俺の胸ぐらを掴んだ。
「......何で!?普通異世界に転生できると聞いたら二つ返事でOKしか答えないでしょ!?剣と魔法が交わる世界なんだよ!?興味あるでしょ!?」
「全然微塵もないよ」
俺の答えに少女は俺の胸ぐらから手を離しガクリと膝をついた。
何か変なことでも言っただろうか?いや、言ってないだろ。
「......嘘でしょ...。あっ......。記憶の事を心配してるなら大丈夫だよ!記憶は無くならないから」
「そういうことじゃない」
「...なら何で!?」
今にも泣き出しそうな少女に俺は淡々と告げた。
「俺は生きたくないから自分から死を選んだんだ。なのに転生?バカじゃねえの?」
少女は俺の言葉に目を丸くした。何を言ってるか分からないと言いたげな顔だ。
まぁ、分からないだろうな。
「ど、どうしてあなたは生きたくないの?」
少女は独り言のように小声で呟いた。
「お前こそ、どうして俺にそこまでこだわるんだ?異世界に転生したいやつなんて沢山いるだろ?」
少女は正座をしながら顔を暗くして言った。
「...彼らは転生させることが出来ないの」
「━━それは何故だ?」
「......さっきも言ったけど転生の際には記憶は無くならない。例えば莫大の知識を持った大人が異世界に転生したらどうなると思う?自分の中の常識が通じない異世界に転生したらどうなると思う?」
「どうなるんだ?」
考えても俺のちっぽけな脳みそでは思い付きそうにないので答えを直接聞くことにした。
ちなみに関係ない話だが、俺は宿題は答えを見ながらやるタイプだ。おっと勘違いするなよ?答えを丸写しにしてるわけではないぞ?ただ途中式が合ってるか心配で確認しているだけだからなっ!
━━━本当に関係ない話だった。
少女はそんな俺の態度も気にせず言葉を続けた。
「━━━ストレスが溜まって精神が壊れるんだよ。
だから転生は常識があまり身に付いてない15歳以下の子供にしか出来ないんだ。だけど15歳以下の子供は年間何百万人と亡くなっている。流石の私にも、それだけの人数を転生させることは出来ない。だから転生するための条件を出した。それは━━━」
「それは誕生日の前日に日本で自殺した15歳未満の子供だけ......なんだろ?」
俺の言葉に、少女は驚き目を見開いた。
「君、ホントに9歳?実は背中にファスナーとかが付いてて開けるとオッサンが出てくるパターン?」
失礼な!確かに俺は『言動が子供のものじゃない』とか『発想が小学生離れしてる』とか『精神年齢が高い』とかよく言われるけどオッサンはないでしょうっ!
心の中でそうツッコミながらも俺は話を進める。
「で、転生できる人数を抑えたわけだが......逆に抑えすぎてしまったって訳か。まぁ、誕生日の前日に自殺するやつなんてほぼいないもんな。年間1人......2人いれば多い方か。
だからこそ『数少ない条件を満たした人間』、つまり『選ばれし者』の俺をどうしても異世界に転生させたい。違うか?」
少女はコクンコクンと頷き肯定した。
良かった合ってたみたいだ。間違ってたら恥ずかしさで死んじゃうとこだったよ。って、私既に死んじゃってるんでしたぁ~ヨホホホホホ~。
...はい、言ってみたかっただけです。すみません。
てか、コイツ黙っていると意外と、かわい......まて、俺今何て言おうとした?コイツがかわいい?
ついに俺の目も腐っちまったか...。
「...君ホントに失礼な奴だな。本気で天罰降しちゃってもいいかな~?いいよね~!」
何か少女が一人言を言い始めた。はっきり言って怖いです。
「よし降そう!」
「まぁ、落ち着いて座れよ」
スクッと立ち上がった少女を俺は必死に宥める。
「これが落ち着いてられるかっ!?」
「転生してあげるって言ってもか?」
俺がその言葉を言った瞬間、少女は従順な子犬みたいに即座に命令に従い、ちょこんと床(?)に座った。
切り替え早すぎだろ。
「で、で、ホントに転生してくれるのかっ!?」
「ああ。まぁ、条件があるけどな」
「でも、どうして急に転生する気になったんだ!?」
やはり、それを聞いてくると思ったぜ。
まぁ、口で誤魔化してもどうせ心読まれればバレるんだから全部言っちまうか。
「......俺は選ばれ者って単語に弱いんだよ。何か選ばれし者ってすげぇ称号だし、かっこいいし!!!」
ドヤァ。とキメ顔を決める俺に少女は「......うわぁ」とドン引きしていたが見なかったことにしよう。
「君は中二ってヤツだったのか...いや、その年では中二っていうより小二だな。
ま、まぁ君がやる気だしてくれたなら何よりだ!それと条件だが何でも言ってくれ!私は神だ。何でも叶えるからよ!」
さっきまでの表情を瞬時に変え、目をキラキラさせて俺の顔を覗きこむ少女。
てか、年頃の女の子が『何でも叶える』とか言ったらダメだろ。俺が性欲の高い人だったら餌食になってたぞ。
...僕は小学生だから何の餌食かは言えないけど。
そんなことを考えていると少女は俺の考えを読み取ったのか
「あっ、エッチぃのは無しね!」と言ってきた。
エッチぃことなんてするかバカッ!
「で、条件なんだが...」
「うんうん。」
「俺を誰からも愛されるようにしてくれ」
少女は、こちらをキョトンとした顔で見て、顔を真っ赤にした。
「ん?どうしたんだ?」
「そ、それって私からも愛されたいってこと!?や、やっぱり私のことが......」
「なわけあるかぁ!お前の安っぽい愛はいらねぇよっ!」
「ひどっ!?私これでも一応神なんですけど!安っぽく無いんですけどっ!」
少女は何故か悔しそうにう~っと小さく唸った。
「で、どうなんだ?俺の条件は叶えてくれるのか?」
「うん、『神を滅ぼす力が欲しい』とかだったら逆に一蹴してやったけど、それならOK、かな」
「おお、マジか。ありがとう!
ところでずっと気になってたんだがどうやって転生するん━━━」
そこまで言ったところで俺は足の下に巨大な魔方陣があることに気づいた。
な ん だ こ り ゃ ! ?
まさか、まさか...これで異世界に!?
「うん、その通りだよっ!では行ってらっしゃいっ!また会おうね~!」
パァァッと魔方陣から青白い光が漏れだした。
た、確かに初旅は急に始まるとか言うけど、これは急すぎるだろっ!
「待って!まだ心の準備ができてないって!せめてあと5分待って!」
「無理で~す」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
魔方陣より溢れた光が俺の体を包む。
そして、ぐにゃりと世界が歪み、俺は気を失った...。




