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手紙


あれから私は幾度も彼を

私の喫茶店に連れていっては

下らない話を延々とし続けた。

ある日、課題の論文が終わらず

珍しく宿を取り家には帰らなかった。

どうせ帰ってもろくなことなどないから

私は気にもしなかった。

珈琲を飲みながら終わらない論文の続きを

もくもくと書き続けていると黒電話がなった。

ほっとけばやむと思ったのだがあまりにも

しつこくなったもので私はとうとう出てしまった。

「もしもし、」

私は少しぶっきらぼうに言ってみた。

この黒電話の先の顔が分からないのだから

仕方あるまい、と私は自らに言い聞かせた。

「もしもし、お前か。」

すると驚いたことに相手は私の父だった。

父は電話などするような人ではないと

小さいころからずっと見てきてわかっていたが

まさにあの父から私は電話を受けているのだ。

「お前の、兄さんが死んだよ。」

父の声はまるで機械のようだった。

静かに生気も感じられないばかりの声だった。

私は、この人は彼のことを愛していないのだと

心の底から思ってしまった。

「そうですか。」

私はただ一人、打ちひしがれていた。

彼が死んだといわれても私は悲しみなどなかった。

ただ、何も感じられないような無償な虚無が

心の奥底に満ちただけだった。

「では、今から家に戻ります。彼のために。」

私はそう言うと電話を切ってただ一息ついた。

それは私の論文への意欲をすべて吸いきって

私には何も体の中から感じられなかった。


私はしばらくして荷造りを始めた。

ただ何にも手が付けられなかった。


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