祖父との記憶
晴れ切った雨空から出た虹は酷くきれいに思えた。
レンズ越しに見つめる空はどこか寂しそうで
まだ雨雲を放そうとはしなかった。
「ひどい天気だ。」
祖父が昔、雨空あけの空をこう言っていた。
子供ながらに雨が好きなのかと聞いたこともあった。
しかし、祖父はその私の問いに答えることはなくただ
無言で頭を二回撫でて笑って見せた。
その謎も今、この年になってようやくわかった気がした。
私はあの恐ろしく見えた森をもう一度見てみた。
あの恐ろしい姿はどこにもなく今は雨にぬれた葉をゆらし
神秘的な雰囲気をかもしだしていた。
「まだ、数年先もあるのだろうか。」
私は森を見ながらふと自分と子供の姿を思い浮かべた。
数年、いや数十年先の未来にこの森があるのならば
私も子供や孫と来てみたいと思えた。
水たまりに写る空を見てみたがまだその姿に
ひと時の寂しさを感じたが優し気な光に包まれ
母の愛情に包まれている赤子の様にも見えた。
「祖父も、きっとこれくらいの気持ちになったのだろうか。
私と一緒に来た時、そんな気持ちを持ったのだろうか。」
私は心の中で、もういないはずの祖父の影にそう問いかけた。
きっと祖父がいればまた笑って見せるだろう。問いにも答えず
ただ私の頭を笑って撫でていただろうか。
私は頭に残る祖父の温かみがいつか消えてしまうのが
とても心残りに思えた。