手紙
小一時間くらい彼と珈琲を飲んで
わかったことは実は彼が平和主義者で
戦争なんてしたくなかったこと
そして何よりあの家にいたくない
ということだろう。
そんなの私も一緒だと心底思ったから
手にしたこの珈琲を顔にかけてやりたいと
この気持ち悪い感情は私だけのもので
彼と同じだなんて到底嫌なことだったから。
「なぜ、誤魔化すように笑う?」
私は今まで彼に言いたかったことを
口に出してはっきり言った。
彼はすごく驚いた顔していたので
私は勝った。
「笑っていた方が幸せだからかな。」
彼はそう言って珈琲にミルクを入れ混ぜた。
混ぜられた珈琲は気持ち悪くもがいてぐるぐると
白と黒が混ざり合っていく。
それを彼はじっと静かに収まるのを待った。
「例えるなら、僕はこの珈琲だ。」
彼はそう言って私の顔をじっと見た。
気づけば、一人称が僕になっている。
そうか、これが彼の本当の彼か、と私は
心から思った。
「どす黒くて苦くて皆に嫌われている。それはわかっている。
だから僕は何もないように笑って見せるんだ。この、
彼がその言葉を放つ前に私は口を開いた。
「このミルクの様に、誤魔化して見せる。」
彼の言葉を盗んだ私は彼の顔に思い切り冷水をかけてやった。
言葉という私の鋭く冷たい氷のような言葉を。
彼は少し呆然と私の目の中を見つめた。
すると彼の顔がゆがんで見えたのでこれが本当の彼の顔、
私が見てやりたかった彼の中のどす黒いところだと
心底心から笑った。
彼もまたひどく笑ってその顔を服で乱暴にこすって見せた。