祖父の家にて
私は、ある日薄暗い部屋で
黄ばんだ箱とその中にあったぼろい紙を
見つけた。
それは私の祖父の兄のであったらしく
その祖父の兄は病で死んだらしい。
祖父とその兄は異母兄弟で、
とても似たもの同士なのに仲が悪かったと
祖父の弟に聞いた。
祖父の兄は死ぬ前に戦争に行きたくさんの
人を殺したと、人殺しだといっていたらしい。
まだ赤子だった祖父がその兄に会ったのは
戦後のことで祖父はその時大学生だった。
初めて会った時、祖父が兄に行った言葉は
「私は、君を好きになれない。」
だったらしい。
祖父の弟は、祖父らしいと笑い飛ばした。
私は、その笑いにどこか寂しさを感じた。
祖父と兄は何十回も二人だけであい、
祖父のお気に入りのまずい珈琲の店で
あれやこれやと云いあっていた、と。
「あの時の兄はバカだった。兄さんもまたバカだった。」
祖父の弟は、祖父のことを兄といい祖父の兄を兄さんと言った。
私は、祖父の兄とは会ったことはないがただ、
どこか他人とは思えない気がした。
すると祖父の弟は「そう言えば、お前は兄さんに似ている。」
と、私の目の奥を見ながらそう言った。
似ている、祖母にもその祖母の姉にも言われたことがあった。
しかし、私はあったことがないもので似ているかどうかは
自分で判断できなかった。
すると、祖父の弟は小さな棚からアルバムを出した。
そのアルバムは古く所どころ焼けている。
祖父の弟はそのアルバムを二、三めくり
一枚の写真を私に見せてくれた。
私は自分の目を疑った。
その写真に、もう一人の私がいたからだ。
「似ているだろう。」
祖父の弟はどこか寂しそうに私に言った。
その目には涙がたまっていた。
「この写真、あげるよ。」
と涙を拭い、アルバムからその写真をとり
私に渡してくれた。
私は祖父の弟がくれた写真を
持ち合わせていた手作りの写真ケースにそっと入れた。
「ありがとうございます。」
私は祖父の弟に頭を下げ、祖父の家を後にした。
その時、庭に咲いていたナズナとレンゲを
私はどこか懐かしく思った。