episode1 おはよう異世界
目が覚めると俺は森の中にいた。
日差しが全くと言っていいほど入ってこない暗い森の中だ。
「ここ…どこだ?」
いつもの癖で独り言を言い、いつもとは違う景色に不安になる。
眠る前までは確かに自分の家にいたはずなのに。そんなことを考えていると、自分が何かにもたれ掛かって寝ていたことに気づく。
体を起こし後ろを振り向いた。木だ。
尋常では考えられないほどの大きな木がそこにあった。
暗い森の中でもこの木だけは光が当たっており、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
これは夢なのだろうか…夢なら目を閉じてれば覚めるだろう。そう考えながらまた木の下にもたれ掛かり目を瞑る。
どれくらいそうしていただろうか。しかし、夢が覚める気配はない。
それならばと思い、自分の顔をひっぱたく。
痛い。これは夢じゃないのか?ならなんで俺はこんなところにいるんだ?
そんな自問自答を繰り広げながら、パニックになる。
「考え込んでても不安になるだけだ!とりあえず周りを調べてみよう。」
声に出し自分を奮い立たせる。すぐ後ろ向きに考え出すのは俺の悪い癖だ。
しばらく辺りを探索してみたものの、謎は深まるばかり。
全くといっていいほど見に覚えのない場所なのである。
こんな場所日本にはないような気がするし、この大きな木は世界中探しても見つからないと思う。
なら一体どこなんだ?ってことになるけどそれは俺が聞きたい。聞きたいけど聞く相手もいないし、それどころか動物や虫すらここに来てからは見ていない。不気味だ。
ふと、不安で泣きそうになっていた俺の横に何かが落ちてきた。
それはこの木に成っていたのであろう大きな木の実であった。赤くて林檎みたいだけど林檎より二周りくらい大きい。
ちょうどお腹が空いていた俺にはありがたいことだったけど、こんなところに成っている木の実って食べられるのか?
不安になりながらも、自然と口がその木の実の方に向かっていく。
本能の赴くままにと言っては大袈裟かもしれないが、そのまま齧り付いた。
「んっ…!?」
次の瞬間、膨大な知識が頭の中に入ってきた。それはここが元いた世界とは違う世界であること、この世界では魔法があること、いろいろな種族が存在しているということを俺に教えてくれた。そして俺は理解した。この大きな木、世界樹が俺を呼んだということに。
どうやら世界樹はこの世界に危険が迫っているのを予見したらしい。
だが、この世界の人たちに世界樹はコンタクトを取ることが出来ない。
魔力を持つものが世界樹に近づくとその魔力の多さに気絶してしまうそうだ。
そこで、他の世界から人を連れてきてその者にこの世界での知恵を与え伝令係として遣わせる…というのが世界樹の計画らしい。
しかもその危機が去らない限り俺は帰れないそうだ。
「俺、キレてもいいよな?」
久しぶりにマジギレするところだったが、いいことを思いついた。
これだけの知識があれば、俺この世界で最強になれるんじゃね?
貰った知識の中にはこの世界のことなら何でもあって、魔法の使い方だってある。
ただの伝令係で終わってたまるか…俺がこの世界を救って勇者になってやる!そんな大それたことを、俺はこの時考えていたのであった。そう、この時までは…