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わらう  作者: 宮田まさる
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5月4日

 2014年5月4日

九州でも有名な観光地。

 年末年始、ゴールデンウィークのような長い休日が続く時には、町を埋め尽くすのではないかと言うくらい客が訪れる。

 彼らの狙いは、温泉と豊かな自然が眺められ美味しい料理を出してくれる宿泊施設だ。

まぁ、男性に限っては、違う目的でくる者も少なくはないが、観光地とは、人気になればなるほど夜の仕事も盛んになってくるものだ。温かい水で体を癒し、酒と女でストレスを発散させるのだ、

 そのため、この街は夜になってもネオンの光が満たされ、賑わっている。

 

 活火山が水を熱し温泉にしている訳だから、沢山の山があり、なかには人が寄りつかない森も出てくる。自殺をするには、誰にも邪魔されない絶好の場所だ。


 村田和彦は木々の隙間を通って山の頂上を目指していた。最近、考え事や悩みがある時は、星を観るために小一時間かけて登山するのが習慣なのだ。今回、登る理由は高校2年生ということもあり将来、何がしたいか分らない状況に困惑していたためじっくりと静かな所で考えてみようとしたからである。

 通いなれた道だし、何より現役高校生である村田は、体力も十分にあるためスイスイと駆け上っていたが、前方に不審な人物を観つけ足を止めた。


 年齢は50代後半くらいのおじさんだろうか、暗い中で小太り猫背な姿は、人生の辛さを表現しているようで悲しそうに観えた。

 もう真夜中だというのに一体何をしているのだろうか?


村田は相手に気付かれない様に草影に隠れ様子を伺った。

 こんな時間と場所に普通は人など居るはずがない、星を観るためという理由はあるが、道の設備もされていない深夜の山に入る奇特な人間など自分ぐらいなものだろう。それに、ここは、自殺の名所でもあると怪談好きの友人に聞いたことがある。何度も山の中に入ったことはあるが、これまで実際に人に会ったこともなかったし、ニュースを聞いたこともなかったので半信半疑だったが、本当に死にたがり会うとは思ってもみなかった。

 

 男性は、キョロキョロとあたりを見回した後、地面に向かって何かを攻め立てるように怒鳴り始めた。

「お前のせいだ、お前のせいだ」


 おじさんの目線の先には小さい黒猫が座っていて男性の言葉に反応するように「ニャー、ニャー」と鳴いて返事をしている


 森の中で一人、猫に怒鳴って姿が異様な光景に感じて、危なさを覚えた。村田は見つからない様にその場を離れようとゆっくりと、元来た場所に戻ろうとした時、男性がポケットからバタフライナイフの様な物を取り出した。

 

 あの猫を殺すのだろうかっと、考え硬直した瞬間、持っていた鋭利な刃物で自分の首をかききってしまった。


 おじさんの首から血が吹き出し、刃物を持ったまま膝から力なく崩れ落ちた。下敷きになった木の枝がポキと音を立てる。

 黒猫は、動かなくなった人間の近くで「ニャー、ニャー」うるさく吠えている。


 とりあえず山を下りて警察に連絡しよう。


 村岡は、意外と冷静だった。あまりにも現実離れした出来ごとに頭がフル回転して落ちつけと命令をだしたからかもしれない。


「ニャー、ニャー・・・あひゃ、ひゃ」

「えっ」


村岡は驚いた、猫の声が急に人のすすり笑うような声に聞こえたからだ。


「クックッ、あひゃひゃひゃひゃ」


 間違いない、こらえていた楽しさが一気に弾け出たように大きく笑っている。


 だが、そんなはずはないと村岡はどうしても確認したくなってしまった。

猫の声が、人の喋っているように聞こえる事はあるが、あの笑い声はあまりに人間にそっくりすぎる

 恐る恐る死体の横にいる音の発信源に近づいて黒猫の顔を観ようと屈んだ。


 黒猫もこちらに気がついたのか、村岡の方を向、目が合う形となる。


「うっ・・・本当に笑ってる」


動物には表情がないというのに、裂けた口の口角が上がって楽しそうな顔を作り上げている。

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