第一話
1.
例えばの話、生身の身体にファスナーを見つけてしまったら、あなたはどうするだろう?
ありえないと目の錯覚を決め込んだり、見なかったふりをして無視するかもしれない。
しかし、彼女はどうしてもそうすることができなかった。
彼女がそれを見つけたのは偶然だった。視界の端にチラチラと光るものが入り、不思議に思い視線を移すとそれはファスナーを開閉するための金具であった。よく見ると、金具の下、首筋から背中にかけて異質な銀のラインがのびている。
目の錯覚だと思い何度も確認するが、どう見てもそれはファスナー以外の何でもなく、次第に彼女はそれから目を離せなくなっていった。
何故あんな場所にファスナーがあるのだろう。
周りを見渡すが、彼女の他にはそれに注意を払うものはなく通り過ぎて行く。
私にしか見えないのだろうか。
ファスナーの金具が誘うようにゆれる。
ふと、彼女のなかに危険な考えが浮かんだ。
晴天の広がる日曜日、遊園地はいつも以上にたくさんの人で賑わい、子供たちは我先にと着ぐるみのクマやウサギに駆け寄っていく。着ぐるみたちは集まってくる子供にガス風船を手渡すのに忙しそうだ。
そこへ一人の少女がやってくる。
少女は子供に風船を渡すためにしゃがみこんでいるクマの背後へ向かって行く。
少女の母親は彼女の考えなど知るよしもなく、駆けていく彼女を微笑ましい気持ちで見送った。