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第二話 日本御祓い協会

 日本御祓い協会、略してJEA(Japan Exorcism Associationの略)の本拠地はビジネス街の只中にある、十階建ての高層ビルである。

 全フロアをJEAが使用しており、協会員以外は、地下駐車場と、一階フロアのみ立入ることが許されている。

 ビジネススーツに身を包んだ、月城はJEAビルに入ってすぐに、エレベーターホールへ向かった。

 受付嬢二人には目もくれない。月城が男性であっても、今の心境では美人の受付嬢に目が行くことはなかっただろう。

「まったく、斗真の奴」

 見合いの席まで引っ張っていくのも大変だったが、そのあとがまた最悪だった。

「断るにしても、大人しく席について、話聞くくらいできるでしょうが」

 呟いて、奥歯をぎりっと噛む。


 JEAの職員である月城が仲人をつとめた見合いは、一般的な見合いとは異なる。

 釣書も必要なければ、家族書も必要ない。

 JEAの見合いで得るのは、結婚相手ではなく、仕事上のパートナーである。

 JEAでは、フリーの能力者に対し、直接仕事を依頼する場合に限り、二人一組での職務遂行を義務付けている。

 当初、毎回パートナーが変わる事を、嫌う者が続出し、パートナー登録制度が導入された。かといって、なかなか個人でパートナーを見つけるのは難しい。

 そこで、JEAでは、会員の中から能力的、流派的、その他もろもろから、見合う相手を紹介する制度が制定された。それが、JEAの見合い制度である。


 月城は、仲人として、何度も見合いの席についたが、今日ほど大失敗に終わったものはなかった。

 それもこれも、石塚斗真のせいである。

「そもそも、何なのあの態度。本当に礼儀ってものがなってないんだから」

 ぶつぶつと文句を言う声がホールに響くが、周りに人はいないので問題ないだろう。

 仮に、聞かれたとしても、構うものか。

 そう思うほどに、月城は腹を立てていた。

 あの年若く、傲慢な若者に。

 エレベーターの到着音に顔をあげ、月城は憤然としたまま中へ乗り込んだ。

 閉ボタンを連打していたら、待ってという声が耳に届く。

「待って、乗る、乗るから!」

 慌てた様子で走ってきたのは男性だ。

 月城の同僚である加瀬谷(かせや)だった。

 月城は、仕方なく、開ボタンを押した。今にも閉まりそうだったエレベーターの扉は、どことなく慌てたように動きを止め、ゆっくりと開いた。

 エレベーターに乗り込んだ男性が、大きく息を吐く。

 その傍らで、今度こそ月城は閉ボタンを押す。

 そんな彼女に視線を向けて、男は言った。

「月城、顔が鬼になってる」

 同僚の言葉に、眦をあげる。

「うるさいわね。どうせ、失敗だったわよ」

 月城は、腕を胸の前で組んで、壁に背をもたせ掛けた。

 加瀬谷は、優し気な顔に苦笑をにじませて、月城が押し忘れていた階数ボタンを押した。

「五階でよかったよな」

「ええ」

 そっけなく答えた月城を見て、加瀬谷はもう一度苦笑した。

「今日は、例のあの子の見合いだったか」

 月城の予定を憶えていたらしい。彼女は、嘆息してから頷いた。

「そうよ。うまくいかないわ。今日でもう十回目よ」

「今回は、年の近い子にって話だったよな」

 思い出すように顎に手をやった加瀬谷に、月城はうなずいた。

「斗真よ。あの問題児! あいつだって、なかなかパートナーが見つからなくて困ってるはずなのに、あいつ、席に座りもせず、無理だわですって! 何様よ」

石塚斗真(いしづかとうま)か……。彼は若いし、術師として才能があるぶん、驕ってしまうのも無理はないかな」

 月城は、加瀬谷の優し気な顔に目を向けた。

 ふいに、彼は思案顔になって口を開いた。

「まあでも、もしかしたら、郁弥君の状態に気づいたのかもしれないよ」

 月城は目を見張る。

「まさか! うちの手練れ数人がかりで調べても、郁弥君の状態に気づくのに随分かかったのに、あんな一瞬で……」

 そう思うが、斗真の潜在能力の高さは目を見張るものがある。

 腹の立つ少年ではあるが、能力に置いては、一目も二目も置いていた。

「郁弥君もいい術師だけど、うちの規定では、仕事は二人一組で、だからな。二人がくっついてくれたら、溜まってる仕事、押し付けられるのにな」

 爽やかに笑う加瀬谷に、怒りを抜かれ、月城も笑みを浮かべる。

「まあね。でも、郁弥君にはやっぱり誰かつけないと。そろそろ、十年だし」

 言いながら、表情を曇らせる。

「ああ。でも、護衛は嫌がるんだろう。彼自身が。あの子の家って、JEAのマンションだっけ?」

 加瀬谷の問いに、月城はうなずく。

 JEAのマンションとは、正確に言うとJEAが所有するマンションである。

 これは、特別使用のマンションで、魑魅魍魎を排するあらゆる術がかけてあるのだ。

 一見するとただの普通のマンションである。きっと、郁弥は自分の住むマンションが、JEAの力を集結してできているとは知るまい。

「郁弥君にずっと家にいてもらう訳にもいかないしな。学生だし」

「ええ。だからこそ、誰かとペアで行動してもらえれば、こっちとしては安心なんだけど。パートナーには負担をかけちゃうけどね」

 皆、本能で気づくのかもしれない。

 郁弥と引き合わせた術師たちは、口々に、あの子は自分の手に負えないという。

 郁弥は才能ある下弦流(かげんりゅう)の術師だ。しかも、継承者の少ない(せい)の術師。同じ下弦流を習得している斗真が今までの中で一番適任なのは言うまでもない。

 だが、下弦流は基本二人一組で行う術で、相性がもっとも重要な位置を占める。

 だからこそ、しばらく一緒にいて相性を確かめてもらいたかったのに。

「あの、バカが。速攻で断りやがって」

 悪態が口をついて出た。

 エレベーターが五階に到着し、開ボタンを押して、振り向いた加瀬谷は、三度苦笑した。

「お嬢さん。着きましたよ。般若の顔を、早く元に戻してください」

 余計なお世話。という代わりに、月城は加瀬谷の横を通り過ぎざま、べぇっと舌を出してやった。

「月城」

 背中に声をかけられ、振り返る。

 舌を出したことについて何か言われるのかと思ったが、加瀬谷はまったく別のことを口にした。

「なあ、あの二人。ちょっとの間、俺に任せてくれないか」

「なぜ?」

 一応、あの若造二人は月城の担当なのだ。加瀬谷の出る幕などない。

「どうせなら、溜まってる案件を一つ振ろうかと思って」

「たった一回でも、郁弥君とじゃ、斗真は嫌がると思うわ」

 加瀬谷はまあねと頷く。

「月城知ってる?」

 いきなり話が飛んだ気がして、月城は瞬きをした。

「何を?」

「俺、斗真に嫌われてるんだよね」

「ああ、あんたが、厭味ったらしく説教するからでしょう」

 加瀬谷はまたもや頷いた。

「それもある。でも、一番嫌われている理由は、俺があいつにNOを言わせないからだよ」

 月城は一瞬目を見開いて、次いで、口元に笑みを浮かべた。

「それは、素敵なことになりそうね」

 若者たちの知らないところで、こうして事は動きだしていた。

 

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