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第十話 ハル

 つながった!


 郁弥と斗真は同時に思った。

 名を呼び合うことで、地に道筋を作る。相性が悪ければ、ここからして上手くいかない。

 地面から、徐々に姿を現したのは、一振りの剣だった。

 柄は金色で、美しい紋様が刻み込まれている。剣身は透き通るように白く、淡く発光している。

 あまりの美しさに息を飲んだのは斗真だった。

 今まで、何度も、静の術師が錬成した武器を見てきた。

 だが、これほどまでに美しく、かつカッコいい武器を見たのは初めてだ。

 斗真は、郁弥を振り返った。

「おまえ、すげぇな!」

 今まで見たこともない嬉々とした顔で、郁弥の錬成した剣を絶賛する斗真。

 郁弥は冷や冷やした。

 前に、闇に憑かれた女がいることを忘れているのではないかという、はしゃぎっぷりなのである。

 女、否、妖鬼と化した者が、斗真の隙を見逃すはずがない。

 今までにないほど、大きな黒い妖気の塊を斗真に向かって飛ばす。

「斗真、危ない!」

 郁弥が声をかけるよりも早く、柄を握った斗真の腕が横に薙いだ。

 物凄いスピードで迫り来ていた妖気の塊が斗真の前で霧散したのだ。

 たったの、一薙ぎで。

 呆然とした郁弥の目に、斗真が女に間合いを詰めるのが映った。

「斗真、腹だ。腹を突き刺せ!」

 郁弥は叫んでいた。

 腹が、女に憑りついた妖魔が巣食う場所。

「はっ。過激だな」

 郁弥は斗真の軽口を無視して念じ、斗真が狙いを定めた場所を微妙に調整する。

 剣が少しだけ、動いたことに気付いただろうに、斗真は突進を続けた。

 郁弥が付けた角度そのままに、女の腹に剣身を突き刺した。

 背に抜け出た刃に、血は一滴も付着していない。美しく淡い光を発しているだけだ。

 女が口を大きく開ける。

 断末魔が辺りに轟いた。

 やがて、その声も小さくなり、女は力なくくずおれた。

 それと同時に、剣も霧散する。


 終わった?


 郁弥は、ほぅと息を吐いて、立ち上がった。

 久しぶりに術を行使したが、上手くいってよかった。

 下弦流は、静の術師と呼ばれる者が敵の属性を読み、弱点を探る。そして、その者を倒す武器を錬成する。

 動の術者と呼ばれる者は、武器を錬成している間、静の術師を守りつつ、敵の力を削いでいく。

 そして、出来上がった武器を手に、相手を倒す。

 それが下弦流の術式だった。

 今回もそれに倣い、郁弥の霊力の結晶である武器に、斗真がさらに自身の力を乗せて、敵を討った訳である。

 つまり、通常の二倍以上の力を相手の急所に叩き込んだのだ。

 郁弥が相性にこだわったのも、この点にある。相性の悪い者同士が組むと、こう上手くは事が運ばない。

 錬成した武器に力が乗せられなかったり、力が反発したり、下手をすると、動の術師の元へ武器を送ることもできなかったりするのだ。


 だが、今回は……

 女を抱きかかえた斗真が振り返った。

 目が合う。

 互いにもの言いたげな顔をしている。

 だが二人が声を出す前に第三者の声が割って入った。


「姉さん!」

 その声は、郁弥の背後から聞こえた。

 驚いて振り返った瞬間、郁弥の胸に今までにないほどの衝撃が走った。

 ぐっと胸を押さえて、うずくまる。

 その横を人が通り抜けていく。

 声の主は、斗真に駆け寄ると女性を斗真からひったくるように奪った。

 ぐったりした女性を抱きかかえたまま、地面に膝をつく。

 女性の頭を抱き起して、姉さんと呼びかけている。

「姉さん、姉さんっ!」

 郁弥からはその人物の背しか見えなかったが、華奢な青年に見えた。

 その傍らで、斗真が愕然とした顔を男に向けている。

「あんた、一体どうやってここへ入ってきた」

 斗真の言葉で郁弥は気づく。

 今、斗真は場を張っている。

 ここの中は郁弥達が生活している場所とは少しずれているのだ。常人が入って来られる訳がない。

 

 なら、彼は何なのだ。


 膝をついた青年が、斗真を見上げた。

 女性を地面に寝かせ、立ち上がる。

 青年は、斗真より、頭一つ分背が低かった。

 男にしておくには勿体ないほどの、綺麗な顔立ち。


 だが……


 斗真は、一歩後退った。

「あんた、一体何なんだよ!」

 斗真の声は叫びに近かった。

 次の瞬間。

 斗真の体が後方へ吹き飛んだ。

 一瞬のうちに、斗真の体が塀に叩きつけられる。

 地面に倒れ伏す斗真を見て、郁弥は息を飲んで立ち上がった。

「うるさいよ、君。せっかく悲劇の弟ごっこしてたのに」

 青年の声は優し気だった。

 だが、郁弥は背筋の凍る思いがした。

 なぜか身体が震える。

 これは、ダメだ。

 近づいてはいけない。

 女を見た時よりも、ずっと、本能が逃げろと叫んでいた。



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