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短編

ロボット

作者: RK

 ロボットは街に憧れた。

 ここはなんて素晴らしい場所だろう。

 ここにいる人たちは歯車だ。

 だが規則正しく動いているわけではない。

 各々が各々の目的に動いている。

 道を行くもの、戻るもの。

 物を売るもの、買うもの。

 座り込むもの、立ち止まるもの。

 空を仰ぐもの、地を見下ろすもの。

 歯車の一つ一つは全く噛み合っていない。

 だが、全体としてそれはひとつの巨大な街になっていた。

 それに憧れた。

 だからロボットは街の一員になろうとした。

 だがロボットはロボットだ。

 街には人間が暮らしている。そこにロボットはいなかった。

 だから顔を隠すことにした。

 鋼の体を覆い隠す。鋼の四肢を包み隠す。

 そうして人に溶け込んでロボットは暮らしていった。

 それから数年。

 ロボットは悩んだ。

 人とロボットの違いにぶつかったのだ。

 彼は涙を流さない。

 彼に血は流れない。

 流すのは洗浄液だし、流れるのはオイルだ。

 涙は持たず、血も持たない。鋼鉄の体。

 そんな彼を慕ってくれた女性がいた。

 それが彼を悩ませる。

 自分はロボットだ。彼女は人間だ。

 その言葉はずっとロボットの中を循環する。

 そしてロボットは女性にすべてを明かすことを決意した。

 女性はそれを聞いて恐れた。

 人間の中にロボットが紛れ込んでいる。

 人間と違わない思考。

 人間と変わらない見た目。

 人間と変わらない自然さ。

 そして人間とは違う肉体。

 知らぬ合間に異物が紛れ込んでいるという恐怖。

 女性は逃げ出した。

 ロボットはそれを見て肩を落とす。

 涙は流れない。

 それは彼がロボットだから。

 自分は仮初の存在。決して人間にはなれない。

 夢を見ることはあっても夢を見ない。

 それは彼がロボットだから。

 彼は住み慣れた自宅を後にする。

 もうここにいるのはやめよう。

 ロボットはロボットらしく全うするのが正しいのだ。

 トボトボと歩く彼の耳が騒がしいのを聞きつける。

 誰かが溺れたらしい。

 日も沈んだ今、真っ暗な河を探すのは難しい。

 ロボットは駆け出した。

 静止の声を振り切って彼は川に飛び込んだ。

 鋼の体は水に浮かない。

 雨程度なら大丈夫でも水に浸かることを想定されていない体はすぐに悲鳴を上げる。

 アラートが響く。だがそんな中でもセンサーは一つの反応をキャッチしていた。

 腕を伸ばし彼女を水面へ持ち上げる。

 水面の向こうで女性が信じられないという顔をしている。

 見る人たちが驚愕の表情を浮かべている。

 それは自分がロボットだからだろうか?

 だが、彼にはそんなことはどうでもよかった。

 彼女を救えた。一時でも自分を愛してくれた人が生きていてくれてよかった。

 水底に沈む鋼の顔に白い筋が一筋流れた。

 それは光の反射。

 だがそれは彼の涙だったように見えた。

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