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片想㋪

作者: 魔桜

 恋ってなんだろう?

 そんな小っ恥ずかしいこと、誰かに訊けるはずもなく、私はその命題を抱えて今まで生きてきた。

 誰かに本気で恋したことは……多分……ない。

 この人のために死んでもいい! なんて、安っぽいドラマでは女の人が言うけど、中学生の私には到底理解なんてできなかった。大人になれば、命を懸けてもいいと思えるのだろうかと考えてもいまいちピンと来ない。

 というか、恋だの愛だの、そんなものはくだらないって思う。

 そういうことを大っぴらに言ったら、確実に迫害されるだろうから、言葉にはしないけれど、それでも私は夢ごこちに語ることではないと思う。

 それでも私は、誰かを好きになったこがないわけではない。むしろ他人よりも恋する回数が多いくらいだ。ちょっと好きになって、ちょっとしかきっかけで、そんな恋心は冷めて。熱しやすく冷めやすいのが私なんだと思う。

 そういう自分が嫌いだった。

 ほんとうは、もっともっと恋がしたかった。どれだけ素晴らしいものなんだろうか。誰かを好きになるってことは。友達なんかに聞くと、それはとてもとても素晴らしいもので、まるで自分の新しいアクセサリーを自慢するかのように、恋が何かをとうとうと言ってくる。

 そんなある時、今までの私を粉々にぶっ壊すような出来事が起こった。


「芋を食べると体の中にガスが溜まって、屁がでやすいってホントかな?」


 は? と私は思った。

 何を言ってるんだと、こいつは馬鹿なのかと、何度かチラ見した。そいつは、クラスではあまり目立たない男子だった。どこかぼうとしていて、頼りにならない、そんなやつ。いままで接点らしい接点はなかったのだが、なぜだか隣にいた。

 ゴミ拾いをしていた。

 ボランティアという名目の学校側の強制的なゴミ拾いというやつだ。地域と密着だとか、自分の住む街をキレイにすることによって、自らの心も清掃するだの、云々。

 先生のおっしゃりたいことはよく分からなかったが、取り敢えず命令に従わなければ不良のレッテルが貼られるということだったので、特に抵抗もなく私は従っただけだ。

 暇つぶしにすら劣る強制イベントに肩を落としながらやっていたら、いつの間にやらいつものグループとは離れてしまい、こんな変な奴に捕まった次第だ。

 いきなりだ。

 いきなり無言だったやつが口に出した言葉、開口一番の言葉がまさかの、屁? こっちは仮にも乙女だと、性別は女だと言ってやりたかった。男勝りといか、ウジウジしている男を見ていると異様にむしゃくしゃする体質のせいで、男からは少しばかり距離を置かれていた。言われなくても、なんとなく態度でそれがわかる。だから、男と話したことも少なかった。数えるぐらいだった。

 それが、いきなりのことで私は言葉につんのめった。

 それからどんな会話をしたのかは覚えていないが、そういうことだった。

 なんとなく、そいつが気になり始めて、ふとそいつのことを観ている自分がいた。そして、ふと気がついて、恥ずかしくなって下に視線を落とすのだった。

 それがずっと続いていると、いきなり同じ女子グループの一人が、変なことを言い始めた。


「ねえねえ、意外にあいつってよくない?」


 楽しそうに、愉快そうに私に向かってそう言うのだった。私は、え、うん、まあ、だとか煮えきれず、そんな私を観た友達は、どんどんと男に迫っていった。

 垢抜けていて、明るい彼女は男の警戒心をすぐさま解くと、簡単に仲良くなっていた。急速に仲が良くなっていく二人を見て、一体私に何ができたのだろうか。

 別に私はあの男のことを好きでもなんでもない。

 そのはずなのに、なんだかすごく納得できなかった。もしかして、この感情はあれなのだろうか。もし、そうであったのなら、はじめに友達に訊かれた時に、つっぱねればよかったのだ。

 私が好きなのはあいつだと。

 でも、分からなかった。好きであるという感情が、私には一つも分からなかったのだ。

 私はそれでもいいと思っていた。

 ああ、どうせいつものことだ。

 また少し悲しい思いをして、またこんな感情なんて風化すると。どこかに消えていってくれるのだろうと。

 だけど、どうしてだか消えてはくれなかった。むしろ、私の感情は次第に肥大化していき、自立しているかのように、勝手に暴走していった。


「アンタ、わかってるの? どうせ遊ばれてるだけなんだから。わかるでしょ? アンタとあの子は全然釣り合ってないってことぐらい? やめときなさいって、あの子私たちの間ですごく評判わるいの知ってる? すぐに男に色目使って、そうやって適当に男を騙したら、すぐにポイ捨てするんだから」


 もう、とまらなかった。止まって欲しかったけど、言ってしまってからは言葉が勝手に一人歩きしていてしまって、本気で温厚な彼を怒らしてしまった。

 私が彼女を批判すればするほどに、男はああ、俺の感情は正しいだと再確認するみたいに、その恋心を育てていった。それからずっと疎遠になってしまった。男の方とは。

 だけど、女の、友達のほうとは高校になった今でも関係が続いていて、よく彼氏自慢される。


「ほんと、わかってないんだって。アイツさあ、私のこと全然構ってくれないの。ねえ、どうすればいいと思う? あなただけが頼りなの」


 ほとんどのろけ同然の、相談をされて、そしてこんな言い方をされて邪険にできるはずもない。というか、どうせ自分なりの答えは相談する時に決まっているのだ。

 だから違うんじゃないとか、そんな無駄なことは言わずに、うん、そうだね、って流すように肯定するしかなかった。だって、それはいつものことだったのだ。

 そうやって、ああ私達の関係終わりよ、なんて絶望的な言い方をするのに、数日だったらケロリとしている。そしてこっちの感情なんてお構いなしに、彼氏のいいところを列挙するのだった。

 いうならば、スパイスだった。

 私という人間がどんな反応をするのか楽しんでいるのもそうだろうが。なんだが、私たちの関係ってうまくいくのか、いかないのか、そのスリルを味わいたいのだ。それを誰かと共有することによって、さらに高めたいのだと思う。

 いうならば、楽しんでいる、その、ゲームみたいなものだ。その最悪のゲームの参加者に私は選ばれてしまった。中途半端に男と友好関係をもっていたがために、女の方も私に相談するしかなかったのだろう。そうやって、ずっとずっと永遠と聞かされていた。

 恋はみんな幸せなものだというけれど、少なくとも私が経験した恋はそういうものは一切感じさせれることができないものだ。

 高校生の今だけなのだろうか。

 もしかしたら、あと数年経ったら、この考えが変わるのだろうか。

 だとしたら、それがいつなのかを、誰か教えて欲しい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幸せだから、幸せな恋が叶うんですよ^-^
[良い点] 安心して読めました。良い意味で、安定感があると思います。 心理描写多めの内容は読者によって相性があるかもしれませんが、個人的にはとても好きです。 [気になる点] オチが欲しい……というか、…
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