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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー

狐月―KITUNEMOON―

作者: 藤堂家鴨

 この作品は夏のホラー2012に提出するために作られた作品です

 ホラーといえばホラーですが、意味不明なホラーにしてみました!

 どうぞ、よろしくー

 まだ、十五にも満たない少女が三十路(みそじ)を過ぎたこの私に体を寄せ付けた。私は思わず、その骨ばった小さな少女を抱くことを躊躇(ちゅうちょ)せざるおえなかった。

 月明かりがその少女を照らす。ほっそりとした体のラインの影が真っ白なベッドに映り込んだ。その影は私の影と一体化している。あぁ、こんなにもくっついてしまったのか、と思わず私は自分が情けなくなった。

――こんな女の子とはじめてなんて・・・・・・

 自分が馬鹿らしくなってきた。

 欲求不満を満たすことができる、と思った私は馬鹿だなと思う。いや、前から馬鹿ではあっただろう。馬鹿だからいつまでも童貞だった。それに、今は自分の半分しか生きていない少女と夜を過ごそうと思うほど追い込まれてしまった自分は馬鹿だなぁと思うことしかできなかった。

 少女を見る。

 白いワンピースを身につけているものの、生地が薄いせいか体のラインが見てわかる。異様に細い体・・・・・・多分、私より性体験してきたのだろう。ただ、小刻みに震える体は私にはそうとは思えなかった。黒い、長い前髪に隠れた素顔。まるで、幽霊のようなその容姿は月明かりに照らされ煌々と輝いた。

 私ははじめ、この幼い売女はただのヤクだと思っていた。

 ただ、それはどうも違ったようだ。

 何かをじっと見つめる前髪に隠された瞳はヤク漬けとは思えなかった。

 何だろう・・・・・・何かに憑かれているようにしか私には思えなかった。


「はやく、ヤっちゃって下さい。わたしぃ・・・・・・」


 か細い声が耳に憑く。

 あぁ、この少女が何か言っているなぁと私は思って少女を見た。その、薄い唇を震わせる少女を。

「何でもできますから・・・・・・」

 なんだよ、と私は悪態をつきたくなる。そして、「私は馬鹿、だね」と呟いた。


 ✝


 名もなき村はそこにあった。

 寂れた、でも、よく見たことのあるような小さな村。集落、と表現した方が正しいのかもしれない。ただ、この村に住む村民たちは口ぐちに囁くのだ、「我らは信長殿の意志を継いだ民なのだ、ただの民ではない。選ばれた民だ」と。

 わたしは、そこで生まれた。

 わたしには両親がいなかった。兄弟もいない・・・・・・血のつながった人間はこの世に存在しないと長老様から聞いて育った。「お前の親は自らお前を残して死んだ罪人だ」と。

 つまり、それは自殺。わたしの両親はわたしを産み落としてすぐ、入水した。

 この村には二十五人しかいない。その内、子供はわたしを含めて六人。それも、わたしと同い年の子は亀子っていう長老様の孫だけで、後はわたしたちより年上だった。だからか、亀子とわたしはすぐに仲良くなた。まるで、姉妹みたいだと村の老人たちからは言われた。

 亀子はおかっぱの、悪い言い方をすれば貧弱の少女だった。それに対してわたしはやんちゃだった。

 あの時もそう・・・・・・わたしが隣村の夏祭りに誘ったからあんなことになってしまったのだろう。


 夏祭り、は大人だけが参加できるイベントだった。子供は参加を何故か禁じられていた。でも、私は興味が湧いてしまってどうしてもそこに行きたかった。だから、亀子を誘って六里は軽くある距離を歩いたのだ。

――それは、儀式だった


 そして、亀子は死んだ


 わたしも、消えた



 ✝


 そっと私はやせ細った少女の体を抱いてやった。

 カーテンからは太陽の光が漏れだしている――あぁ、もう朝かと思もった私は少女の顔を見た。寝息を立てる少女はまるで、自分の娘のように思えた。ほっそりした体。そして、目を覆いたくなるような数々の傷跡、不可解な模様。それは、まるで刺青のようだった。意図的に彫られたようなそれは少なくとも、少女が自ら望んで彫ったものではないだろう。

 あの夜、狐が鳴いたと少女は言った。

 まるで、何かに憑かれているように。

 震えるその体を私は強く抱いてやった。

「狐」

 そのワードに私は引っかかった。

「狐憑き」

 なのだろうか、少女は。


「・・・・・・かめ」


 かすれた声。

 私は思わず少女のわずかに動いた口元に目がいった。薄い、唇。

「かめ?」

 あの、爬虫類の亀だろうかと私は思ったがそんなはずはないだろうなぁ、と自己解決する。あぁそうさ、関係ない。自分には関係ないと私は思った。いや、思ってみた。

――しかし、気になる

 どうもこれは私の性分らしい。

 三〇年間生きてきて、私が唯一身についたもの。いや、性格だから身についたものではないけれど、そんな私は気になって仕方がななくなった。

――たすけよう

 そう、私は思った。

 これは、ボランティアとでもいうべきか。ただのおせっかいか・・・・・・私の自己満足か?

 自己満足、が一番近いだろう。

 自分の欲求を満たすため、それをする。いや、する。

 まずは何だろう・・・・・・そうだ、少女に聞いてみよう、名前を、生まれを・・・・・・。


 ✝


 悲鳴が真っ暗な村に木霊(こだま)した。

 わたしたちは思わず抱き合った。「怖いね」と震えながら、わたしたちは悲鳴が聞こえた方に耳を側立てた。亀子は震えていた。しょうがない。わたしより臆病なんだから。

 今日は、夏祭り。

 隣村で行われる夏最大のイベント。ただし、子供たちは参加を禁じられている。この夏祭りの日は、子供たちは八時に寝ないと殺されると脅されて。何に殺されるとか、大人たちによってさまざまだったけれど。

 まぁ、そんな風だからわたしたち以外にもこの夏祭りを見ようと大人たちの言いつけを破って見に行った子なんて沢山いたわけだけれども、みんな帰ってこなかった。大人たちは、「言いつけを守らない悪い子供だから神隠しにあったんだよ」と再びわたしたちを脅かした。だから、それ以来、夏祭りに行こうとする子なんていない。――わたしたち以外

 いや、正確にはわたし以外。亀子はそんな子じゃない。亀子はいい子だ。大人の言いつけを守るとってもいい子だから。

 でも、亀子はわたしに着いてきた。わたしたちは姉妹だ。血は繋がっていなくても心が繋がっているから――姉妹。姉妹は二人で一人。だから、二人で夏祭りが催される隣村にやってきた。

 隣村は漆黒村と呼ばれ、近隣の村からは恐れられる存在だった。わたしたちもまた、怖かったし、来るのは初めてだった。たしかに、この村は闇で包まれていた。家々も黒く、生活しているといった雰囲気ではない。まるで、恐ろしい怪獣か何かがいそうで怖かった。

――赤い大きな目を光らせて子供たちを狙っている

 よくわからないけれど、そんなフレーズがわたしの頭の中をよぎった。

――血しぶきをあげ、奴は近づく。鋭くとがった犬歯で引き裂かれる生肉は血が、鮮明に見えるのだよ。それは、絶景さぁ。我はその光景が好きさぁ。好物なのさぁ。なぁ、女子よ。我と一緒にそれを見ないかぃ?

 その声がわたしに話しかけてきた。

 思わず、わたしは絶句する。そんなわたしを亀子は不思議そうに見ているだけだった。おかっぱの前髪から覗く大きな長いまつ毛で覆われた瞳が疑問の色を出していた。

――ここに、丁度いい肉があるねぇ。まだ、若々しい肉じゃないか。これを使おうか


 その瞬間、亀子は真っ赤に染まった。

 すっとわたしの肩に手が乗る。知らない手。そして、血。

 真っ暗といっても赤は分かる。

 亀子を染める赤はわたしにも飛び散って赤にした。

 狐。

 そう、狐がいたんだ。

 そして、鳴いた。

 狐は鳴くなんて聞いたことないけれど、たしかに狐は鳴いた。遠吠えだと思う。犬のように、その狐は鳴いた。

 高らかに響くそれは、わたしの耳の奥で木霊す。

 見開かれた目、それがわたしを覆う。

 目の前には死体――亀子の死体。赤く染まった死体。でも、生きているようなその肉体からは血が、鮮血が流れ落ちていた。見開かれた目は恐怖に震えている。死んでもなお、震えている。

「――どうだぃ?素晴らしいだろう」

 その声は、あの声だった。

 そして、わたしは気づく。わたしの肩に手を乗せたその奴を見上げて睨む。そいつは、狐の面をつけた一八ぐらいの青年だった。着物を見につけていることから、彼は夏祭りの参加者なのだろう。ただ、胸元はだらしなくはだけ、白い肌が覗いている。それが、月明かりに照らされて煌々と輝いていた。

「我は狐よ。この村の主でさぁ。生贄を殺したところだよ、今ね。

 この少女は生贄。

 そして、わぬしも生贄。

 でもねぇ、我はわぬしを殺したくない。だからね」

 と、その狐と名乗った男はわたしを抱き上げた。

「妻にしてやる」

 歪んだその狐の瞳が薄らと開きわたしを見つめた。この時、わたしはこの狐からは逃げられないと悟った。そして、亀子の死に何とも言えなくなった。

 この時、わたしは若干一一。

 まだ、結婚するには早すぎた。


 ✝


 私は、ある集落を訪れていた。その寂れた集落には一人の老人と一人の、あの少女と同い年ぐらいの少女がいた。

 それ以外は誰もいなかった。

 空家があった。

 沢山、あった。

 そこには生活の跡があった。それだけだった。

「わしらは、ここの守り人でのぉ・・・・・・この子はわしの孫じゃき。週に一度はこうして見回りに来ているのだよ。んていうのもなぁ、この村は死んだからだよぉ。もぅ、人は住めないんでさぁ」

「はぁ」

「それもこれも、あ奴のせいじゃき。あの女のなぁ・・・・・・親も狐憑きだったが、やはり子までもそうなってしもうた。ほんにほんに、わしらのミスじゃったわぃ」

「ばあちゃん、七星は関係ないってば。七星は、うちを守ったから狐憑きになっちゃったんだってば。非はうちにあるってさんざん言ったじゃん。それに、うちは七星のおかげで死なずに済んだんだよ。分かってる?」

 少女は、大きな瞳でその老人を説得し始めた。しかし、この少女・・・・・・と私は見る。二つに結った黒髪が特徴のまつ毛が人形のように長い少女。そして、

「――七星」

「へ?」

 その少女は私が呟いたそのワードに反応した、「七星?」

「え、いや、あのぉ・・・・・・すいません。知り合いに同じ名前の子がいたかなって思って」

「そじゃき。この人はただの作家さんだき。亀子には関係ないことだわさ」

「か、亀子・・・・・・さん?」

 まさかとは思ったがどうもその通りのようだ。この二つ結びの少女は亀子。七星、つまり、あの少女の友人だ。ただ、私の記憶によれば亀子は死んだはず・・・・・・なのだが。

「え、はい・・・・・・はい?」

 亀子は何度も瞬きをして、不思議そうに首を傾げた、「亀子です」

 そして、亀子は続ける。

「どうして、うちの名前を知っているんですか?」と。

「い、いや・・・・・・」

 私はそんな亀子の問い詰めに言い逃れができそうもなくて、黙ってしまった。そんな私を老人が疑うように見ていた。

「なぁ、おまえさん・・・・・・あの女を知っているのかぃ?なろ、そうじゃな?」

「え、え・・・・・・まぁ」

「・・・・・・そうか」

 そう、老人は言うと語り出した。この名もなき村の伝説を。


「むかしむかしなぁ、この村には狐様がおったんよ。狐様はこの村、周辺の村々の守護神様でよぉ、年に一度、狐様を祭る儀式をやるんじゃけ。わしらはその儀式を夏祭りと称してやっていたがのぉ。ただ、お祭りじゃ。童たちが行きたがるのも無理はなくて・・・・・・毎年、二、三人の童がこの夏祭り行う暗黒村に足を踏み入れたんじゃ。この亀子と女、七星もそうじゃった。

 ただのぉ、七星は狐様に魅入られてしまったんじゃ。

 亀子は瀕死の状態で見つかったでの、今はこうして生きておる。

 まぁ、そこからが問題での――七星は神隠しにあってしまったんじゃ。

 つまりの、狐様の御住みになる世界はこの世界じゃないき。向こうの世界じゃき。妻となった七星もまた向こうの世界にわたってしまったんじゃ。それもなぁ、七星の母親もまたそうじゃったんよ。狐様に魅入られ向こうの世界に渡ったっきり帰ってこんかった。それにの、七星の父親は狐様じゃき。いや、違うな。先代の狐様なんよ。というのもな、今の狐様は先代様の甥にあたるのじゃ。つまり、狐様と七星は従兄弟となる。

 ただの、七星は向こうの世界から帰って来たのじゃ・・・・・・何故かの」

 そう言って老人は顔を曇らせた。

「性格も変わっておった。容姿ものぉ。つまりは、まったくの別人となっていたのじゃ・・・・・・ただ、名は七星としきりに言うのじゃ女は」

「つ、つまり」

 と、私は老人の話を止める。

「七星は・・・・・・狐様の子ということに?」

「まぁ、そうじゃの。赤ん坊の時にこの世界に捨てられ、再び戻った。で、捨てられた」

「七星は、もう、うちの知っている七ちゃんじゃなかった。あれは、狐様の妻の七星。感情をなくしたただのバケモノよ」

 いつのまにか、亀子の大きな瞳には涙が溜まっていた。長いまつ毛にも涙のしずくがついている。――亀子は泣いていた。


 ✝


 狐様の父親はわたしの御父さんでした。

 そして母親は、わたしのお母さんでした。


 ✝


 血しぶきが舞う。

 わたしの口のまわりは血でべたべただった。

 あははぁ、とわたしは嗤う。

 そんなわたしを狐様は優し笑って見ていた。

 狐様は村の男達と違ってカッコよかった。

 切れ長の赤い瞳と、月に輝く銀色の髪。そして、大きくて立派な二つの耳。

 わたしも大きな耳が欲しかったなぁと思ったけれどそれは無理だろうなぁと思った。

 わたしは人間だ。

 狐様じゃない。

 だけれど、狐様の妻だ。

 だから、こうして狐様のために今日は犬を殺した。自分の牙と爪で。

 ひしゃげた生肉から血が舞う。

 あぁ、楽しいなぁなんて思えるわたしは普通じゃないでしょう?

 でも、そんなことはどうでもいい。

 わたしは、狐様の妻だから。


 そして、狐が鳴いた。


 ✝


「どうだった?わたしのこと、調べて来たんでしょ?」

 薄い毛布にくるまった少女、七星はそう、わたしに囁いた。

 毛布の中で、七星は裸だった。

 今、七星は私の犬となったらしい。いや、勝手に彼女が居座っただけだ。

 月明かりに照らされた七星はくぅんと鳴くと私に纏わりついてきた。青白い肌が月明かりに照らされて気味が悪い。

「で、どぉだったぁ?」

 耳に犬歯が食い込む。一筋の血が流れた。その血を、七星は舌で嘗めりとる。何か温かい感触が私の耳に這った。

「でも、よかったねぇ・・・・・・狐様にとりつかれなくてぇ。

 あの、村の人たちは狐様の部下だから。みぃんな」

 そう言って七星は月を見上げた。

「今夜は満月だねぇ・・・・・・」

 くぉん、くぉん・・・・・・

 何かが鳴く。

 くぉん、くぉん・・・・・・

 鳴いている。


 くぉん、くぉん、くぉん


 狐がいた。


 銀色の毛並みが月明かりに照らされて煌々と輝いている。

 まるで、この世のものとは思えないそれは一声、「くぉん」と鳴くと赤い瞳で私を見た。

 その、鋭くとがった冷酷の目は私を睨んでいるかのように思える。いや、実際に睨んでいるのだろう。

 そして、その狐は言った。


「帰るぞ、七星――我の妻」


「はぁい」


 ✝


 20XX年8月16日 の最新ニュースをお伝えします

 今日未明、直木賞作家の――――さんが自身の部屋で死亡しているのが近隣の住民の通報により発見されました。

 ――――さんは、日本の古来からの文化、伝統を元にした作品で有名であり、――――ツーツーツー


 ✝


「ねぇ、どうです?わたしと、一夜、過ごしませんか?」


 わたしは、新しい居候先を見つけた。

 ありがとうございます

 感想とかどうぞー

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