↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

三組

作者: 髙山あきら
掲載日:2026/10/25

毎日顔を合わせているはずなのに、昨日の顔が思い出せない。


そんなことが、本当に起こったら。


短いホラー小説です。どうぞお楽しみください。




「おかしいんです。毎日、子どもたちの顔が変わるんです」

 職員室でそう訴えると、教頭は書類から顔を上げ、心配そうに私を見た。


「先生、なにかありました?」


「昨日までいた子が、今日は別の子になっているんです。名前も席順も変わっていないのに、顔だけが違うんです」

 

 教頭はしばらく黙っていた。それから、私の肩にそっと手を置いた。


「そんなふうに子どもたちの顔が変わるなんて。先生、無理をされているのでは?」


 私は納得できなかった。毎日、子どもたちの顔を見ているからこそ、異変に気づいたのだ。


 それなのに、私の努力が足りないのだろうか。いや、今、子どもたちと向き合うのをやめてはいけない。


「私は、大丈夫です」


 職員室を出ようとした時、廊下で学年主任に呼び止められた。


「先生、少し顔色が悪いですよ。休んだほうがいいんじゃないですか?」


「大丈夫です。三組の子どもたちが心配なだけですから。あの子たち、いつも私を呼びに来るんですよ」


 そう答えると、学年主任は何か言いかけて、結局、困ったように微笑んだ。

 

「……そうですか。無理はしないでくださいね」

  学年主任は、ほかの先生たちと小声で話し始めた。私は気になったが、迎えに来た三組の子どもたちと教室へ向かった。

 

 三組の教室は廊下の突き当たりだ。


 教室に入ると、窓際の席に佐藤くんが座っていた。


 私は出席簿を開き、佐藤琥太郎くんという名前を確かめた。

 間違いない。佐藤くんだ。

 それなのに、私にはどうしても、その顔が昨日までと同じには見えなかった。


「おはようございます!」

 少年は元気よく挨拶すると、机の上から筆箱を落とした。隣の子が笑い、少年もつられて笑った。


 私は挨拶を返した。少年は何の疑いもなく、いつものように私を先生として見ていた。

 

 翌日には、さらに三人の顔が変わって見えた。子どもたちはいつもどおり、「先生、見て見て!」と描いた絵を見せに来たり、休み時間に友達と追いかけっこをしたりしていた。私の顔を見ると、嬉しそうに手を振る子もいた。


 けれど、昨日までその子がどんな顔をしていたのか、どうしても思い出せなかった。目の前で笑っている子どもたちの顔が、初めからそうだったように思えた。


 私の覚え違いなのだろうか。毎日顔を合わせているのに、こんなにも子どもたちの顔を覚えられないなんて。


 ここ最近、集中力が続かない。疲れがたまっているのかもしれない。それでも、子どもたちを放っておくわけにはいかなかった。

 

 私は教頭にもう一度相談しようと考えた。午後の授業のために、教室へ向かう途中、廊下の掲示板に貼られた学年新聞が目に入った。


 先月、学年全員で栗拾いに出かけたときの写真だった。子どもたちが、拾った栗を手に笑っている。


 ——三組の写真がない。


 私は立ち止まり、新聞を隅から隅まで確かめた。一組も二組も、楽しそうな写真が載っているのに、三組だけがどこにもなかった。


 あの子たちだって、栗拾いを楽しんだのに。

 私は新聞を見つめた。こんなの、あんまりだ。今日の授業が終わったら、教頭に報告しなければ。

 

 私は出席簿を抱え、廊下の突き当たりへ向かった。

 教室の扉に手をかけたとき、背後から声がした。


「先生、どこに行くんですか?」

 振り返ると、二組の児童が不思議そうに私を見ていた。


「自分のクラスですよ?」


「先生は二組の副担任じゃないですか」


「え? 私、三組を……」

 児童は困ったように眉を下げた。


「三組なんてないでしょう? 先生、こっちだよ?」


 児童は困ったように私を見つめていた。私は手元の出席簿を開いた。


 三組の児童の名前は並んでいる。佐藤くんも、田中くんも、鈴木くんも私の生徒だ。


「うん。あとで行くからね」


 私はそう答え、出席簿を抱えたまま廊下の突き当たりへ向かった。


 私は扉に手をかけた。

 扉を開けると、子どもたちが席についていた。机と椅子は整然と並び、教室にはいつものざわめきがあった。


 私は入り口に立ったまま出席簿を開き、窓際の席へ目を向けた。


「佐藤君」


 窓際の少年が、元気よく返事をした。


 その瞬間、佐藤くんの顔がぐらりと揺れた。目の前にいるのに、私はどうしてもその顔を覚えられなかった。


 私は出席簿に丸をつけ、次の名前を呼ぼうと顔を上げた。ちゃんとしなければ。顔がわからないままでは、担任として失格だ。


 それなのに、子どもたちの顔を、今日も私は認識できないでいた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この物語で描きたかったのは、自分の認識がおかしくなっているのではないかと疑いながらも、その恐怖から逃れられないことです。


主人公には、子どもたちの顔が変わって見えています。しかし、周囲の人々には、別の光景が見えているのかもしれません。


では、主人公は何を見ているのでしょうか。


そして、もしあなたがこの教室を外から見ていたら、そこには何が見えるでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
这是一部制作得非常出色的恐怖片。 孩子们始终保持着一种模糊不清的状态,这种处理方式效果极佳!
三組なんてないのに、出席簿にはちゃんと名前があって、教室に行けば子どもたちもいる。名前を呼べば返事まで返ってくるのに、それでも本当に三組はあるのかと疑ってしまう恐怖。 最後まで子どもたちの顔が分からな…
イイ感じにゾワゾワきました!さすがですね。 翌日には忘れてる病気系かと思ったのですが、本来存在しないクラスの話をして、周りも生暖かい反応。 子供達は3組の存在を知らない。 自分一人が変で、2組に行って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。