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第6話:三センチのズレが暴く、悪魔の脚本(シナリオ)

 学園の廊下は、凍りついたような静寂に包まれていた。

 昨日私が助けたはずの少女は、潤んだ瞳で私を見つめ、毒のような言葉を紡ぐ。


「アステリア皇子、殿下……。あの方は……キサラギ様は、仰っていました。殿下こそが、この国に真の平和をもたらす方だと」


 周囲の貴族たちの視線が、一斉に私へ突き刺さる。


「……そうか。ようやく合点がいったぞ」


 私の隣で、レオが低く唸った。

 その瞳には、最悪のパズルを解き明かしたかのような鋭い光が宿っている。


「ジークヴァルト。昨日の『人さらい』は失敗だったんだ。組織の裏の背景がバレるのを恐れて、**アステリアの配下である『キサラギ』がトカゲの尻尾を切った。**つまり、人さらいそのものがアステリアの国の仕業だったというわけだ」


 ジークヴァルトも冷徹に眼鏡を押し上げ、深く頷く。


「そうだ、レオ。アステリア……恐ろしい男だ」


 二人の天才児が、その知能ゆえに「一つの誤解」を真実として完成させていく。


(……わあ。たった一言でそこまで分かっちゃうの?てか、全部間違いだけど。私とキサラギが『悪の主従関係』にされちゃったわ。田中先生もびっくりね)


 ***


 だが、私は二人とは別の違和感を抱いていた。


(……おかしい。昨日、私が彼女を抱き寄せた時の心拍。今の彼女には、それが全くない。立ち姿が、三センチほど左にズレている。……この少女は別人だ。いや、中身が別物と言っていいかもしれない)


 武道家としての直感。

 目の前の彼女は、すでに「人間」の重心をしていない。


 指摘すれば正体がバレるが、放置すれば二人も危ない。

 その時、廊下の向こうからビーカーを山積みにした日直が通りかかるのが見えた。


(ごめんね、日直さん! あとでマカロン奢るから!)

(おばあちゃん、なぎなたの「虚」の極意……今こそ使わせてもらうわよ!)


 私は怯えた顔で、右手右足を同時に出す「なんば」の足運び。

 力みを消し、虚偽の隙を晒す。


「レオ君、待ってください。彼女、顔色が……わ、わわっ!?」


 駆け寄るふりをして、計算された自爆――。

 日直の死角へ足を滑り込ませる。


「きゃっ!?」「うわあああ!?」


 ガッシャーーーン!!

 砕け散ったビーカーから、魔力を暴く薬液が少女の頭へ豪快に降りかかった。


「「きゃあぁぁーーーっ!?」」


 周囲の女生徒が悲鳴を上げる。


「なにがあったの?」

「だって、あの子の肌が……っ!」


 薬液を浴びた少女の顔がズルリと溶け落ち、下からドス黒い鱗が覗いた。

 悪魔は自分の濡れた手を見て、間の抜けた声を上げた。


「……ありゃ? 偽装が解けた? 嘘だろ」


 悪魔は頬からぶら下がった皮膚をペリリと剥ぎ取ると、

 開き直ったように首を鳴らした。


「ちっ、バレちゃーしかたねーな。せっかく最高にドロドロした脚本シナリオを書いてたってのに。台無しだよ、このドジ皇子が!」


「貴様……! 俺の誇りを弄んだこと、後悔させてやる!」

「跪け、不浄なる者。……【重力魔法・グラビティ・プレッシャー】!」


 ジークヴァルトの重力が悪魔を地面に叩きつけ、

 レオが黄金の獅子のごとく跳躍した。


「塵になれぇぇっ!」


(……! 核の拍動が速すぎる。魔力が内側に逆流してる……!)


 田中先生の教えが脳裏をよぎる。

『如月、追い詰められた獣が最後に見せるのは逃走ではなく、心中だ』。


(口封じの自爆はさせない!)


 倒れ込み、泣き真似をしながら指先を床につける。

 二人の攻撃の光に紛れ、精霊魔法を悪魔の核へ一点集中で叩き込んだ。


「――ぶ、がっ……!? な、なんだ、この……見えない、光、は…………っ!?」


 悪魔はレオの剣が届く一瞬前、

 アステリアが放った「見えざる手」によって内側から爆散した。


 ***


「……やったな、ジークヴァルト。俺たちの連携、完璧だったぜ」

「ああ、レオ。お前の力押しも、悪くない」


 八歳にして悪魔を討った「英雄」たちが、がっしりと握手を交わす。


「……あ、ありがとうございます。……あうう、本当に怖かったです……」


 情けなく震える私を見て、レオが複雑な表情で笑う。


「アステリア、お前のその『ドジ』が世界を救ったんだ。……お前の『裏の顔』への疑惑は消えんが、今回ばかりは感謝してやるよ!」


(……はいはい、英雄さんたち。まあ、仲良くなれたなら、それでいいわ。私が『悪の黒幕』だと思われているうちは、平和だものね)


 こうして悪魔の騒動は幕を閉じた。

 レオとジークヴァルトは、共通の敵(だと思い込んだ)アステリアを監視するため、かつてないほど固い友情で結ばれた。


 だが、この時悪魔が口にした「ドロドロした脚本」の真意を、

 三人はまだ知る由もなかった。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

「なぎなた」、実は戦国時代前期の最強武器だったんですよね。

剣と魔法の世界でも最強となるでしょう。


次回以降も、キサラギの活躍は続きます。

でも、「恋バナ」の行方は……w?

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