第3話:キサラギ・あおい、異世界で女子会を狙う
「アステリア殿下だわ!」
「なんて凛々しいの……!」
聖アルカディア学園、入学初日。
登校した瞬間、私は黄色い悲鳴の嵐に包まれた。
魂は女子中学生、
身体も正真正銘の女の子である私にとって、
同世代の女子は
「恋バナを語り合う仲間」であって「ファン」ではない。
(やめて、そんな熱い目で見ないで! 本当は私も、みんなと一緒に新作のリップの話とか、推しキャラの尊さについて語り合いたいの!)
逃げたい。今すぐ一人になりたい。
焦った私の生存本能が、
おばあちゃんの呪い(教育)を呼び覚ます。
私はスッ……と気配を消すと、
一歩歩くごとに周囲の意識を巧妙に逸らし、
いつの間にか女子たちの**「死角」**へと滑り込んだ。
(田中先生が言ってたっけ。**『如月、三センチのズレが三メートルの視界の空白を生むんだ。相手の眼球の動きを読め』**って。……うん、みんなの目線が私を通り越していく。成功だわ)
「あれ? 殿下はどこ?」
「今、目の前にいらしたのに……」
困惑する女子たちを、私は柱の影からそっと見つめる。
死角に潜む「王国の神童」。
その実は、ただの友達が欲しい引きこもり乙女であった。
***
午後のカリキュラムは、新入生の『魔戦力測定』。
教壇に立つバルトロメウス先生が、ニヤリと不敵に笑う。
「西側の将来を担う雛鳥ども、まずはその牙を見せてもらおうか。……アステリア皇子。君の相手は、帝国のレオ皇子だ」
私の噂はここでも広まっているらしい。
演習場が沸き立つ。
大剣を担いだレオが、猛獣のような目で私を睨みつける。
「手加減はせんぞ、王国の神童殿! その細腕、へし折ってくれる!」
(へし折るな、これでも女の子の腕だぞ!)
開始の合図とともに、
レオが地響きを立てて突っ込んできた。
だが、おばあちゃんに比べれば、
彼の動きは「止まって」見える。
私は一歩も動かず、
なぎなたの**「演技競技」**で培った、
コンマ数秒、数ミリの静止――
レオが剣を振り下ろす直前の、わずかな「視覚の死角」を突いた。
「……消えた!?」
レオの視界から、私が消失する。
私は彼の死角へ潜り込み、
背後から鞘でトントンと彼の肩を叩いた。
なぎなたの**「しかけ・応じわざ」**における、
完璧な後の先。
(危ない……反射的に、レオ君の無防備なスネに鞘を叩き込みそうになったけど、なんとか理性が勝ったわ。初対面の男子のスネを粉砕するのは、乙女としてNGよね)
「……そこまで、ではないでしょうか」
静まり返る演習場。
バルトロメウス先生が冷や汗を拭いながら呟く。
「……わざと死角を潰して追い込もうとするレオの圧を、かるがるとかわし、逆に上を取るとは。噂以上だ」
そこへ、拍手をしながら現れたのが、
東側連合王国の勇者候補、ジークヴァルトだった。
魔法の本場である東側は、
何かと剣の本場である我々西側に対抗してくる。
「やれやれ。未だに下等な剣を使っているとは……。地味で根暗な床下のキノコには、魔法の輝きなど一生理解できまいな」
ここは西側の学園だ。
一瞬で周囲から敵意の目が彼を襲う。
私もムッとしたが、
おばあちゃんに『感情を隠せ』と
しつこく躾けられたため、顔は無表情だ。
その冷徹なまでの静寂が、
彼には余裕たっぷりの強者に映ったらしい。
(……キノコ。そうだよ、私は死角に生えるキノコだよ。でもねジークヴァルト君、キノコをなめると、いつの間にか君の背後に生えるわよ?)
***
だが、本番の地獄はその後だった。
『健康診断・身体検査』。
(終わった……。脱いだら、女の子だって一発でバレる……!)
私はパニックになりながら、学園内を音速で逃げ回った。
廊下の死角、天井の梁、地下の貯蔵庫。
「アステリア殿下! どこですか!」
(無理無理無理! 脱いだらこのサラシと腹巻き(おばあちゃん指定)がバレるじゃない! 皇子の腹に腹巻きなんて、乙女のプライドが音を立てて崩壊するわ! 脱ぐくらいなら、おばあちゃんと真剣勝負したほうがマシ!)
夜。疲れ果てて寮の自室に辿り着いた私は、
バサリと上着を脱ぎ捨てた。
そして精霊王から授かった、認知を歪める魔法を発動させる。
「銀色の髪は……栗色に。瞳の色は、緑に変えて……」
鏡の中にいたのは、凛々しい皇子ではない。
前世の「如月あおい」に似た、
ずっと私が戻りたかった「普通の女の子」の姿だった。
「よし。今の私は、ただのキサラギ・あおい。……待っててマカロン、明日こそ絶対、女子会デビューしてやるんだから!」
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
長編ファンタジーも書いてます。
宜しくお願い致します。




