表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

第2話:精霊の迷宮と、一振りのなぎなた

 五歳のあの日から、

 私の生活はさらに「可愛さ」から遠ざかっていった。


 お披露目の儀で

 暗殺者を一撃で沈めたせいで、

 騎士団長が私の「剣の才能」に狂信的な

 期待を寄せるようになったからだ。


「……殿下、今の足捌き。もしや地脈の力を利用されたのですか?」

「いえ、ただの送り足です」

「なんと……基礎の中に究極のことわりを秘めておられるとは!」


 違う。

 本当におばあちゃんに「畳の目を見て歩け! 隙を見せるのは、他人に死ねと言うのと同じだと思え!」って正座で三時間説教されただけなんだってば。


 私にとっては「地味で当たり前」の基礎だが、この世界では「失われた神技」か何かに見えるらしい。心外すぎる。


(田中先生も言ってたっけ。『如月、基本を舐めるな。お前の送り足一歩に、相手の生死が懸かってると思え』……。まさか異世界で、一歩踏み出すたびに歴史が動くとは思わなかったよ)


 そんな「最強皇子」としての重圧に耐え続け、私は七歳になった。


 夏。妹のナタリーと、辺境伯の領地へ避暑に訪れた時のことだ。


「お兄様、見てください! お花がとっても綺麗です!」

「そうだね、ナタリー。……ん?」


 花冠を作ってはしゃぐナタリーの隣で、私は妙な「音」を拾った。


 風の音に混じって聞こえる、細い悲鳴。


(……無視。無視してマカロンのこと考えよ。……あー、でも気になる。おばあちゃんによく言われたっけ。『弱い者の泣き声を聞いて足を止める度胸がないなら、なぎなたなんて置いちまえ』って)


 染み付いたお節介はおばあちゃんの教育の賜物か。


 私は溜息をついた。


「ナタリー、ちょっと様子を見てくる。そこで待ってて」


 茂みをかき分け、踏み込んだ瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。


 気づけば私は、大気が魔力で淀んだ迷宮の中にいた。


 目の前には本で読んだことがあるゴブリンの群れ。


 護身用の短い剣では間合いが近すぎて、私の技術が死ぬ。


「あー、もう! せめてあと1メートル長ければ……ッ!」


 その切実な願いに応えるように、

 迷宮にいた精霊たちが私の剣に飛び込んできた。


 光が収まったとき、私の手には「それ」があった。


 緩やかな曲線を描く、鋭い刃。

 しなやかで強靭な、白木の柄。


 前世で共に汗を流した、私の、私だけの相棒。


「……なぎなた」


 そこからは、もはや作業だった。


 理想の武器を手にした私は、おばあちゃんの指導を思い出しながら魔物を一掃した。


 **「しかけ・応じわざ」の要領で魔物の首を刈り、なぎなた競技特有の「スネ(膝下)」**を正確に薙ぎ払って姿勢を崩す。


 圧倒的な長さと円の旋回を活かした蹂躙。


 そうして迷宮の奥で救い出したのは、

 風を纏った絶世の美女、精霊王だった。


 彼女はクスクスと笑った。


「見事な舞だったわ。……でも、そんなに窮屈な『殻』を被って、苦しくはないかしら? 可愛いお姫様」


 心臓が跳ね上がった。


 八年間、ずっと一人で抱えてきた「本当の自分」を言い当てられたのは、初めてだった。


「……お願いです。私が女の子だっていうことも、ここで無双したことも、全部内緒にしてください。私、地味に生きたいんです。本当は引きこもってマカロン食べていたいだけなんです」


「ふふ、面白い子。いいわ、あなたの望み通り『地味』なまま帰してあげる。その武器も、普段は短剣に見えるようにしておいたわよ。それに……そうね、おまけの魔法をあげる」


 彼女は私の額に触れた。


「いつかあなたが『自分』に戻りたくなったとき、役に立つ魔法よ」


 数分後、森を抜けた私を待っていたのは、捜索隊の軍勢と、一週間も私を探し続けて憔悴した両親、そして泣き腫らしたナタリーだった。


「お、お、お兄様ぁぁぁあああ!!」


(……一週間!? 森で過ごしたのは数時間のつもりだったのに)


「殿下! 一体どこへ……その、全身から漂う神々しい気配は……!」


「あ、これ? ……なんか、穴に落ちて寝てただけです。この短剣は、落ちてた骨董品です。魔力? 穴にいた変な虫に刺されたせいじゃないですかね?」


 必死の隠蔽工作。


 私は「なぎなた」と「女の子である自分」を知る唯一の味方を得て、また「地味で根暗な皇子」のフリをして生活することに決めたのだ。


 ……そう、学園に入るまでは。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

長編ファンタジーも書いてます。

宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ