第19話:玉座に立つ影。デジャブの正体
天を突く漆黒の尖塔。
雲を割り、紫の雷鳴をまとう魔王城は、
まさにこの世の終焉を体現したかのような重圧を放っていた。
だが、勇者一行がその巨大な門を潜り抜けた先に
広がっていたのは、予想を裏切る「光景」だった。
「……なんだ、ここ」
ジークが絶句する。
そこは、広大な吹き抜けのロビーだった。
禍々しい彫刻が施された柱の脇には、整理番号を持った
サイクロプスや、書類の山を抱えたリッチたちが列をなしている。
陳情、報告、相談。魔王という「絶対権力者」に裁決を仰ぐため、
魔物たちは殺気立つこともなく、規律正しく順番を待っていた。
「あー、お久しぶりです。あの時はびっくりしましたよ、本当に」
人混みを割って現れたのは、
かつてあおいが消滅させたはずのデーモンロードだった。
今は漆黒のスーツのような革鎧を纏い、
手には魔法のタブレット(のような石板)を抱えている。
「な……あんた、死んだはずじゃ……」
「いやあ、魔王様の福利厚生は手厚いですからね。即座に蘇生・再雇用ですよ。さあ、魔王様は分刻みのスケジュールですので、こちらへ」
呆然とするレオ、ジーク、かをる。
あおいだけは、そのデーモンロードの「敏腕秘書」の
ような身のこなしに、かつての生徒会役員の面影を見て、嫌な予感を強めていた。
ロビーの奥、巨大な観音開きの扉が開く。
そこには、世界の命運を握る「魔王幹部衆」が、
威圧的な殺気を放ちながら待ち構えていた。
「さて、始めようか。勇者たちよ」
玉座に深く腰掛けた魔王が、
静かに、しかし地を這うような重低音で告げる。
「へーっへっへ、こんな子供たちが勇者ですかい。300年も待って、これじゃあ気が抜けますよ、魔王の旦那」
幹部の一人、道化師のような姿をした高位魔族が肩をすくめて笑う。
「それは勇者たちに勝ってから、お前らのクレームは受け付けてやる。こいつら、強いぞ」
「はは、では、仰せのままに」
刹那、玉座の間は戦場へと化した。
「ユリア(かをる)、行くわよ!」
あおいの号令と共に、かをるが突風となって駆け抜ける。
如月流の鋭い踏み込み。一閃。
幹部の影が裂けるが、相手は魔法を極めた異世界の怪物たちだ。
空間を歪め、遠隔から無慈悲な魔法弾が降り注ぐ。
「くっ……!」
なぎなたは物理攻撃に対して無敵の防御を誇るが、
見えない位置からの魔法攻撃には僅かな死角が生じる。
「ユリア、俺が支える!」
ジークが即座に防壁魔法を展開し、魔法弾を相殺。
その横を、黄金の光を纏ったレオが駆け抜けた。
「おい、ユリア! 俺たちも忘れるな。一緒に戦うぞ!」
レオの聖剣が魔王幹部の結界を叩き割り、混戦は激しさを増していく。
ジークが胸元の至宝『プライム・ジュエリー』を解放する。
「ユリア、受け取れ! これが我が王家のすべてだ!」
溢れ出した光の濁流が、かをるの魂へと流れ込む。
古の時代に魔王が王家に授けた『勇者の揺りかご』。
それが今、最強の少女と融合した。
「……如月流・奥義。――『天蓋・両断』!!」
一閃。光の刃は幹部たちを薙ぎ払い、
そのまま魔王城の厚い外壁を、空間ごと深々と断ち割った。
轟音。漆黒の尖塔が、右と左にゆっくりと泣き分かれていく。
屋根が、壁が、恐怖の象徴だった城が、
文字通り「真っ二つ」に切り裂かれた。
吹き抜けになった天井から、月光が、
剥き出しになった玉座を照らし出す。
「……やったか?」
ジークが膝をつく。
だが、瓦礫の山となった玉座の跡に、
微塵の揺らぎもなく立っている男がいた。
あおいのなぎなたの先、わずか三センチ。
魔王は事務的な声で呟いた。
「ほう。かをるの奴、あの玩具を使いこなしおったか。……及第点だな」
しかし、レオはその中で異様な光景を目にした。
乱戦のただ中、あおいだけが動いていない。
「あおい……?」
レオが息を呑む。
あおいは、玉座から立ち上がった魔王と正対していた。
距離にして数メートル。だが、二人の魂は、刃を交える前の**「三センチの間合い」**ですでに激突していた。
一ミリ肩が動けば、世界が割れる。
瞬き一つが、死を意味する。
かつて、如月中の中等部・高等部の全校生徒が見守る武道場で、静寂の中に響いていたあの「空気」と同じものが、この魔王城を支配していた。
あおいは、目の前の魔王の立ち姿、微かな呼吸の音、そして指先の動きに、確信を深めていく。
(この、デジャブ。……この人を、私は知っている)
レオたちは幹部との死闘を繰り広げ、あおいは沈黙のまま、魔王の「内面」を暴く一撃の機会を伺っていた。
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