第16話:死角は間合いの内側に。なぎなたVSレイピア
「……その武器はなんだ? 魔界でも見たことがないぞ」
デーモンロード――ヨーダ先生は、眼前に現れた美しき少女剣士と、
その手に握られた奇妙な得物を凝視し、戦慄を帯びた声を漏らした。
「それに、その姿。……お前がキサラギだというのか? では、あの娘は一体……!?」
彼が「キサラギ」を封じるために、大真面目に王都中のほうきを排除させた根源的な恐怖。
その正体が、目の前の神童王子の「変身した姿」である事実に、魔国代行としての理性が悲鳴を上げる。
しかし、彼は即座に口角を歪め、昏い歓喜を瞳に宿した。
「あなたが……。ふふ、それなら話が早い。ここで散っていただきましょう」
あおいは静かに、しかし凛とした声で応えた。
「私が、如月あおいです。……先生、お待たせしましたね」
「舐めるなよ、小娘がッ!」
混乱を殺意で塗りつぶし、ヨーダ先生のレイピアが再び閃く。
一打に十の残像を込めた神速の刺突。
しかし、あおいは半身に構えたなぎなたの柄を滑らせ、円を描くような最小限の軌道ですべてを弾き飛ばした。
金属音が重なり合い、白銀の火花が夜の闇を鮮烈に染め上げる。
「な……!? レイピアの速度に、その長尺で追いつくだと!?」
「遠心力を利用すれば、先端の速度はあなたの腕の動きを超えます。……次は、こちらの番ですよ」
その頃、階下の中庭では、一人の「王女」が周囲を震撼させていた。
「ジーク様に……指一本触れさせませんわッ!!」
ユリアだった。
負傷したジークヴァルトを背後に庇い、手にした折れた棒切れ一本で、襲い来る魔族の精鋭たちを次々と叩き伏せていた。
最短距離で急所を打つ刺突、無駄のない足捌き。
ジークを守るという一念が、彼女の内に眠る本能を呼び覚ましていた。
「な、なんだあの王女は……! き、キサラギめーーーっ! 化け物か!?」
魔族たちが絶望的な悲鳴を上げる。
だが、その言葉を聞いたユリアは、眉を吊り上げて凛然と言い放った。
「失礼ですわね! 私はキサラギなんて恐ろしい名前ではありませんわ! 私はユリア、ただの王女ですわ!」
「「「えええええええええっ!?!?(敵味方総ツッコミ)」」」
その光景を横で見ていたレオは、
激しい戦いの中で、不思議な安堵を覚えていた。
(……ああ、よかった。やっぱり、ユリアはキサラギじゃなかったんだ)
レオにとって「キサラギ」とは、
戦火を呼ぶ神話の怪物のようなイメージだ。
だが同時に、どことなく神秘的で、時折見せる表情が胸をときめかせる。
もしジークに片思い中のユリアがキサラギなら、と考えるとレオは複雑な思いで夜も眠れなかったのだ。
そんな矢先、「私はただの王女」という叫びを耳にし、彼はようやく彼女を、自分の手の届く「ユリア」として信じ直すことができた。
だが、安堵したのも束の間。ユリアの動きがふと止まる。
戦いの中、極限まで研ぎ澄まされた彼女の「感」が、旧校舎の最上階から放たれる凄まじい気配を捉えた。
白銀の光と共に溢れ出す、懐かしくも恐ろしい、けれど何よりも恋焦がれた「凛とした風」。
「あおい……先輩……?」
無意識にこぼれたその名を口にすると、自然と涙が流れた。
ユリアは棒切れを強く握りしめ、吸い寄せられるように光の源へと走り出した。
特別講師室では、戦いが最終局面を迎えていた。
ヨーダ先生は身体強化を最大まで引き上げ、残像を残しながらあおいの死角へと潜り込んだ。
「これで終わりだ、如月あおい!」
だが、あおいは見向きもせず、なぎなたを背後へ滑らせ、石突きで先生の鳩尾を正確に貫いた。
「ぐはっ……!?」
「死角は、間合いの内側にしか存在しませんよ」
あおいは流麗な動作でなぎなたを振り抜き、先生の持つレイピアを弾き飛ばした。
丸腰となったデーモンロードの喉元に、あおいの刃がぴたりと止まる。
「……チェックメイトですね、先生」
その時だった。
「せんぱああああああああああい!!」
扉が勢いよく開き、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたユリアが飛び込んできた。
彼女は変身したあおいの姿を見るなり、全力でその腰にしがみつく。
「あおい先輩! 私です、かをるです! 先輩ーー!」
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