帰ってきて
「……。」
朝、夢を見た、それは浩介が前を向いていられる理由で、俺が前を向かなきゃと思った理由。
「前、向かなきゃな……。」
約束したんだ、一緒に歩いて行こうって、それは、浩介が死んじゃったからって、無かった事にしていいもんじゃない。
悠治と二人で、浩介の分まで生きなきゃならない、幸せになって、安心させてやらないと、そう思って、俺は少しだけ勇気が持てた気がした。
「あら、おはよう。」
「おはようございます。」
「昨日はゆっくり寝れたかしら?私も八重ちゃんも、久々の実家で少し安心しちゃったわ。」
「はい、ゆっくり寝れました。」
一階に降りると、園枝さんが朝ごはんを用意してるところだった、じいちゃんは台所にいて、いい香りがする。
「そういえば、じいちゃんは一人なんですか?」
「そうね、悠介君は覚えてないものね。悠介君達が泊まりに来る一年前かしらね、お母さんが亡くなったのは。私が結婚して旦那とうまくいかなくて、ここに帰ってきて半年だったはずよ。」
「そう、だったんですか……。」
じいちゃんは、一人で民宿を守ってきたのか、園枝さんが久々に帰ってきた、って言ってたし、他に身内っぽい人は見かけてないし、じいちゃんは一人で、この民宿を続けてたって事になる。
「お父さんも、ショックで何も手がつかない時間が続いてね。でも、生きていく為には働かなきゃいけない。そんな時だったのよ、あなた達が来たのは。」
「そうだったんですか?」
「えぇ。お父さんったら、悠介君達が来て以来元気になってね、俺も爺として立派に生きにゃならんが!って言って、私は安心して本土に行ったの。」
じいちゃんにも、そういう事があったんだ、当たり前っちゃ当たり前かもしれないけど、元気そうなじいちゃんを見たり、手紙を読んでた感じでは元気そうだったから、意外だ。
「じいちゃん、強いですね。」
「そうかしら?そう見えたとしたらきっと、あなた達のおかげね。あなた達が来てくれたから、お父さんは元気になったのよ。」
「そう、なんですか。ちょっと恥ずかしいけど、それは嬉しいです。」
「浩介君が生きた意味は、お父さんの中にもあるわね。勿論、私の中にも。私もね、あなた達を見て、八重ちゃんの為にケンカしっぱなしはいけないと思って、旦那と話をしたのよ。あなただけじゃない、みんなの中で、浩介君は生きているのよ。」
それは、とっても嬉しい、比嘉さんも、園枝さんも、じいちゃんも、みんな、浩介の事を、俺達の事を覚えてくれていて、俺達が生きてきた意味を教えてくれる。
俺達が何かしたわけじゃなかったとしても、そう思ってくれる事が、嬉しい。
「いつか、全部思い出せますかね……。」
「えぇ、きっと。思い出せるって信じてるわ。だって、あんなにも素敵な子が傍にいてくれてるんだもの。」
園枝さんは、俺の幻覚を幻覚だと思ってないみたいだ、俺も、違うんじゃないかってちょっと思ってるけど、こうも断言されると、そう信じてるんだろうなって、すっごい感じる。
「お兄さん、おはよ!」
「八重子ちゃん、おはよう。」
「もう泣いてない?」
「うん、もう泣いてない。みんながいてれるから、もう大丈夫だよ。」
八重子ちゃんが起きてきて、心配そうに俺の顔を見上げる、俺は、心の底から、大丈夫だって思って答える。
「昨日ね、夢を見たの!あたし、お兄さんたちに遊んでもらってたんだって!浩介お兄ちゃんと、悠介お兄ちゃんに。おじいちゃんが、ずっとお話してくれてたんだ!」
「そう、なのかい……?」
「おじいちゃんが言ってた、あたしを大事にしてくれた子達、ってお兄ちゃん達の事でしょ?あたし、思い出したんだ!」
俺はびっくりして、八重子ちゃんを見つめる、嘘は言ってないと思う、って事は、四歳位の時の事を思い出したって事か。
「ごめんね、俺が覚えてなくて。」
「ううん、ままが昨日教えてくれてたの。悠介お兄ちゃんは、浩介お兄ちゃんがここに連れてきてくれたんだ、って。」
連れてきてくれた、本当にそうだ、いくつもの奇跡が重なって、浩介の想いがあって、色んな人の願いがあって、俺はここにいる。
「悠介お兄ちゃん、悠介お兄ちゃんは浩介お兄ちゃんの事、好き?」
「……、大好きだよ。誰よりも好きで、他のよりも愛してる。それは、記憶がなくなったって、変わらないよ。」
「あたしもね、大好きだよ!」
「ありがとう、八重子ちゃん。」
そういった所で、園枝さんが朝ごはんを出してくれた、朝ごはんはスパムと目玉焼きとみそ汁っていうシンプルな内容で、俺は八重子ちゃんと園枝さんと話をしながら、ゆっくりと朝ごはんを食べた。
「んだが、またな悠坊。」
「またね、じいちゃん。今度は、悠治連れてくるよ。」
「元気でね、悠介君。」
「悠介お兄ちゃん、また会おうね!」
朝十時、フェリーに乗りに港に出た、うえまの皆が見送りに来てくれて、俺は見送られてフェリーに乗った。
「待ってたぞー、伊江島は楽しかったか?」
「はい、少しだけ、思い出せました。」
本島に戻って、比嘉さんが出迎えてくれる、比嘉さんは、俺の言葉を聞いて嬉しそうに顔をクシャっとした。
「それで?この後はどこ行くんだい?」
「えっと、国際通りに行って、夕方の便で帰ります。」
「そか、寂しいな。」
「また来ます、記憶取り戻して、必ず。」
タクシーに乗り込んで、ちょっと一息。
「おまえさん、昨日とちょっと雰囲気違うな?何て言うか、憑き物が落ちたっちゅーか。」
「思い出せたから、だと思います。それに、皆が俺達の事覚えてくれてて、それで……。励ましてくれたんです、俺は忘れちゃってるっていうのに。」
「そか、そりゃよかったな。弟さんには連絡ちゃんとしたか?」
「今日帰ったら、会いに来てくれるって言ってました。」
そりゃよかったな、と比嘉さんはホッとしてるみたいだ。
「おまえさん達に会ってからな、俺も頑張らにゃいかんって思ったんだよ。かみさんの分まで、な。」
国際通りまでタクシーを走らせながら、昔話をしてくれる。
「俺もそうです。浩介の分まで、幸せにならなきゃって、昨日思いました。」
「それがいいさ。お互い、死んじゃいけねぇ理由が出来たな。」
「そうですね。」
多分、旅行に出る前の俺と、今の俺は、別人みたいに見えると思う、それだけ感情に変化があったというか、思い出したのもあって変わったなって、自分でも思うから。
浩介の事は大事だ、それは変わらない、でも、もう幻覚に縋ったりしない、ずっと浩介は俺の傍にいてくれる、それがわかってるから。
「そんじゃ、また呼んでくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
国際通りの入口に着いて、俺はタクシーを降りた、比嘉さんは夕方になったらまた来る、って言ってくれて、とりあえず昼ごはん食べるか、って腹が鳴る。
「ここかな?」
旅のしおりに書いてあった、サムズセーラ―イン国際通り店、を探す、学生の冬休みとかぶってるからか、国際通りは人通りが多くて、ちょっと酔う。
「ここか。」
ほどなくして店を見つけて、俺は昼ご飯を食べに行った。
「美味しかった、前もここ来たのかな。」
一時間後、さして収穫もなく、昼ご飯を食べ終わってまたふらふらと国際通りを歩く。
「なんだか、懐かしい気がするな。」
八年前、俺は浩介と二人でこの通りを歩いた、それを知ってるからか、何か思い出しそうだからなのか、懐かしさを感じるんだ。
「このお店……。」
ふと、一軒の土産屋の前で立ち止まる、覚えがある、この看板とこのレイアウトには覚えが。
「いらっしゃい!」
「……。」
入り口にはどこにでもありそうなシーサーの陶芸品、中にはいろんな味のちんすこうや紅芋タルト、他にも似たような店はありそうなものだけど、どこか懐かしさを感じさせる、その古めかしい店。
「何が欲しい?って、悠ちゃんじゃないか!」
「俺の事、ご存じなんですか?」
「ご存じも何も、親戚だろう!なんだなんだ、八年も会わない間に忘れちゃったのかい?浩ちゃんは?一緒じゃないのかい?」
「えっと……。親戚?」
レジカウンターから、どっか俺に似た店員が出てきて、話しかけてくる。
「そうだよ!はとこって言っても、何回か会った事あるだろう?」
「ごめんなさい、記憶喪失になっちゃって。」
三十代位の俺のはとこ?は、びっくりした顔をしてる、両親が亡くなってるし、多分俺は一人っ子だったから、話が回ってないのかな?
「記憶喪失って……。浩ちゃんは?」
「浩介は……。事故で、亡くなりました。」
何度言うことになっても、こればっかりは辛い、店員はますます驚いた顔をして、それから悲しげな顔になる。
「そっかそっか、それは辛かったなぁ。悠ちゃん、浩ちゃんの事大好きだったもんなぁ。」
「あの……。お名前、伺ってもいいですか?」
「おぉ!そうだね。俺は良太、悠ちゃんのはとこだよ。悠ちゃんのお父さんのいとこのとこだ。」
父さんのいとこの子、っていう割には顔立ちが似てて、血が強いのかなって思う。
「お父がこっち越してきてから長いけど、まさかまた悠ちゃんに会えるとは思わなかったなぁ。小説、読んでるよ?」
「ありがとうございます、良太さん。」
「良太でいいんだよ、歳もそう変わらないんだしね。」
ほんとか?って思うくらい、良太さんは年上に見える、でも、似てるし体格も近いし、やっぱり血が繋がってるのは嘘じゃないと思う。
「わかっ、た。良太、浩介と俺がここに来た時の事、覚えてる?」
「もちろん!親戚が遊びに来たってことで、よく覚えてるよ。浩ちゃんが紅芋タルトを五箱も買ってって、悠ちゃんはシーサーの置物とちんすこうを七種類買ってってね?」
思い出を聞くと、不思議とその光景が浮かび上がってくる。
「僕、これ大好きなんだ!いっぱい買っていこうよ!」
「じゃあ、俺はこっち買っていこうかな。食べ比べ、しようか。」
「やったぁ!」
そんなやり取りをしたのを、つい昨日の事の様に思い出す。
「なんだか、作者療養の為新刊を延期します、なんてお知らせが来たから、何があったのかと思ったけれど……。悠ちゃん、ホントに覚えてないの?」
「うん……。ちょっとずつ思い出せては居るんだけど、まだまだ全然。でも、辛いけど大丈夫だよ。」
「浩ちゃんが死んじゃったのと、関係があるの?」
「俺も事故に巻き込まれたんだ。浩介は俺をかばって、それで……。」
「そっか……。悠ちゃん、気に病んじゃだめだよ?浩ちゃんは、そんな事望んでないと思うから。」
良太は、背中をさすりながら話をしていくれる、俺はもう泣かない、涙は枯れ果てたから、もう泣かないでも大丈夫だから。
悲しいけど、寂しいけど、それでも、涙よりも、笑顔でいたいって、そう思ったから。
「ありがとう、良太。それよりも、他に思い出とかない?」
「そうだねぇ、二人がいちゃいちゃしながら買い物してたら、丁度同級生の子が来てね!みんなに悠ちゃん達の事聞いたら、アツアツカップルだって!俺、なんだか嬉しくてさ。俺のはとこはこんなにいろんな人に愛されてるんだ!ってさ。」
同級生、まだ思い出せないけど、きっと仲が良かったんだと思う、多分、学校を出てから連絡を取り合わなくなっちゃったんだろうけど、それでも。
「えーっとね、守君!そうそう、守君って子がね、浩ちゃんに横恋慕した事があるんだって話してたなぁ。」
「守君……?」
「そうそう、浩ちゃんと同じ野球部の子だよ!浩ちゃんと悠ちゃんの仲が羨ましいって、嫉妬の視線向けてたよぉ?」
「そんな奴がいたのか……。」
まだ浩介以外の記憶が戻ってないから、どんな奴だったかはわからない、けど、きっといい子なんだろう、ってなんとなく思うんだ。
「でも、あの子も良い子だったよ。なんやかんや、悠ちゃん達を応援してるんです、なんてこっそり教えてくれてさ。」
「あはは、確かにいい奴だ。」
「連絡、取ってみたら?悠ちゃんが何か思い出すきっかけになるかもしれないよ?」
「確かに……。帰ったら、連絡してみるかな……。」
「そんなの今!すぐにするんだよ!」
えぇ……、なんて思いながら、これはたぶん連絡しないと言われ続けるやつだなって思って、スマホを手に取る。
ラインを開いて、守っていう名前を探すと、最後に二か月前に連絡した形跡があった。
「ほら、電話しちゃいな!今日は日曜なんだし!」
「わかったよ……。」
良太のあんまり強い押しに辟易しつつ、通話ボタンを押す、数回のコールの間に、緊張する。
「もしもし!?悠介か!?今までだいじょぶだったか!?」
「えーっと、守君、で合ってるかな?」
「君ってなんだよ!あー!今はそんな事より!浩介の葬式以来ずっと連絡しようか悩んでたんだよ!お前も事故ったって聞いたけど、だいじょぶなんか!?」
「大丈夫と聞かれると、記憶喪失になっちゃったから何とも言えないけど。体のほうは大丈夫だよ、何ともない。」
通話越しに興奮気味にまくし立てられて、ちょっと白黒する、でも、俺の事心配してくれてたっていうのが、嬉しかった。
「きおくそーしつ?」
「記憶がないんだ。今、ちょっとずつ思い出してるところなんだけど、守君の事はまだ……、ごめん。」
「だからか……。悠治からよ、悠にぃはちょっと今ふさぎ込んでるから、連絡はあんましないで欲しいって言われてたんだよ。記憶がないんじゃ、確かにしゃーねぇな。んで、今どこいるんだ?」
「沖縄、良太のところって言ったらわかる?」「沖縄!?良太っつーと、お前のはとこの人か。お土産屋さんの店長だろ?なんでまた記憶がないってのに沖縄?」
守の疑問は至極まっとうだ、記憶がないのに、浩介の幻覚を見て、沖縄に行こうって言われたとは、電話越しではとてもじゃないけど言えなそうだ、多分、守はちょっと感情的なタイプだから、心配かけるだろうって。
「いろいろあったんだ。今度、ゆっくり話をするよ。良太がさ、連絡してやれって言ってくれてな。それで、思い切って連絡してみたんだ。」
「そっかぁ。じゃあよ、ちんすこうお土産でよろしくな!シークァーサー味!」
「わかった、買っていくよ。」
そういうと、向こうは忙しかったのか電話が切れる。
「電話、してよかったでしょ?」
「うん、ありがとう良太。シークァーサーのちんすこう、何個か買っていかなきゃだ。」
「お買い上げ、ありがとうございますっと!そうだ、今日はこの後予定あるの?」
「夕方の便で帰るんだ。悠治が待ってるし、ちゃんと帰ってやらないと。」
「そっかぁ。じゃあ、俺がそっち行くから、ゆっくり話しような。」
「おう、ありがと。」
ちんすこうのほかにも、紅芋タルトとか何個か包んでくれて、お代は結構だ、なんてかっこつける良太。
「記憶、取り戻せるといいね。」
「絶対に、取り戻すよ。」
帰り際に、握手をしながら良太は応援してくれた、俺は、比嘉さんに連絡を入れて、帰りの飛行機に乗るために空港に向かった。
帰り、比嘉さんにまた連絡するって約束をして、空港まで送ってもらった、結局お金は一円も払ってない、今度来た時は色を付けて払わないとなって思う。
「一人、か……。」
空港について、荷物を預けて保安検査場を抜けて、今は飛行機の中だ、隣の席は浩介の分の予約だったから空席で、俺は窓側にまた座ってた。
「大丈夫かな……。」
幻覚だったとはいえ、浩介がいてくれたから、怖さと戦えた、それが、今は正真正銘一人だ。
―当機は、まもなく発進いたします。ベルトを着用の上、客室乗務員の指示に従ってくださいー
「……。」
いよいよ出発だ、キャビンアテンダントさんが色々と説明を終えて、飛行機が動き出す。
ちょっとずつ加速していって、滑走路の横に海が見えて、飛んだ。
「……。」
俺は目を瞑って耐えようとしたけど、なんでか、怖くなかった。
「あれ……?」
怖くないんだ、なんでかはわかんない、でも不思議と行きの飛行機で感じた恐怖心を感じない。
「……。そっか、浩介……。」
行きは、俺が頼りないからそばに居てくれたんだ、だからもう、今は大丈夫なんだ。
俺はそう思って、静かに海と雲海を眺めながら、帰ってからの事を考えた。
「ただいまーっと。」
陽が沈んで、夜八時、家に帰ってきた俺は、悠治に一報入れてちょっと一息。
守と会う約束も連絡だけ入れて、向こうからの返事待ちだ。
ピンポーン
「はーい。」
ガチャ。
「悠にぃ……、悠にぃ!」
「悠治、ごめんな。心配かけて、怖かったな。」
「怖かったよぉ……。」
インターホンに出て、玄関を開けると、悠治が飛び込んできた、悠治は心底安心したように、堰を切って泣き出して、本当に不安だったんだなって。
「もう大丈夫だ、俺はどこにもいかないよ。」
「ほん、とに……?」
「あぁ。もう、悠治を一人にしたりしない。約束するよ。」
まだ記憶が完全に戻ったわけじゃない、悠治の事を思い出せたわけでもない、でも、大切な存在だって事はわかってる、だから俺はここにいるんだ。
「悠にぃ、もう浩にぃの事は見えないの?」
「うん。浩介が、もう大丈夫だって安心したんだと思う。まだ全部を思い出したわけじゃないけど、必ず思い出すよ。」
「そっか……。でも、寂しいね……。」
ココアを入れて、ちょっと一息ついて、悠治は、どこか複雑そうな顔をしながら話をする。
確かに、寂しいっていう気持ちがないわけじゃない、でも、俺は前を向いて生きていくって、そう決めたから。
「家、買うか。一緒に暮らそうよ、悠治。」
「いいの……?僕、そんなに稼いでないよ……?」
「印税生活者に任せなさいな。」
旅行に出る前、俺は自分の預金通帳を見て目が飛び出た事を思い出す、一軒家買うどころか、ついでに車買っても間に合いそうなくらいの預金があったからだ。
「……。なあ悠治、辛かったらしなくてもいいんだけどさ。」
「なあに?」
「浩介の遺品の整理、一緒にしてくれないか?みんなの思い出を話してくれよ。そしたら、思い出せる気がするんだ。」
「……、わかった。」
「ありがとな。今日、泊まっていくか?明日、仕事は?」
悠治は、どこか覚悟を決めたような様子だった、真剣な目つきだったんだけど、俺の提案を聞いてちょっとガスが抜けたみたいだ。
「明日は休みだけど……、良いの?」
「あぁ、一人にさせた、罪滅ぼしをしなきゃな。」
「ありがと、悠にぃ。」
もう、俺達は泣いてない、これから先泣く事はあるかもしれないけど、それはきっと、今じゃない。
「ねぇ、悠にぃ。」
「なんだ?」
「あのね……、えっと……。」
「どうした?」
夜十時過ぎになって、俺はベッドで、悠治は隣にひいた布団に寝っ転がってた、悠治はちょっと歯切れが悪そうな感じだったけど、一呼吸おいてから、話すことにしたみたいだ。
「養子縁組、したいって言ったら……。だめ、かな……?」
「養子縁組?」
「うん……。ずっと、悠にぃと浩にぃと、三人で家族になれたらなって思ってたんだ……。だから、もし嫌じゃなかったら……。」
「養子縁組か……。」
「だめ、かな……?」
見なくてもわかる、悠治がおびえた目をしてるって、俺は悠治を安心させたいとかじゃなくて、本心で答える事にした。
「俺なんかでよければ、しよう。」
「いいの……?」
「あぁ。これから先、一緒に暮らすんだし、丁度いいかもしれないな。」
浩介の為、っていうのもあるけど、俺はそれ以上に、今こうして想ってくれてる悠治の為にも、そうしたいと思った。
「一緒にいてくれるか?こんな俺だけど、記憶すら戻ってないけど……。でも、俺は悠治のその気持ちを、叶えたいんだ。」
「ありがとぉ……、悠にぃ……。」
悠治は安心したみたいで、すぐに寝落ちしちゃった、ベッドから降りて、悠治の顔を静かに眺める。
本当に、二人はよく似てる、だけど、ちゃんと悠治を悠治としてみてあげないと、って。
「寝るか……。」
暫くそうしてまどろんでたんだけど、ベッドに戻るのも面倒くさくて、悠治の横で俺は静かに眠りに落ちた。
「悠介、ありがとうね。悠治の事、お願い。」
「任せろ、って言っても、俺も記憶取り戻さなきゃな。」
「大丈夫だよ。きっと、悠介なら。」
「ありがとな、浩介。」




