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僕はここにいるよ。  作者: 悠介


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3/9


「悠介、おはよう。朝ご飯美味しかった?」

「おはよ浩介。それがなぁ、味気ないったらありゃしないよ。」

「悠介は濃い味好きだからね、病院食だとちょっと物足りないのかな?」

「ちょっとってもんじゃないよー。早く退院したい!」

 夜あんまり寝れなくて、朝が来た、朝ご飯を食べ終わって少しして、浩介が見舞いに来てくれた。

 浩介の上着の肩には雪が付いてて、外を見るとしんしんと雪が降ってた、積もるかな?どうかな?っていう感じの降り方で、外は寒いだろうなって思う。

「退院までどれくらいかって聞いた?」

「一週間もあれば退院出来るってよ、怪我はそこまでひどくないし、記憶はいつ戻るかもわかんないから。」

「そっか、本当に怪我が酷くなくて良かったよ。」

 浩介は、心底ホッとした顔をして笑う、元々笑う癖があるんだろうか、何かあるとすぐにニコニコするから、俺もつられて笑顔になる。

「そういえば、小説読んでたの?何処まで読んだ?」

「えーっとな、守護者の物語は読み終わって、継承者の物語読んでるんだ。順番、これであってるか?」

「うん、あってるよ。」

 守護者の物語は、俺と同じ名前を漢字違いにした「悠輔」って言うキャラクターと、ディンって言う神様が主人公だった。

 継承者の物語は、ちょっと読んだ感じそのディンと、息子の竜太っていうキャラが主人公みたいだ。

 浩介を漢字違いにした双子のキャラもいて、それだけ前から付き合ってるんだろうなってわかる。

「悠介は読むの早いからね、あっという間に読み終わっちゃうんじゃない?」

「そうなのかな?まあ、一週間の入院だし丁度良いだろ。」

「そうかもね。それでね、退院した後の事なんだけど……。」

 住所は長谷川さんの持ってきたメモにあったし、浩介も知ってるだろう、だから、問題ないと思ってるけど、自分自身がどういう生活をしてたのかを覚えてないから、ちょっと不安だ。

「僕も暫くお仕事お休み貰ったからさ、この前言ってた旅行行こうよ。」

「良いのか?仕事や済むって、俺みたく自営業ってわけでもないんだろ?」

「うん、有給たまってたから。」

 そう言う事なら問題ない、かな?浩介は俺と旅する気満々らしくて、今から何処に行こうかあそこに行こうかなんて言ってる。

「まずは退院してからだけどな、慌てても仕方ないだろ。」

「そう言ってても、悠介だって楽しみなんじゃないかな?」

「そうだけどさ。」

 ばれてたか、俺は舌を出しながら笑って誤魔化して、でも旅に出るのは楽しみで仕方がなかった。

 思い出を辿る旅、それにもし記憶が戻らなくても、新しい思い出を作れる旅、だから、悲観する事なんて何もない。

「そうだ、あそこ最初に行こうか。」

「あそこって?」

「沖縄、悠介飛行機怖いって僕にずっとくっついてたんだよ?」

「そうなのか?それは恥ずかしいな。」

 飛行機、確かに怖い気がする、覚えてないけど、根源的な恐怖があるというか、まあわかんないけど怖そうだ。

「今度も僕に掴まってて良いからね、悠介。」

「あはは……。」

 浩介は行く気満々で、もう沖縄の何処に行こうかなんて考えてる様子だった、俺は、怖いのは嫌だなと思いながら、それも思い出す為の一個の材料になれば良いななんて思って、笑う。

「ごめんね悠介、今日はまだ仕事あるから、行ってくるね。」

「はいよ、行ってらっしゃい。」

 浩介はそう言うと、バタバタと病室を出ていく、俺は旅を楽しみに待ちながら、小説の続きを読む事にした。


「坂入さん、気を付けてくださいね。記憶の事もありますし、通院を忘れない様にしてください。」

「はい、ありがとうございました。」

 一週間が経って、退院の日、今日も雪が降ってて、寒い。

 そんな寒い中、加藤さんが病院の入口前まで見送りに来てくれていた。

 「松戸市立病院」と書かれた看板の前で、加藤さんと握手をして、俺はタクシーを拾った。


「運転手さん。えーと、八ヶ崎六丁目のマーケットの前までお願いします。」

「はいよー。」

 タクシーの中で、軽く身震い、十二月なんだから寒いのは当たり前だけど、雪が降ってると更に寒い、そんな当たり前の事も、病院にいる間は忘れてた気がする。

「あんちゃん、入院上がりかい?」

「はい、十日前に事故にあったらしくて。」

「事故?なんかそういやここいらで事故があったって通知があったなー。確か、一人は助かって一人は即死だったか?」

「そうなんですか?物騒な世の中ですね……。」

 一人が即死って事は、俺達の事じゃないな、だって浩介は生きてるし、そもそも事故の現場に立ち会ってないだろうし。

「あんちゃんは怪我だけで済んだのかい?」

「打撲と、あと記憶が無くなっちゃったらしくて。恋人が、頑張って思い出そうねって励ましてくれてます。」

「そりゃいい恋人を持ったな。記憶が無いねぇ、家の場所とかはわかるんかい?わかんなかったらタクシー一人で乗ってないか。」

 ガハハって昭和オヤジみたいに笑う運転手に、ちょっとイライラする、そりゃ、俺は色々と忘れてるけど、人に笑われる様な事はしてないはずだ。

「八ヶ崎ならすぐ近くだから、そんなに金もかからんだろ。あんちゃん、気の毒だが頑張りな。」

「はい、ありがとうございます。」

 文句を言いたい所をぐっと堪えて、笑う。

 愛想笑いだってばれた様な気もしたけど、どうせこの一回きりの関係なんだからと思って、そこまで気にしなかった。


「じゃあなあんちゃん、頑張れよー。」

 タクシーを降りて、マーケットの前まで着いた、後の道のりはスマホを見ればわかるし、本当にすぐ近くみたいだ。

 鍵は持ってる、確か浩介は今日は仕事だったはず。

「こっちかな。」

 スマホの地図アプリを見て、指示された方向に向かう、少し歩くと目的地に着いたって表示された。

 顔を上げてそこを見ると、二階建てのアパートが二棟あった、二号棟の一番端の部屋、と確認しながら見ると、「坂入」「坂崎」って言う表札を見つける。

「ここだな。」

 鍵を差し込んでドアを開ける時、変な緊張感を感じた、知らない家にお邪魔する時みたいな、そんな感じだ。


「ただいまーっと。」

 玄関を開けると、靴が無かった、それもそうだ、浩介は今日は仕事に行くと言っていたし、まだこの時間は勤務中だろう。

 部屋を見てみようか、なんて思いながら、俺は靴を脱いで寒さに震える。

「部屋さっむ……。」

 部屋は、玄関と台所が繋がっていて、そこから左右に扉があり、左の扉を開くと一部屋、右の扉を開くとリビングがあって、さらに奥に一部屋。

 四部屋あるのか、という事はどっちかが浩介の部屋で、どっちかが俺の部屋だな。

「こっちが俺の部屋っぽいかな?」

 台所から左の部屋の方が、ぶら下がってる上着なんかがでかいサイズで、多分こっちが俺の部屋だと思う、パソコン周りに色々と出版関係の本もあるし、間違い無いかな。

「えーっと。」

 デスクに座って、メモ帳に書かれてる、パソコン用のパスワードを眺めながら、デスクトップのパソコンを立ち上げる、こういう事まで忘れてなくて良かった、と心底思う。

「これで入れる、かな?」

 パスワードを打ち込んで、デスクトップの画面が移る、デスクトップはアイコンがあっちこっち散らばってて、俺は整理整頓が苦手なんだなと認識する。

 でも、小説関連のファイルはすぐに見つかって、新刊って書かれたファイルを見つける。

「だいぶ書いてたんだなぁ……。」

 小説一冊を三百ページだとすると、大体半分は書き終えていた様子だ、書き方の癖的にも、守護者の物語なんかと書き方は一緒で、やっぱり俺が書いてたんだってわかる。

「続き……、は書けないしなぁ。」

 暇だ、部屋の掃除なんかはしなきゃならないだろうけど、取りあえずの所暇だ。

 そう思って、そういえば何か言われてるのかななんて思って、俺の名前でウェブで検索をかけてみた。

「記憶喪失ってのは発表されてないか。」

 長谷川さんが書いたであろう、休刊のお知らせがヒットした、作者病気療養の為って書いてあって、流石に記憶喪失の為続編が出ません、とは書いてなかった。

 長谷川さんなりの気遣いだろうなって思いながら、俺は新刊の続きに眼をつける。

「ふむふむ、こういう続きなのか。」

 まるで、作者のパソコンを隠れていじって、新作ののぞき見をしている気分だ、まあ、その作者が俺なんだけど。

「さて、どうしたもんかな。」

 浩介が帰ってくるまで、暇といえば暇だ、暇だし、何をしてれば良いのかもわかんないし、デスクに座ってぼーっとする位しかやることがない。

 まあ記憶ないわけだし仕方ない、と思いながら、、浩介が帰ってくるのを待とう。


 ピンポーン

「誰だろ?今行きまーす!」

 そんなこんな一時間くらいボケっとしてて、午後五時になった。

 誰かがインターホンを押した様で、俺はインターホンの受け口がわかんないから、玄関を開ける。

「悠にぃ!」

 玄関を開けると、浩介によく似た声が聞こえる、声の主はドアを思いっきり開けて、俺に向かって驚いた様な声を出した。

「悠にぃ……、良かった……。生きててくれたんだね……!」

「えーっと、どちら様で……?」

「え……?僕の事、忘れちゃったの?」

「ごめん、記憶喪失になっちゃったんだ。君は……、浩介に似てるね。弟かな?」

「……、悠にぃ……。」

 とりあえず寒いし、中に客人を招き入れる、記憶喪失がショックだったのか、浩介に似てる、浩介より体のがっちりしたその子は、黙ったまま中に入ってきた。


「それで、君は?」

「僕は……。浩にぃの弟の悠治だよ、悠にぃにもずっと仲良くしてもらってたんだ。」

「そっか、弟だったか。どおりで似てるはずだよな。」

 何がどこにあるかわかんない俺に代わって、悠治がココアを入れてくれる、悠治はこの家の事をよく知ってるのか、てきぱきとココアを入れて、リビングのテーブルに座ってた。

「それで、悠治はどうしてうちに?」

「どうしたもこうしたも……。悠にぃと浩にぃが事故にあって、浩にぃは……じゃって、悠にぃは入院してるって聞いてたから……。毎日来てたんだよ?」

「そっか、ごめんな。それで、浩介がどうしたって?浩介は未見舞い来てくれてたぞ?」

「え……?だって、浩にぃは………だったって。」

「なんだって?」

 どうも、悠治の言葉の一部が聞き取れない、浩介に関する事を言ってるんだろうけど、聞き取れない。

「浩介、悠治にはあってないのか?病院には毎日見舞いに来てくれてたぞ?」

「え……?えっと……、その……。」

「悠治が寂しがってるって、俺から伝えておこうか?」

 悠治は戸惑ってる、なんでなのかはわかんないけど、多分事故の後浩介に会ってないのかな?って考える。

 だから、浩介まで事故にあったって勘違いしちゃってるんだって。

「悠にぃ、入院してた病院って、どこ?」

「えっとな、市立病院だ。それがどうかしたか?」

「ううん、何でもない……。そうだ、今日は忙しいから、また明日にでも顔出すよ。」

 悠治はそういうと、そそくさと立ち上がる。

「浩介に会っていかなくていいのか?」

「うん……、大丈夫。またね、悠にぃ。」

「雪積もってるし、気をつけてな。」

「うん。」

 悠治はそれだけ言うと出て行って、俺はまた一人っきり、浩介が帰ってくるまで暇だな。

 そうだ、そういえば小説を読んでる途中だった。

「続きでも読むか。」

 部屋に戻って、荷物の中にあった小説を出して、続きを読む、浩介が帰ってくるまでの辛抱だ、って自分に言い聞かせながら、ちょっと寒い中俺は小説を読みふけった。


「ただいま、悠介。」

「お、お帰り浩介。そうだ、悠治って子が来てたぞ?弟だって?」

「悠治来てたんだ、早く帰ってくれば良かったかな。」

「会いに行ってやらないと、不安がってたぞ?浩介まで事故に巻き込まれたんだって、そんな事言ってたし。」

 夜七時過ぎて、浩介がいつの間にか帰ってきて、俺の部屋に来てた、外は雪は降ってないみたいで、寒いけどこれ以上積もるよりましかなって感じだ。

「夕飯、俺作ろうか。冷蔵庫、なんか入ってるかな。」

「ありがとう、悠介。」

「浩介は疲れてるだろ?」

 浩介はリビングの方に行って、俺は台所に立つ、冷蔵庫の中身は何があるか、と思ったら、腐りかけの野菜が出てきた。

「なぁ浩介、飯とか作ってなかったのか?」

「え?うん、いっつも悠介が作ってくれてたから……。外食とか、コンビニ弁当とか食べてたよ。」

「うーん、健康に悪い……。って、俺が言ってもそれは俺の方か。じゃあ、買い物行くか?」

 浩介はスーツから部屋着に着かえてて、その上に上着を着て、マフラーをして部屋から出てきた、買い物に一緒に行く気満々か、と笑いながら部屋に戻って、上着とマフラーを探した。

「これ、お揃いなのか?」

「そうだよ?高校生の時に悠介が編んでくれたんだよ。」

「ほへー、俺がねぇ。」

 手編みのマフラーが部屋にあって、何やら浩介と同じ柄だ、手編みって聞いたら確かにそうだっていう様な出来栄えで、これを俺が作ったのかと思うと、少し恥ずかしい。

「行こっか、悠介。」

「おう。」

 俺達は玄関の鍵を閉めて、近くのマーケットまで歩きに出た。


「寒いなぁ、店の中があったかいよ。」

「そうだね、もう十二月も十一日だからね。今年は、いつもより早めに雪も降ったし。」

 マーケットの中の温かさに少し落ち着きながら、俺達は今日の晩御飯の買出しに来た、このマーケット、結構大きくて品揃えがいいらしくて、大人から親に連れられた子供まで来ていた。

「夕飯、何が食べたい?」

「うーん、何でもいいよ。悠介のご飯は、どれも美味しいから。」

「って言われると、何にするか悩むんだよなぁ。」

 浩介は元々主張しない性格なのか、基本的に俺に合わせようとする、それは嬉しいけど、恋人のご馳走を作る嬉しさってのもあるから、浩介が何を食べたいかを聞きたかった。

「いっつもそんな調子なんだろ?たまには食べたい物とか、わがままいいなよ。」

「よくわかったね?それじゃあ、ハンバーグ食べたいな。」

「ハンバーグね、了解。」

 となると、必要なのは合いびき肉に玉ねぎ、卵にパン粉に牛乳、そういう事は覚えてるのにな、とちょっと悲しくなってくる。

「あのお兄ちゃん、一人でしゃべってるよー?ママー!」

 周りの子供ががやがや何か言ってて、ふと気になってそっちを見ると、隣にいた幼稚園生位の子供が、こっちを指さしてなんか言ってきた。

 一人で喋ってるって言われても、横には浩介がいるし、変な子供がいるもんだな。

「早くいらっしゃい!」

「だってー!」

 母親らしき人物が、その男の子の手を引っ張って離れていく、俺はよくわかんないまま、とりあえず浩介の方を振り向くと、浩介も苦笑いしてた。

「変な子だな。」

「そう、だね。」

「俺の陰に隠れて浩介が見えなかったとかかな?」

 実際、浩介は俺より少し身長が小さいし、体格も俺に比べれ華奢だ、というより俺が横にも縦にもでかすぎるだけなんだけど、相対的に浩介が小さく見えるのは、間違いない。

「まあいっか、買い物これだけでいいか?」

「コーラが欲しいんじゃない?悠介、いっつも飲んでるし。」

「そうなのか、じゃああとコーラ買ってっと。」

 飲み物コーナーに移って、コーラと牛乳をかごに入れる、これで買い物はお終い、とレジに行って、会計を済ます。


「じゃあ、ご飯作るな。」

「ありがと、悠介。」

 徒歩二分の所から帰ってきて、とりあえず上着とマフラーを脱ぐ、それで、俺がこれから料理していくわけなんだけど。

 覚えてるかな、なんて少し不安になりながら、玉ねぎの袋を破いて、みじん切りにし始める。

 トントントン、思ったよりリズミカルな音を奏でながら、俺は玉ねぎを切っていく、あれ、意外に料理出来るんだな、忘れてないんだな。

 てきぱきと玉ねぎをみじん切りにして、バターと一緒に炒めて、冷まして、その間に合いびき肉をこねて、パン粉と卵と牛乳を加えて、さらにこねて、そんな事をしながら台所からリビングを見ると、浩介は疲れて寝てた。

 仕事がよっぽど疲れたんだろう、それに俺が帰ってくるまでは一人だったんだ、だから、安心して寝てるんだなって思うと、ちょっと嬉しかったり。

「あ、お米炊かなきゃ。」

 そんな事を思い出して、炊飯器の方に手を伸ばす。

「くっせぇ……。」

 炊飯器の中には、カビの生えたご飯が残ってた、浩介がいくら家でご飯を食べないと言ってたとはいえ、ここまで忘れてる事があるだろうか?とちょっと疑問。

 元々家事には無頓着だったのかな、とかいろいろ考えたけど、もしかしたら、俺が事故にあったせいで気が回らなかったのかもしれないな、とか。

「漂白だな、まあちょっと時間かかるけど、仕方ない。」

 カビ生えたご飯をビニール袋に入れて捨てて、炊飯器を綺麗に洗ってから漂白剤入れて、こうなってくると、ご飯までは時間がかかるからと思って、リビングに足を運ぶ。

「浩介、風邪ひいちゃうぞ?」

 浩介はすやすやリビングのテーブルに腕を乗せて寝てて、俺は何か掛けられる毛布かなんかがないかなって、部屋をぐるりと見回す。

「お、これいいじゃん。」

 リビングの隅、大きな熊のぬいぐるみの上に、熊柄の膝掛けがあって、それを浩介の背中に掛ける。

「やらかいなぁ。」

 膝掛けを掛けてから、浩介のほっぺたをぷにぷに触る、すっごい柔らかくて、触ってると癒される感じがするんだ。


「さて、続きやんないとな。」

 暫くもちもちなぽっぺたをいじってたけど、そう言えば夕飯作ってる途中だった、時計を見ると、夜八時になっていて、そろそろ漂白も済んだだろうっていう時間だ。

「さて、ご飯を炊いてっと。」

 米櫃からお米を二合よそって、水で洗う、水がちょっと冷たいけど、お湯に変える程でもなかった。

「雪降ってるわりには寒くないな。」

 暖房はもちろん入れているが、寒さをあんまり感じない、なんでかはわかんないけど、まあいいか。

「これで良しっと。」

 炊飯器のスイッチを入れて、暫く待ちの時間だ、早炊きにしたけど、三十分以上かかるから、今ハンバーグを焼いたら冷めちゃうだろうし。

「チーズとかねぇかな。」

 ふと思い立って、冷蔵庫の中を確認する、チーズがあればチーズインハンバーグに出来るけど、って。

「あ、あった。賞味期限は……、明日か。」

 運の良い事に、スライスチーズが二枚残ってた、ラッキーだな、とか考えながら、ハンバーグのタネにチーズを挟んで、あとは焼くだけ。

「浩介、幸せそうに寝てんな。」

 浩介の方を見ると、何やら夢でも見ているみたいだ、幸せそうな寝顔を見てると、こっちまでほっこりして来る。


「うっし、焼くか。」

 ご飯が後五分で炊けるって所で、ハンバーグを焼き始めた、少し焼いてると、ナツメグと肉とチーズのいい香りがしてくる。

「浩介、そろそろご飯だぞー。」

「ん……、ふあぁ……。ご飯……?」

「あぁ、もうすぐ出来るから、起きろよな。」

 浩介は、眠たそうに目をこすりながら欠伸をしてる、その顔が可愛くて、俺はやっぱり良い子と付き合ってたんだなって再認識。

 でも、見惚れてるとハンバーグ焦がしちゃうから、とりあえずそっちに意識を戻す。

「もうすぐ出来るから、ちょっと待っててな。」

「はーい……。」

 浩介はまだ眠そうだ、でも、寝起きでご飯っていうのは喉に詰まりそうだし、起こしておいて正解かな。

「よいしょっと。」

 ハンバーグがいい感じに焼けて、皿に盛り付ける、しまった、野菜を買うのを忘れてた、付け合わせの野菜がないから、チーズインハンバーグだけの寂しい食卓になっちゃうな。

「ごめん浩介、サラダつけられないわ。」

「あれ、僕も忘れてたや。ごめんね、悠介。」

「浩介は疲れてただろ?仕方ないって。」

 ご飯をよそって、ケチャップを冷蔵庫から出して、リビングにおいて、これで準備出来た。

「それじゃ、いただきます。」

「いただきまーす。」

 二人で一緒に手を合わせて、いただきますをする、俺は久々に病院食以外のご飯だから、味が薄いか気になって、ケチャップをハンバーグにかける。

「うん、美味い。」

「美味しいよ、悠介。」

 ハンバーグは思ったより良い出来で、濃い味に飢えた俺の舌を満足させてくれる、浩介も、ニコニコ笑いながらハンバーグを口に放りこんで、美味しいと言ってくれた。

 あっという間に二人とも食べ終わって、俺が食器を片づけてちょっとまったりすることに。


「悠介、今日は一緒に寝よ?」

「いいぞ?寂しかったか?」

「うん、寂しかった。」

 食器を片付け終えて、少しテレビを見て夜十時、眠そうにしてる浩介は、一緒に寝たいと寝巻に着替えて俺の部屋に向かった。

 俺も部屋に行くと、浩介はもうベッドに入ってて、俺の事を待ってるみたいだった。

「ちょっと待っててな、着替えるから。」

「はーい……。」

 浩介がすっごい眠そうにしてるから、俺は急いで着替えて、ベッドに入る、浩介が潜ってたわりには冷たいけど、まあ俺の体温高そうだしすぐあったまるだろ。

「悠介、腕枕してほしい……。」

「はいよ。」

 十日ぶりに、忘れてしまった恋人のお願いを聞く、普段からこうしてたんだろうか、でも浩介の部屋にもベッドはあったし……。

「おやすみ、浩介。」

「おやすみ……、悠介……。」

 浩介はすぐに寝息を立てて寝ちゃって、俺は少しまだ目が冴えてる、寝るまで浩介の顔でも眺めてるかって、サイドテーブルの電気を点けたままにしておこう。

「可愛いな。」

 家族とか、友達の事を覚えてないっていうのは、正直ショックだったけど、でも、こんな可愛い恋人がいてくれる、それが幸せだ。

 不幸中の幸い、というかさ。

「さて、寝ますか……。」

 ずっと眺めてるのもいいけど、寝なくちゃならない、目を瞑ってると、少しずつ眠くなってきて、俺は静かに意識を飛ばした。


「浩介、俺どうすればいいんだろ……?」

「大丈夫だよ悠介、僕がずっとそばにいるよ。」

「いなく……、ならないよな……?」

「うん、僕はここにいるよ。悠介の隣に、ずっと隣にいるよ。」

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