弟
「悠介、おはよう。朝ご飯美味しかった?」
「おはよ浩介。それがなぁ、味気ないったらありゃしないよ。」
「悠介は濃い味好きだからね、病院食だとちょっと物足りないのかな?」
「ちょっとってもんじゃないよー。早く退院したい!」
夜あんまり寝れなくて、朝が来た、朝ご飯を食べ終わって少しして、浩介が見舞いに来てくれた。
浩介の上着の肩には雪が付いてて、外を見るとしんしんと雪が降ってた、積もるかな?どうかな?っていう感じの降り方で、外は寒いだろうなって思う。
「退院までどれくらいかって聞いた?」
「一週間もあれば退院出来るってよ、怪我はそこまでひどくないし、記憶はいつ戻るかもわかんないから。」
「そっか、本当に怪我が酷くなくて良かったよ。」
浩介は、心底ホッとした顔をして笑う、元々笑う癖があるんだろうか、何かあるとすぐにニコニコするから、俺もつられて笑顔になる。
「そういえば、小説読んでたの?何処まで読んだ?」
「えーっとな、守護者の物語は読み終わって、継承者の物語読んでるんだ。順番、これであってるか?」
「うん、あってるよ。」
守護者の物語は、俺と同じ名前を漢字違いにした「悠輔」って言うキャラクターと、ディンって言う神様が主人公だった。
継承者の物語は、ちょっと読んだ感じそのディンと、息子の竜太っていうキャラが主人公みたいだ。
浩介を漢字違いにした双子のキャラもいて、それだけ前から付き合ってるんだろうなってわかる。
「悠介は読むの早いからね、あっという間に読み終わっちゃうんじゃない?」
「そうなのかな?まあ、一週間の入院だし丁度良いだろ。」
「そうかもね。それでね、退院した後の事なんだけど……。」
住所は長谷川さんの持ってきたメモにあったし、浩介も知ってるだろう、だから、問題ないと思ってるけど、自分自身がどういう生活をしてたのかを覚えてないから、ちょっと不安だ。
「僕も暫くお仕事お休み貰ったからさ、この前言ってた旅行行こうよ。」
「良いのか?仕事や済むって、俺みたく自営業ってわけでもないんだろ?」
「うん、有給たまってたから。」
そう言う事なら問題ない、かな?浩介は俺と旅する気満々らしくて、今から何処に行こうかあそこに行こうかなんて言ってる。
「まずは退院してからだけどな、慌てても仕方ないだろ。」
「そう言ってても、悠介だって楽しみなんじゃないかな?」
「そうだけどさ。」
ばれてたか、俺は舌を出しながら笑って誤魔化して、でも旅に出るのは楽しみで仕方がなかった。
思い出を辿る旅、それにもし記憶が戻らなくても、新しい思い出を作れる旅、だから、悲観する事なんて何もない。
「そうだ、あそこ最初に行こうか。」
「あそこって?」
「沖縄、悠介飛行機怖いって僕にずっとくっついてたんだよ?」
「そうなのか?それは恥ずかしいな。」
飛行機、確かに怖い気がする、覚えてないけど、根源的な恐怖があるというか、まあわかんないけど怖そうだ。
「今度も僕に掴まってて良いからね、悠介。」
「あはは……。」
浩介は行く気満々で、もう沖縄の何処に行こうかなんて考えてる様子だった、俺は、怖いのは嫌だなと思いながら、それも思い出す為の一個の材料になれば良いななんて思って、笑う。
「ごめんね悠介、今日はまだ仕事あるから、行ってくるね。」
「はいよ、行ってらっしゃい。」
浩介はそう言うと、バタバタと病室を出ていく、俺は旅を楽しみに待ちながら、小説の続きを読む事にした。
「坂入さん、気を付けてくださいね。記憶の事もありますし、通院を忘れない様にしてください。」
「はい、ありがとうございました。」
一週間が経って、退院の日、今日も雪が降ってて、寒い。
そんな寒い中、加藤さんが病院の入口前まで見送りに来てくれていた。
「松戸市立病院」と書かれた看板の前で、加藤さんと握手をして、俺はタクシーを拾った。
「運転手さん。えーと、八ヶ崎六丁目のマーケットの前までお願いします。」
「はいよー。」
タクシーの中で、軽く身震い、十二月なんだから寒いのは当たり前だけど、雪が降ってると更に寒い、そんな当たり前の事も、病院にいる間は忘れてた気がする。
「あんちゃん、入院上がりかい?」
「はい、十日前に事故にあったらしくて。」
「事故?なんかそういやここいらで事故があったって通知があったなー。確か、一人は助かって一人は即死だったか?」
「そうなんですか?物騒な世の中ですね……。」
一人が即死って事は、俺達の事じゃないな、だって浩介は生きてるし、そもそも事故の現場に立ち会ってないだろうし。
「あんちゃんは怪我だけで済んだのかい?」
「打撲と、あと記憶が無くなっちゃったらしくて。恋人が、頑張って思い出そうねって励ましてくれてます。」
「そりゃいい恋人を持ったな。記憶が無いねぇ、家の場所とかはわかるんかい?わかんなかったらタクシー一人で乗ってないか。」
ガハハって昭和オヤジみたいに笑う運転手に、ちょっとイライラする、そりゃ、俺は色々と忘れてるけど、人に笑われる様な事はしてないはずだ。
「八ヶ崎ならすぐ近くだから、そんなに金もかからんだろ。あんちゃん、気の毒だが頑張りな。」
「はい、ありがとうございます。」
文句を言いたい所をぐっと堪えて、笑う。
愛想笑いだってばれた様な気もしたけど、どうせこの一回きりの関係なんだからと思って、そこまで気にしなかった。
「じゃあなあんちゃん、頑張れよー。」
タクシーを降りて、マーケットの前まで着いた、後の道のりはスマホを見ればわかるし、本当にすぐ近くみたいだ。
鍵は持ってる、確か浩介は今日は仕事だったはず。
「こっちかな。」
スマホの地図アプリを見て、指示された方向に向かう、少し歩くと目的地に着いたって表示された。
顔を上げてそこを見ると、二階建てのアパートが二棟あった、二号棟の一番端の部屋、と確認しながら見ると、「坂入」「坂崎」って言う表札を見つける。
「ここだな。」
鍵を差し込んでドアを開ける時、変な緊張感を感じた、知らない家にお邪魔する時みたいな、そんな感じだ。
「ただいまーっと。」
玄関を開けると、靴が無かった、それもそうだ、浩介は今日は仕事に行くと言っていたし、まだこの時間は勤務中だろう。
部屋を見てみようか、なんて思いながら、俺は靴を脱いで寒さに震える。
「部屋さっむ……。」
部屋は、玄関と台所が繋がっていて、そこから左右に扉があり、左の扉を開くと一部屋、右の扉を開くとリビングがあって、さらに奥に一部屋。
四部屋あるのか、という事はどっちかが浩介の部屋で、どっちかが俺の部屋だな。
「こっちが俺の部屋っぽいかな?」
台所から左の部屋の方が、ぶら下がってる上着なんかがでかいサイズで、多分こっちが俺の部屋だと思う、パソコン周りに色々と出版関係の本もあるし、間違い無いかな。
「えーっと。」
デスクに座って、メモ帳に書かれてる、パソコン用のパスワードを眺めながら、デスクトップのパソコンを立ち上げる、こういう事まで忘れてなくて良かった、と心底思う。
「これで入れる、かな?」
パスワードを打ち込んで、デスクトップの画面が移る、デスクトップはアイコンがあっちこっち散らばってて、俺は整理整頓が苦手なんだなと認識する。
でも、小説関連のファイルはすぐに見つかって、新刊って書かれたファイルを見つける。
「だいぶ書いてたんだなぁ……。」
小説一冊を三百ページだとすると、大体半分は書き終えていた様子だ、書き方の癖的にも、守護者の物語なんかと書き方は一緒で、やっぱり俺が書いてたんだってわかる。
「続き……、は書けないしなぁ。」
暇だ、部屋の掃除なんかはしなきゃならないだろうけど、取りあえずの所暇だ。
そう思って、そういえば何か言われてるのかななんて思って、俺の名前でウェブで検索をかけてみた。
「記憶喪失ってのは発表されてないか。」
長谷川さんが書いたであろう、休刊のお知らせがヒットした、作者病気療養の為って書いてあって、流石に記憶喪失の為続編が出ません、とは書いてなかった。
長谷川さんなりの気遣いだろうなって思いながら、俺は新刊の続きに眼をつける。
「ふむふむ、こういう続きなのか。」
まるで、作者のパソコンを隠れていじって、新作ののぞき見をしている気分だ、まあ、その作者が俺なんだけど。
「さて、どうしたもんかな。」
浩介が帰ってくるまで、暇といえば暇だ、暇だし、何をしてれば良いのかもわかんないし、デスクに座ってぼーっとする位しかやることがない。
まあ記憶ないわけだし仕方ない、と思いながら、、浩介が帰ってくるのを待とう。
ピンポーン
「誰だろ?今行きまーす!」
そんなこんな一時間くらいボケっとしてて、午後五時になった。
誰かがインターホンを押した様で、俺はインターホンの受け口がわかんないから、玄関を開ける。
「悠にぃ!」
玄関を開けると、浩介によく似た声が聞こえる、声の主はドアを思いっきり開けて、俺に向かって驚いた様な声を出した。
「悠にぃ……、良かった……。生きててくれたんだね……!」
「えーっと、どちら様で……?」
「え……?僕の事、忘れちゃったの?」
「ごめん、記憶喪失になっちゃったんだ。君は……、浩介に似てるね。弟かな?」
「……、悠にぃ……。」
とりあえず寒いし、中に客人を招き入れる、記憶喪失がショックだったのか、浩介に似てる、浩介より体のがっちりしたその子は、黙ったまま中に入ってきた。
「それで、君は?」
「僕は……。浩にぃの弟の悠治だよ、悠にぃにもずっと仲良くしてもらってたんだ。」
「そっか、弟だったか。どおりで似てるはずだよな。」
何がどこにあるかわかんない俺に代わって、悠治がココアを入れてくれる、悠治はこの家の事をよく知ってるのか、てきぱきとココアを入れて、リビングのテーブルに座ってた。
「それで、悠治はどうしてうちに?」
「どうしたもこうしたも……。悠にぃと浩にぃが事故にあって、浩にぃは……じゃって、悠にぃは入院してるって聞いてたから……。毎日来てたんだよ?」
「そっか、ごめんな。それで、浩介がどうしたって?浩介は未見舞い来てくれてたぞ?」
「え……?だって、浩にぃは………だったって。」
「なんだって?」
どうも、悠治の言葉の一部が聞き取れない、浩介に関する事を言ってるんだろうけど、聞き取れない。
「浩介、悠治にはあってないのか?病院には毎日見舞いに来てくれてたぞ?」
「え……?えっと……、その……。」
「悠治が寂しがってるって、俺から伝えておこうか?」
悠治は戸惑ってる、なんでなのかはわかんないけど、多分事故の後浩介に会ってないのかな?って考える。
だから、浩介まで事故にあったって勘違いしちゃってるんだって。
「悠にぃ、入院してた病院って、どこ?」
「えっとな、市立病院だ。それがどうかしたか?」
「ううん、何でもない……。そうだ、今日は忙しいから、また明日にでも顔出すよ。」
悠治はそういうと、そそくさと立ち上がる。
「浩介に会っていかなくていいのか?」
「うん……、大丈夫。またね、悠にぃ。」
「雪積もってるし、気をつけてな。」
「うん。」
悠治はそれだけ言うと出て行って、俺はまた一人っきり、浩介が帰ってくるまで暇だな。
そうだ、そういえば小説を読んでる途中だった。
「続きでも読むか。」
部屋に戻って、荷物の中にあった小説を出して、続きを読む、浩介が帰ってくるまでの辛抱だ、って自分に言い聞かせながら、ちょっと寒い中俺は小説を読みふけった。
「ただいま、悠介。」
「お、お帰り浩介。そうだ、悠治って子が来てたぞ?弟だって?」
「悠治来てたんだ、早く帰ってくれば良かったかな。」
「会いに行ってやらないと、不安がってたぞ?浩介まで事故に巻き込まれたんだって、そんな事言ってたし。」
夜七時過ぎて、浩介がいつの間にか帰ってきて、俺の部屋に来てた、外は雪は降ってないみたいで、寒いけどこれ以上積もるよりましかなって感じだ。
「夕飯、俺作ろうか。冷蔵庫、なんか入ってるかな。」
「ありがとう、悠介。」
「浩介は疲れてるだろ?」
浩介はリビングの方に行って、俺は台所に立つ、冷蔵庫の中身は何があるか、と思ったら、腐りかけの野菜が出てきた。
「なぁ浩介、飯とか作ってなかったのか?」
「え?うん、いっつも悠介が作ってくれてたから……。外食とか、コンビニ弁当とか食べてたよ。」
「うーん、健康に悪い……。って、俺が言ってもそれは俺の方か。じゃあ、買い物行くか?」
浩介はスーツから部屋着に着かえてて、その上に上着を着て、マフラーをして部屋から出てきた、買い物に一緒に行く気満々か、と笑いながら部屋に戻って、上着とマフラーを探した。
「これ、お揃いなのか?」
「そうだよ?高校生の時に悠介が編んでくれたんだよ。」
「ほへー、俺がねぇ。」
手編みのマフラーが部屋にあって、何やら浩介と同じ柄だ、手編みって聞いたら確かにそうだっていう様な出来栄えで、これを俺が作ったのかと思うと、少し恥ずかしい。
「行こっか、悠介。」
「おう。」
俺達は玄関の鍵を閉めて、近くのマーケットまで歩きに出た。
「寒いなぁ、店の中があったかいよ。」
「そうだね、もう十二月も十一日だからね。今年は、いつもより早めに雪も降ったし。」
マーケットの中の温かさに少し落ち着きながら、俺達は今日の晩御飯の買出しに来た、このマーケット、結構大きくて品揃えがいいらしくて、大人から親に連れられた子供まで来ていた。
「夕飯、何が食べたい?」
「うーん、何でもいいよ。悠介のご飯は、どれも美味しいから。」
「って言われると、何にするか悩むんだよなぁ。」
浩介は元々主張しない性格なのか、基本的に俺に合わせようとする、それは嬉しいけど、恋人のご馳走を作る嬉しさってのもあるから、浩介が何を食べたいかを聞きたかった。
「いっつもそんな調子なんだろ?たまには食べたい物とか、わがままいいなよ。」
「よくわかったね?それじゃあ、ハンバーグ食べたいな。」
「ハンバーグね、了解。」
となると、必要なのは合いびき肉に玉ねぎ、卵にパン粉に牛乳、そういう事は覚えてるのにな、とちょっと悲しくなってくる。
「あのお兄ちゃん、一人でしゃべってるよー?ママー!」
周りの子供ががやがや何か言ってて、ふと気になってそっちを見ると、隣にいた幼稚園生位の子供が、こっちを指さしてなんか言ってきた。
一人で喋ってるって言われても、横には浩介がいるし、変な子供がいるもんだな。
「早くいらっしゃい!」
「だってー!」
母親らしき人物が、その男の子の手を引っ張って離れていく、俺はよくわかんないまま、とりあえず浩介の方を振り向くと、浩介も苦笑いしてた。
「変な子だな。」
「そう、だね。」
「俺の陰に隠れて浩介が見えなかったとかかな?」
実際、浩介は俺より少し身長が小さいし、体格も俺に比べれ華奢だ、というより俺が横にも縦にもでかすぎるだけなんだけど、相対的に浩介が小さく見えるのは、間違いない。
「まあいっか、買い物これだけでいいか?」
「コーラが欲しいんじゃない?悠介、いっつも飲んでるし。」
「そうなのか、じゃああとコーラ買ってっと。」
飲み物コーナーに移って、コーラと牛乳をかごに入れる、これで買い物はお終い、とレジに行って、会計を済ます。
「じゃあ、ご飯作るな。」
「ありがと、悠介。」
徒歩二分の所から帰ってきて、とりあえず上着とマフラーを脱ぐ、それで、俺がこれから料理していくわけなんだけど。
覚えてるかな、なんて少し不安になりながら、玉ねぎの袋を破いて、みじん切りにし始める。
トントントン、思ったよりリズミカルな音を奏でながら、俺は玉ねぎを切っていく、あれ、意外に料理出来るんだな、忘れてないんだな。
てきぱきと玉ねぎをみじん切りにして、バターと一緒に炒めて、冷まして、その間に合いびき肉をこねて、パン粉と卵と牛乳を加えて、さらにこねて、そんな事をしながら台所からリビングを見ると、浩介は疲れて寝てた。
仕事がよっぽど疲れたんだろう、それに俺が帰ってくるまでは一人だったんだ、だから、安心して寝てるんだなって思うと、ちょっと嬉しかったり。
「あ、お米炊かなきゃ。」
そんな事を思い出して、炊飯器の方に手を伸ばす。
「くっせぇ……。」
炊飯器の中には、カビの生えたご飯が残ってた、浩介がいくら家でご飯を食べないと言ってたとはいえ、ここまで忘れてる事があるだろうか?とちょっと疑問。
元々家事には無頓着だったのかな、とかいろいろ考えたけど、もしかしたら、俺が事故にあったせいで気が回らなかったのかもしれないな、とか。
「漂白だな、まあちょっと時間かかるけど、仕方ない。」
カビ生えたご飯をビニール袋に入れて捨てて、炊飯器を綺麗に洗ってから漂白剤入れて、こうなってくると、ご飯までは時間がかかるからと思って、リビングに足を運ぶ。
「浩介、風邪ひいちゃうぞ?」
浩介はすやすやリビングのテーブルに腕を乗せて寝てて、俺は何か掛けられる毛布かなんかがないかなって、部屋をぐるりと見回す。
「お、これいいじゃん。」
リビングの隅、大きな熊のぬいぐるみの上に、熊柄の膝掛けがあって、それを浩介の背中に掛ける。
「やらかいなぁ。」
膝掛けを掛けてから、浩介のほっぺたをぷにぷに触る、すっごい柔らかくて、触ってると癒される感じがするんだ。
「さて、続きやんないとな。」
暫くもちもちなぽっぺたをいじってたけど、そう言えば夕飯作ってる途中だった、時計を見ると、夜八時になっていて、そろそろ漂白も済んだだろうっていう時間だ。
「さて、ご飯を炊いてっと。」
米櫃からお米を二合よそって、水で洗う、水がちょっと冷たいけど、お湯に変える程でもなかった。
「雪降ってるわりには寒くないな。」
暖房はもちろん入れているが、寒さをあんまり感じない、なんでかはわかんないけど、まあいいか。
「これで良しっと。」
炊飯器のスイッチを入れて、暫く待ちの時間だ、早炊きにしたけど、三十分以上かかるから、今ハンバーグを焼いたら冷めちゃうだろうし。
「チーズとかねぇかな。」
ふと思い立って、冷蔵庫の中を確認する、チーズがあればチーズインハンバーグに出来るけど、って。
「あ、あった。賞味期限は……、明日か。」
運の良い事に、スライスチーズが二枚残ってた、ラッキーだな、とか考えながら、ハンバーグのタネにチーズを挟んで、あとは焼くだけ。
「浩介、幸せそうに寝てんな。」
浩介の方を見ると、何やら夢でも見ているみたいだ、幸せそうな寝顔を見てると、こっちまでほっこりして来る。
「うっし、焼くか。」
ご飯が後五分で炊けるって所で、ハンバーグを焼き始めた、少し焼いてると、ナツメグと肉とチーズのいい香りがしてくる。
「浩介、そろそろご飯だぞー。」
「ん……、ふあぁ……。ご飯……?」
「あぁ、もうすぐ出来るから、起きろよな。」
浩介は、眠たそうに目をこすりながら欠伸をしてる、その顔が可愛くて、俺はやっぱり良い子と付き合ってたんだなって再認識。
でも、見惚れてるとハンバーグ焦がしちゃうから、とりあえずそっちに意識を戻す。
「もうすぐ出来るから、ちょっと待っててな。」
「はーい……。」
浩介はまだ眠そうだ、でも、寝起きでご飯っていうのは喉に詰まりそうだし、起こしておいて正解かな。
「よいしょっと。」
ハンバーグがいい感じに焼けて、皿に盛り付ける、しまった、野菜を買うのを忘れてた、付け合わせの野菜がないから、チーズインハンバーグだけの寂しい食卓になっちゃうな。
「ごめん浩介、サラダつけられないわ。」
「あれ、僕も忘れてたや。ごめんね、悠介。」
「浩介は疲れてただろ?仕方ないって。」
ご飯をよそって、ケチャップを冷蔵庫から出して、リビングにおいて、これで準備出来た。
「それじゃ、いただきます。」
「いただきまーす。」
二人で一緒に手を合わせて、いただきますをする、俺は久々に病院食以外のご飯だから、味が薄いか気になって、ケチャップをハンバーグにかける。
「うん、美味い。」
「美味しいよ、悠介。」
ハンバーグは思ったより良い出来で、濃い味に飢えた俺の舌を満足させてくれる、浩介も、ニコニコ笑いながらハンバーグを口に放りこんで、美味しいと言ってくれた。
あっという間に二人とも食べ終わって、俺が食器を片づけてちょっとまったりすることに。
「悠介、今日は一緒に寝よ?」
「いいぞ?寂しかったか?」
「うん、寂しかった。」
食器を片付け終えて、少しテレビを見て夜十時、眠そうにしてる浩介は、一緒に寝たいと寝巻に着替えて俺の部屋に向かった。
俺も部屋に行くと、浩介はもうベッドに入ってて、俺の事を待ってるみたいだった。
「ちょっと待っててな、着替えるから。」
「はーい……。」
浩介がすっごい眠そうにしてるから、俺は急いで着替えて、ベッドに入る、浩介が潜ってたわりには冷たいけど、まあ俺の体温高そうだしすぐあったまるだろ。
「悠介、腕枕してほしい……。」
「はいよ。」
十日ぶりに、忘れてしまった恋人のお願いを聞く、普段からこうしてたんだろうか、でも浩介の部屋にもベッドはあったし……。
「おやすみ、浩介。」
「おやすみ……、悠介……。」
浩介はすぐに寝息を立てて寝ちゃって、俺は少しまだ目が冴えてる、寝るまで浩介の顔でも眺めてるかって、サイドテーブルの電気を点けたままにしておこう。
「可愛いな。」
家族とか、友達の事を覚えてないっていうのは、正直ショックだったけど、でも、こんな可愛い恋人がいてくれる、それが幸せだ。
不幸中の幸い、というかさ。
「さて、寝ますか……。」
ずっと眺めてるのもいいけど、寝なくちゃならない、目を瞑ってると、少しずつ眠くなってきて、俺は静かに意識を飛ばした。
「浩介、俺どうすればいいんだろ……?」
「大丈夫だよ悠介、僕がずっとそばにいるよ。」
「いなく……、ならないよな……?」
「うん、僕はここにいるよ。悠介の隣に、ずっと隣にいるよ。」




