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僕はここにいるよ。  作者: 悠介


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担当編集

「坂入さん!持ってきましたよ!」

「あ、長谷川さん。ありがとうございます。」

「とんでもない!早く記憶戻して、新刊書いて欲しいですからね!」

「あはは……。」

 カレンダーは十二月五日、俺が入院して三日が経った、まだ記憶は戻ってなくて、浩介が見舞いに来てくれる以外は看護師さんしか来ないし、長谷川さんが小説を持ってくるのを少し楽しみにしてた。

「これこれ、これが坂入さんのデビュー作で、こっちが代表作!こっちは賞で大賞を取ったやつで……。」

「覚えきれませんよ、ゆっくり読んでいきます。」

 丁度浩介は外にご飯を食べに行ってて、後で詳しく聞こうかなと思った、まあ、自分の作品を自分で聞くなんて、ちょっと恥ずかしいけどさ。

「それもそうですな。それで、一応銀行のキャッシュカードに、坂入さんの誰にも見せないって言われてたメモ帳ね。これ、中身見させて貰いましたけど、どうやら口座の暗証番号なんかもメモしてた様でね。いや!勝手に引き出したりはしてませんよ?」

「そんな危なっかしい事してたんですか、俺は……。」

「まあまあ、こういう時に助かるという事で、手打ちにしましょう!それで、坂入さんは結構な額の貯金があるみたいでしてね、保険も入っているそうですから、入院費も問題なさそうですよ!」

 それは良かった、入院費を稼いでいない様な状態だったり、保険に入っていなかったりしたら、浩介にも迷惑が掛かっちゃうから。

 まあ、交通事故だし加害者から保険金も降りるだろうけど、記憶がないんだから貯蓄はあったに越したことはないな。

「さて、私はまた行かなけりゃなりませんから、じっくり読んで思い出してくださいね!」

「頑張ってみます、ありがとうございました。」

 長谷川さんはそういうと病室を出て行って、俺は一人残される、ベッド横のサイドテーブルに置かれた本を見てみると、どうやらファンタジー小説に見える。

 「聖獣達の鎮魂歌」「守護者の物語」「継承者の物語」「竜神の世界の物語」なんて名前が書いてあって、どれにも赤茶髪の筋肉質な男が書かれている、継承者の物語の表紙のその男は隻腕で右腕が無くて、どうやらそういった類の話を書いた事がわかった。


「俺がこういう話をねぇ……。」

「悠介、ただいま。あれ、小説?」

「うん。長谷川さんが、俺の書いた小説持ってきてくれたんだ。」

「懐かしいね、ずっと前から書いてたからね、悠介。」

 小説の裏表紙を見ると、この作品は十五歳の頃から書いていて、と紹介されていた、という事は、少なく見積もって十年は、俺は小説を書いてた事になる。

 浩介といつから付き合ってるかはまだ聞いてないけど、高校生からずっと小説を書いてきたって言うのは、ちょっと凄いなって自分で思う。

「どういう話なんだ?これとか。」

「それは読んでみてのお楽しみ、だよ悠介。記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないし、僕はネタバレしないようにするよ。」

 そう言われると、結末が気になってくる、けど、聖獣達の鎮魂歌に関しては、まだ未完らしくて、帯に次回乞うご期待!って書いてあった。

 長谷川さんの言ってた新刊ってこれの事か、って納得する。

「まあ、ゆっくり読んでみるよ。どうせ、入院中は暇だしさ。」

「それが良いよ、僕も何時も来れる訳じゃないしね。」

「仕事か?」

「そんな所だよ。じゃあ、今日は帰るね。そろそろ、夜ご飯の時間になるだろうしね。また明日来るよ。」

 浩介はそう言うと、上着を着て病室を出ていく、一人残されるのはちょっと嫌だったけど、まあ仕方がない。

「夕飯までちょっと読もうかな。」

 俺は、まずはデビュー作って書いてあった守護者の物語を手に取る、内容は竜神王っていう神様と、人間の子供が一緒になって戦う話らしくて、最初っから主人公の家族が死んでた、こんなヘビーな話書いてたのか……、ってちょっと驚いたけど、読みごたえはありそうだ。


「坂入さん、夜ご飯ですよ!あ、小説読まれてたんですか?」

「あ、榎本さん。これ、俺が書いたらしいんですよ。長谷川さんが持ってきてくれました。」

「えー⁉この作品、僕ファンなんですよ!凄いですね!」

「ありがとうございます。と言っても、記憶が無いんで書いたっていう実感も無いんですけどね……。」

 夜ご飯を持ってきてくれた榎本さんは、俺の少ない話相手の一人だ、ちょっと休憩、なんて言って俺の話を聞いてくれたり、話をしてくれたりする。

「今度色紙持ってきますから、サインしてくださいよ!いやぁ、有名人が来たなんて、嬉しいなぁ。」

「忘れちゃってますけどね。」

 榎本さんは、ちょっと緩い感じが雰囲気からも伝わってくる、なんというか、言葉を選ばなければ空気が読めたいタイプだ。

 ただ、俺からしたら、気を使われるより楽だから、榎本くらいの接し方をされた方が楽かな。

「おっと、他の人にもご飯だしに行かなきゃ!じゃあ坂入さんサイン宜しくお願いしますね!」

「はーい。」

 笑いながら榎本さんを送り出して、味気ない病院食に手を付ける、正直な所、俺が元々濃いめの味付けが好きだったのか、病院のご飯はほんとに味気ない。

 食べた気がしないというか、量も足りなければ味も薄い、まあ、俺がデブだからっていうのも勿論あるんだろうけど。


 夜ご飯を食べ終わって、暫く守護者の物語を読んでた。

 気が付けば消灯時間になってて、看護師がそろそろ見回りに来るだろう、俺は体を横にすると、ちょっとずつ眠くなってきて眼を閉じる。

「ねぇ悠介、僕達結婚は出来ないけどさ、ずっと一緒に居ようね?」

「当たり前だろ?浩介以外に俺の隣なんていられる人もいないしな。」

「ふふ、光栄だよ。」

 ……?

 眼を瞑ってると、そんな声が聞こえてきた、過去の記憶かな?とか考えてる内に眠気がピークになって、俺は意識を手放した。


「不気味っすよねぇ、あの人。」

「そう言う事言わないの、記憶を無くして辛いんでしょうから……。」

「って言っても、誰もいないのに喋ってたり、俺あの人ん所行くの嫌っすよ。」

 夜勤で入っていた加藤は、若い男性看護師と話をしていた、話題は悠介の事で、男性看護師は悠介を気味悪がっていた。

 それもそのはずだろう、悠介は虚空に向かって話しかけ、受け答えをしているのだから。

「俺あの人喋ってるとこ行くの嫌っすからね、加藤さん行ってくださいよ。」

「はぁ……。わかったわ、私がいる時だけね。」

 加藤も、悠介を怖がっていない訳では無かった、しかしそれ以上に、恋人が亡くなってしまったのに、その幻覚を見ている悠介を憐れんでいた。

 だから、自分が出勤している時は、気味悪がっている他の看護師に代わって、自分が一切の業務を請け負っているのだ。

「全く……。」

 男性看護師がナースステーションを出ると、加藤は一人ため息をつく、しかし、そうしてもいられない、と巡回業務に向かった。

 悠介を哀れに思いながら、浩介の死を悼みながら。

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