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序章:ガラクタの星詠み

国立アストラル学園の午後は、いつも魔法の火花の匂いと、少年少女たちの高らかな詠唱に包まれている。

 宙を舞う練習用の光弾が空を彩り、基礎魔導の成功を喜ぶ声が響く。そんな喧騒から逃れるように、リアは演習場の片隅、樹齢数百年の大樹の木陰に身を潜めていた。

「……よし、これで最後」

 リアは、手元の作業に集中させていた視線をふっと上げた。

 彼女が握っているのは、学園指定の地味な紺色のネクタイ。しかし今、そこには繊細な銀の糸で無数の星々が刺繍され、まるで小さな銀河をそのまま布地に閉じ込めたような輝きを放っている。

「またそんなことに熱中して。リア、明日の実技試験の準備はいいの?」

 呆れたような、けれどどこか慈しむような声が響く。

 振り返ると、そこには紫の長い髪をなびかせた少女、ルナが立っていた。彼女の傍らには、名門魔導師の証である立派なほうきと、3枚目のイラストにあるような神秘的な意匠の魔女帽子が静かに浮いている。

「あ、ルナ! 見てよ、これ。最高に綺麗に縫えたんだ。これなら『無能のリア』じゃなくて『星を操るリア』って呼んでもらえるかな?」

 リアは1枚目のイラストにあるような、少し背伸びをした仕草でネクタイを胸元にあてがい、屈託のない笑顔を見せた。

 

 この学園において、リアは「ガラクタ」と揶揄される落ちこぼれだ。

 筆記試験の成績は学年トップ。天体の運行も、古代の魔導数式もすべて完璧に理解している。しかし、いざ杖を振るっても、彼女の指先から魔法の火花が灯ることは一度もなかった。

「デザインのセンスは認めるわ。でもリア、魔法は『縫う』ものじゃなくて『放つ』ものなのよ。……このままじゃ、本当に退学になっちゃうわよ」

 ルナは隣に腰を下ろし、真剣な瞳でリアを見つめた。

 ルナはこの「ガラクタ」と呼ばれている少女が、誰よりも真摯に空を見上げていることを知っている。他の生徒たちが効率的な魔導陣の描き方を議論している間、リアだけはいつも、遥か彼方の宇宙そらに耳を澄ませていた。

「わかってるよ、ルナ。でもね、私には聞こえるんだ」

 リアは刺繍された星のネクタイを愛おしそうに撫でた。

「みんなは魔法を『エネルギー』だって言う。でも私には、それは空に散らばった星たちが奏でるメロディみたいに聞こえるの。私たちが歌えば、星たちが応えてくれる。……いつか、私もそのセレナーデに参加できる日が来るって、そんな予感がするんだ」

「……相変わらず、変なこと言うわね」

 ルナは溜息をつきながらも、そっとリアの肩に頭を預けた。

 風が吹き抜け、学園の時計塔が夕刻を告げる鐘を鳴らす。

 オレンジ色に染まる空を見上げる二人の影は、まだ何も知らない。

 

 今夜、あの時計塔を貫く「黒い彗星」が降り注ぐことを。

 そして、リアが縫い上げたその星の刺繍が、彼女自身の「大切な記憶」を喰らい、絶大な奇跡を呼び覚ますトリガーになることを。

「明日は、一緒に合格しましょうね。リア」

「うん。……ずっと、一緒だよ。ルナ」

 それは、明日には消えてしまうかもしれない、儚い約束だった。

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