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第4話

外で抵抗して暴れる訳にもいかないので渋々、結弦から離れて少し後ろを歩く。


チラチラと着いてきているか確認していた結弦は輝にタオルについて問う。


「輝さん、」


「なんだよ、」


「何でこのタオルを買いに行くんですか?まだ、全然使えそうなのに。」



結弦は預かっていたタオルを出して「ほら、汚れとかないし」と輝の目の前で広げて見せた。



「あぁ……実はさ、」



輝はタオルを新調しないといけなくなった理由を話した。


理由がわかった結弦の反応は、ドン引くでもなく、擁護するでもない曖昧な感じだった。




「まあ、確かに。10歳下の女の子のタオルを使っちゃったら…ねぇ?」



「そうだろ?それなのに彰のやつ、『しれっと返す』とか言い出すからさぁ」




「前からちょっと思ってたんですけど、彰さんって窮地に追い込まれると結構ヤバめな発想しますよね…?」


「結弦、そんな風に彰の事みてたのか!」


「違う!もぉ!そんな弱み握ってやったぜみたいに笑わないで下さい!」


「ほぉ、なるほどなぁ~」


「ねぇーニヤニヤしないでくださいよぉー。輝さんのいじわるぅ…」


歩くのをストップし、キッ…と輝の事を睨むが結弦は元々、可愛らしい顔立ちなので、どんだけ睨まれてもそこに怖さは存在しない。


むしろ睨んでくる顔でさえ可愛いと、輝に限らず劇団の皆が思っていた。


つまり、結弦は何しても可愛いで済んでしまうキャラなのだ。



「あ、結弦。もしかしてココ?」


「え?」



輝の指さす方を見ると店の入口から世界に通じるkawaiiが溢れていて、こういう系統が好みの結弦も流石に足がすくんだ。



「ココです…写真より可愛いの圧迫感がスゴいですね…」


「調べたんじゃないの?」


「調べましたよ。それで男1人だと入りずらそうだったから、輝さんに来てもらったんじゃないですか!」


「え?僕も入るの?」


「もちろん、」


「………は??」


時が止まった。


自分が着いていくのは店の前までで、後は結弦が1人でサラッとタオルを買ってくるとばかり思っていたからだ。


「先輩の僕も行く意味ってある…?」


「ありますよ!だってボク、このお店、初めましてですもん。」


「嘘でしょ…?」


「嘘じゃないです!ほら、輝さんっ」



結弦に背中を押されるがまま、30過ぎてkawaiiが溢れる空間に初入店をした輝は、慣れることのない空間に会計が終わるまでソワソワしていた。


やっとの思いでお店から出ると、輝は思いっきり息を吐いた。



「慣れない空間過ぎて、息止まりそうだったわ…」



ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァしている輝の事なんかお構い無しの結弦は、嬉しそうにスキップのような足取りでお店から出てきた。



「タオル買えてよかったですね!同じデザインのラスイチだったし、」


「そう…だな、」


「よし!この近くにずっと行きたかった可愛いクレープ屋さんあるんで」


「…へ?」


「せっかくなんで輝さん行きましょー!」


「も、もぉ…やめてくれぇ…、可愛いは腹いっぱいだ…」


「やめないでーすっ」



フラフラな輝を引っ張り、クレープ屋さんへ向かう結弦だったが、列が想像を遥かに超える長さで、この日は諦める事になった。


しょぼんと悲しそうな後輩をみて「また、今度行こう」と言わざるを得ない輝なのであった。



そして翌日、彰に新しいタオルを渡し、しれっと元に戻すように輝は伝えた。


この出来事を彰と輝は、『タオル事件・2025』と名付けた。




タオル事件・2025から数日経ったある日。


この日は場当たりと言って、演劇をやる劇場で立ち位置の確認や段取りの擦り合わせなどを行っていた。


午前中に大体の確認作業が終わり、昼休憩に入った時だった。


サンドイッチを食べながらスマホをいじっていた彰が突然「こっ、輝!」と大きな声を出した。



「なんだよ…大きい声出すなよ…サンドイッチ飛んでってるじゃん、」


「サンドイッチなんかどうでもいいよ、そんな事よりもヤバいぞ…」


「あーあー、トマトがペチって床に…可哀想に、トマト」


「トマトはいいからっ!輝、奥さんが今日、お前を家に連れてこい…って、」


「えっ…何で?」


「もしかして…タオル…」


「待って?タオル返す時、彰、なんか言った?」


「言ってない…でも、奥さんが『新品みたいにフワフワになってる〜!』って言ってジロリと俺を見てきたような?」


「思いっきりバレてるじゃねぇか!!」


輝は首から掛けてたタオルをタァァンっ!!と床に投げつけた。



「え?バレたのかな…?」


「思いっきしバレてるよ、」


「マジかよ、上手くやり過ごせたと思ってた…」


「えっ…?気づかなかったの?バレてるって」


「うん、」


「彰…鈍感にも程があるぞ、マジで。」


「あぁぁ…俺たち絶対怒られるよね…?」


「そりゃそうだろ。もぉ〜、どぉすんだよぉ…僕この後、稽古どころじゃなく

なるよ?」


「俺も…」


この後、2人は稽古に身が入らない状態で何とか1日を終えると、カナに言われた通り、家へと向かう。


足取りが重いのは、稽古疲れなのか?


はたまた、これから起こる事への気の重さか。



「よし…入るぞ、輝」


「おう…」


ガチャリと音を立てて玄関を開けると、そこには腕を組んだカナが立っていた。

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