第3話
「どうしたんですかぁ?2人して頭抱えちゃって~」
2人の肩をツンツンとしてきたのは、可愛いもの好きの後輩・羽田 結弦だった。
「はっ!?」
彰と輝は同じことを思った。
『結弦なら知っているかもしれない、この可愛いタオルが売ってる店!』
2人はゆっくりと立ち上がり、結弦の肩にポンと手を置いた。
「なっ…なんですか…?」
「結弦くん。俺と輝さ、ちょっと君に聞きたいことがあってさ」
「…えっ、」
たじろぐ結弦を逃すまいと肩に置いた手に、さっきより力が入る2人。
「君、可愛いもの好きじゃん?」
「彰…さん?目の奥が笑ってないですよ…」
「このタオル、どこのお店に売ってるか知ってるよね?」
「輝さんもだ…。笑ってるのに目の奥が笑ってない…初めて見た…」
「で、タオル、どこかな?」
「あぁ~、、多分…原宿じゃないかなぁ?」
「やっぱり、原宿系…?」
輝と彰は顔を見合わせた。
そして天を仰いだ。
『オワッタ。おじさんが入るには抵抗感MAXじゃねぇか……』と。
2人は肩を落としてトボトボと結弦から離れた。
そして、すみっこで壁の方へ向き、再び膝を抱えた。
「おい、どうするよ、輝」
「無理だよな、買いに行けないよな、」
「これはやっぱり、俺がしれっと葵のタンスに返すしか…」
「それだけはやめろ」
「すいません、冗談です……てか、どうしよぉ…」
頭を抱えて唸る彰の奥に、結弦がふっ…と一瞬だけ、輝の視界に入った。
「ん?待てよ…?これ、結弦に買ってきて貰えばいいんじゃないか…?」
「輝!!その手があったか!お前、やっぱ天才かよ!!」
「よし、結弦に頼んでくるわ。僕、1個あいつに貸しがあるし」
「すまねぇな…俺の不注意で…」
「いいってことよ、親友!」
親指を立ててグッ!と格好つける輝に応えて、彰も同じくグッ!と親指を立てた。………が、傍から見たらタオル1つ買いに行くだけの話である。
格好つける程の事でもない。
それは2人から少し離れた所で見ていた結弦が1番思っていた。
「結弦くん!」
「は…はい、」
「このタオルと同じものを買ってきてくれないか?」
「え…そんなアメリカのラブコメに出てくるイケメンみたいな喋り方じゃなかったですよね?輝さん。」
「なに言ってるんだい?ハハッ。君って面白い事を言うんだね?」
「面白い事になってるの、輝さんの方ですよ…?」
「とりあえず、僕は君に1個貸しがある。」
「あぁ〜この前の舞台でのやつですよね?」
「そうさっ!だから、その貸しを返すと思ってこのタオルと同じものを」
「そのキャラ、そろそろ辞めてくれません?」
「同じタオルを買ってきて欲しいんだっ!」
「おっと…?これはボクが買うと言うまでやめない感じかな、」
「結弦くん!」
「わっ、分かりましたよ!買ってきますぅ」
「そうか!君なら快く引き受けると思っていたよ。じゃあ、よろしく!」
アハハっと爽やかに微笑むと輝はタオルを結弦に渡した。
そして荷物を持って、彰と帰って行った。
「…人って追い込まれると、あんな風になっちゃうのか。大変だなぁ…」
稽古小屋に残された結弦は、去っていく先輩2人の背中を苦い顔で見送っていた。
翌日。
この日も稽古の1日だった。
稽古が終わり、帰る支度をしていた輝は、服の裾をチョンチョンと引っ張る感覚に振り返る。すると、満面の笑みで結弦が立っていた。
「おっ、結弦おつかれ」
「お疲れ様です。輝さん、この後ヒマですよね?」
「えっ…………何で知ってんの?」
「彰さんに聞いたら『多分、予定ないって言ってた気がする』」って。」
「あいつ……」
「それでなんですけど」
「うん…何か嫌な予感するけど勘違いかな…?」
「タオル買いに行きましょ!」
「やだ!」
「なんでですかぁ!元はと言えば、輝さん達の問題なんですよ!」
「それでもヤダ!原宿とか行けない!恥ずい!!」
「いいから行きますよっ!」
ガシッと輝の腕を掴んだ結弦は、強引にタオルを買いに稽古小屋を出た。