EP 5 元教師、今日も異世界カフェで情報戦してます
顧問パネン、ついに“愛”と“戦略”の板挟み!
スタリナからの誘惑、ケシの信頼、そして決議案を巡る情報戦――
本店と2号店、勝つのはどちらか。
メスガキと経営者、そして顧問の胃痛が交錯する第5話、はじまります!
「“ジョージア・ナンバーワン”ですか?」
「ジョージア・ナンバーワン? なんだか不思議な店名ですね」
そう言うと、スタリナは微笑みながら訂正した。
「“グルジア・ナンバーワン”って読むんですよ。さあ、メニューも私がおすすめしますね」
初めて食べる外国料理は思ったよりも美味しく、特にスタリナが選んだワインとの相性は抜群だった。
「ゆっくり食べてください、顧問さん。そんなに急いだら、お家に帰れなくなりますよ?」
軽く微笑んでからのその一言に、私はスプーンを止めた。
「……もしかして、この食事を機に私を取り込んだり、搾り取ったりしようとしてるんですか?」
その言葉に、スタリナは魅惑的な笑みを浮かべた。
「搾り取るなんて……顧問さんともっと親しくなりたいだけです♡ ケシさんがなぜあなたを連れてきたのか、なんだか分かった気がします」
スタリナはさりげなく隣の席へと移動し、私のお皿に料理を取り分けてくれた。
「顧問さんみたいな人、私好きですよ。大衆ウケするタイプじゃないけど、私はそういう人の方が落ち着くんです」
その言葉が耳にこだました。
「顧問さんみたいな人、私好きですよ」――これは、もはや告白と同じでは?
だが、冷静になって考えれば、出会って二日目でこんなことを言うのはまともじゃない。
「すみません、私は“自然な出会いから始まる恋”が好きなんです。急展開で迫られるのは、ちょっと……」
どこか遠くから「コクるなー!」というケシの叫びが聞こえた気がした。
同時に「そのネタは18禁に触れるぞ!」と誰かが叫んでいる幻聴も聞こえた。
(……ここでこれ以上進むと“R18タグ”が付けられてしまうかもしれない。R18が何なのかは知らないけど)
スタリナは私の様子をやさしく見守っていたが、静かに続けた。
「今日が最後の機会じゃありません。また次も、その次も、きっと良いチャンスがあります。だから今日はただ、美味しいものを一緒に食べて楽しみましょう」
そうして、私たちは予想以上に多くの料理を楽しんだ。
もしスタリナがもっと積極的に迫ってきていたら、私は断れなかったかもしれない。
「次は、もっと親密な時間を持てたら嬉しいです。顧問さん、気をつけて帰ってくださいね」
別れ際にそう微笑むスタリナを見て、私は確信した。
この女、人を魅了する天才だ。言葉の一つ一つが柔らかくて心地よくて、危ない。
(……こういうときこそ、冷静にならなきゃダメだ。油断したら、真っ先に切り捨てられるのは俺だ)
そう自分に言い聞かせながら、帰宅してすぐベッドに倒れ込んだ。
──チリリリリリ!
アラーム音で飛び起きる。
昨夜、美味しい食事とお酒に酔いしれていたせいで、ギリギリの起床だった。
(アラーム、かけておいて正解だった……)
出勤すると、ケシがやってきた。
「昨日、2号店どうだった?」
ケシの質問に、少し考えてから答える。
「本店とはコンセプトが違うけど、全体的にシステムは整ってたし、スタッフの忠誠心も高かった」
ケシはうなずいた。
「スタリナ、ああ見えて有能なんだよ。スタッフ教育も自分でやるタイプ」
メスガキ教育もスタリナが担当してると聞いて驚いた。
「外見からは想像できなかったけど、やっぱり見かけによらないな」
私の言葉にケシが笑って言う。
「初期の頃は、彼女の店、ファンがめちゃくちゃ多かったからね。私と人気を二分してたくらいだし」
意外だった。
スタリナもケシも、このカフェのためには欠かせない存在なのかもしれないと、ふと思った。
「でもさ、スタリナのやり方で拡張していくと、そのうち借金で首が回らなくなる。カフェの個性も失って、後発のチェーン店に食われて終わるよ」
この手の話をするケシを見るたび、彼女が意外と常識人だということに驚かされる。
二人とも“キャラ”に飲まれてるだけで、本質的には資本主義の申し子みたいな女たちだ。
「わかったよ。2号店で得た情報を整理して教えるね」
そう言うと、ケシは小さなノートを取り出した。
「ハリンブとキスジン・ルゼ? その子たちと面談したけど、ハリンブは拡張にはあまり賛成してない。店舗が安定するまでは今のままでいいって考えてるみたいだったよ」
ケシはうなずいた。
「2号店ってスパイばかりだと思ってたけど、そうでもなかったんだね。いい決議案さえ出せば、こっちの意見を聞いてくれるかも」
私もその意見に賛成だった。
2号店にはクセの強い名前のスタッフが多かったし、スタリナに忠誠を誓ってる人も多かったが、ケシに心を寄せてる者もいなかったわけではない。
(俺の役割は、ケシにもスタリナにも“権力が傾きすぎないようにすること”だ)
一方の権力が集中すれば、必ず俺の居場所は失われる。
俺はこの場所で“政治”で飯を食ってる人間だ。必要不可欠な存在ではない。
「ケシ。どうせ2号店のスタッフはスタリナに票を入れるだろうし、本店スタッフが気に入りそうな決議案を出した方がいいと思うよ」
その言葉にケシは「よーし!」と腕をクロスしながら、私にファイティングポーズを求めてきた。
私は顔をしかめて言った。
「なんで俺がそんなことまでしなきゃいけないんだ」
ケシは真剣な顔で答えた。
「私の手は“鎌”、あなたの手は“ハンマー”。私たち、クロスしないと意味ないじゃん!」
(……資本主義が好きって言ってるくせに、なんで赤い連想ばっかさせるんだよ……)
そんな風に思いながら、ふとレジに座っていたスタリナと目が合った。
「昨日は無事に帰れましたか?」
スタリナは優しく笑っていた。
「ええ、ちゃんと帰れました。でも、もう少し一緒にいたかったですね」
彼女はそう言いながらさりげなく近づいてきて、小声で囁く。
「ケシに情報を流すんでしょ? 私にも、今回の決議案で有利になるヒントを少しだけ教えてくれませんか?」
私は静かに、本店の情報を共有することにした。
「本店のスタッフは、給料と自由を大切にしています。スタリナ社長も、それを意識した提案を持ってきてくれるといいですね」
その言葉に、スタリナは満足そうに頷き、私の頬にそっとキスをした。
私は驚いてのけぞったが、彼女は微笑みながら言った。
「これは感謝のしるしです♡ 今回の決議案、勝ってみせますね」
そして午前11時、恒例の“決議案発表会”が始まった。
司会進行は、もちろん私だ。
「さあ皆さん、本日の決議案は、業務意識を高めるために、両社長が用意してくれました!」
拍手が巻き起こるのを手で制して、私は続けた。
「まずはメスガキの象徴、ケシ社長から!」
本店スタッフの一部が拍手する。
大型スクリーン前に立ったケシは、真っ直ぐ前を見据えたまま、手でスタリナを指差しながら言った。
「皆さん! 本店も2号店も、スタッフの安定した働き方が何より大事です。そのために、まず今の体制を安定させましょう!」
スタリナは突然自分を指された理由が分からず、戸惑っていた。
「私の提案は、3号店の開店を来年に延期し、本店・2号店の両方に新規スタッフを追加採用して、教育と休暇制度を強化することです!」
まさかの提案に、私も驚いた。
スタリナの「拡張路線」とは真逆の内容だった。
(……この二人、ついに“ガチ”でぶつかるつもりか?)
そんな私の思いをよそに、ケシが降壇し、続いてスタリナが登壇する。
「職業意識の高い皆さんへ。私の提案は、あなたたちが今の仕事に誇りを持って働ける職場を作ることです」
そう言って、2号店のモニターに映るスタッフ、本店のスタッフたちを見回した。
「私は今年中に3号店を開き、皆さんに柔軟な有休制度とフレックス制度を提供します!」
どちらの提案も、スタッフ目線では素晴らしかった。
こんな社長ばかりなら、職場は天国に違いない。
(……問題は、二人とも“互いを潰す”気満々ってことだ)
でも私は、ここで金を稼がないといけない。
(金ができたら、次は車を買い替えるんだ。いいやつを)
理想は、カフェ・スタッフ・顧問、みんなが幸せになること。
適度なバランスで、緊張と安心の綱渡りをさせるんだ。
そして投票が行われた。
今回ばかりは、どちらが勝つか全く予想できなかった。
「さて、投票が締め切られました! ドラムロール、スタート!」
するとスタッフの一人が叫んだ。
「この瞬間が一番楽しいんだよな~!」
まるで観客のようなテンションだった。
自分たちの社長なのを忘れているんじゃないか?
私は結果を見て思わず叫んだ。
「こんな結果、今までなかったぞ!?」
前に座っていたスタッフが唸るように言った。
「早く発表しろよ、悪徳顧問!」
(礼儀ってもんを知らないのか……)
私は笑顔のまま、結果を発表した――。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
ケシとスタリナ、それぞれが“本気”を出した今回。
顧問パネンの中立戦略もそろそろ限界……!?
次回、波乱の決議結果と、その裏でうごめく黒い影が明らかに──!
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