EP 4 異世界転職、カフェ2号店で裏交渉してきた件
顧問パネン、次なる舞台は2号店へ!
スタリナ社長との裏交渉、2号店スタッフたちの本音、そして拡張政策への疑念。
メスガキだけじゃない、異世界カフェ戦線のもう一つの顔が、ここにある――!
第4話、策略と理想が交錯する、静かな嵐の始まりです。
顧問、2号店へ潜入──交錯する本音と野望
「おはようございます」
私が挨拶すると、スタリナはあまり機嫌の良くない顔で私を見た。
まあ、あれだけ大敗すれば当然だろうと思いながらも、私はふとスタリナの方針を思い返した。
(正直、長期的な視点ではスタリナの案も悪くなかったんだよな……)
だが、スタッフたちから票を集めるには、ある程度のポピュリズムも必要だった。
現実とは、いつだって理想だけでは動かない。
私はスタッフたちが開店準備を始める中、スタリナをそっと倉庫へ呼び寄せた。
「何でしょうか、顧問さん」
彼女はまだプライドが傷ついた顔をしていた。
「スタリナ、仮に私があなたを助けたら、どんな見返りがもらえますか?」
私の問いに、スタリナは少し考えてから答えた。
「もし、次の投票で勝たせてくれたら、毎回成功報酬を個人的にお支払いします。そして……」
スタリナはそっと距離を詰め、甘い声でささやいた。
「本当は昨日、ちゃんと言いたかったんですけど……私、誰よりも近くで支えてくれる戦略家がほしいんです♡」
彼女は妖艶な微笑みを浮かべながら、私の肩に手を添えた。
「……なるほど。でも、私は具体的な金額を知りたい。私の基本給はケシ社長と共有してるはずですからね?」
そう言うと、スタリナはうなずいた。
「ええ、悪くないお給料ですよね。でも、あなたはもっと大きな報酬を望んでいる……違いますか?」
私は無言でうなずいた。
そうだ、計画を修正しなきゃいけない。今の私には、とにかく“でかい金”が必要なんだ。
「もしケシを完全に排除できたら、さらに特別報酬をお支払いします」
……スタリナもケシも、どちらも金を湯水のように使う女たちだった。
私は心の中で決めた。どちらにも完全には与せず、コウモリのように立ち回って、がっつり金を稼ぐことを。
提案された額は、冗談ではない本気の金額だった。
もはや私は「卒業生を助ける教育者」としてではなく、「ドーパミン中毒の顧問」として堕ちていくのかもしれなかった。
「……まずは2号店を見せてもらいましょう。その上で考えます」
私はそう告げて倉庫を後にした。
ケシは少し不安そうだったが、勝たせてもらった恩もあり、スタリナにバレないようこっそり親指を立ててきた。
開店まで残り1時間。
スタリナに案内され、私は2号店へと向かった。
「さあ! ここが2号店ですよ!」
到着した瞬間、私はすぐに違和感を覚えた。
スタッフたちは、ケシの本店のような「純粋メスガキ路線」とは少し違っていた。
コンセプトがバラバラで、やや雑多な雰囲気だった。
「うん……たしかに本店とは違うな」
私はそう呟き、開店準備をしているスタッフの一人を呼んで、面談をすることにした。
「じゃあ、座ってください。……名前は、ハリンブさんですね」
軍服を模したショートパンツ姿の、明るい肌の少女だった。
「名字は……ニコライとかだったら嬉しいな」
冗談めかして言うと、ハリンブは「えっ?」という顔でこちらを見た。
「私は、昔のカフェオーナー、レニア姉さんの時代から働いていて、今はスタリナ社長のもとで2号店にいます」
その言葉に、私は気づいた。
スタリナはかなり前からレニア時代のベテランを2号店に引き抜いていたのだ。
「いいですね、ハリンブさん。いくつか質問させてください。支援している社長は誰ですか?」
ここはケシの目がない。私は単刀直入に聞いた。
「はい、基本的にはスタリナ社長を支持しています。でも……ちょっと心配もあります」
「どんな点が心配ですか? 具体的に教えてください」
ハリンブは少し考えてから答えた。
「スタリナ社長、よく“소확행(小確幸)”ってスローガンを掲げるんです。『小悪魔カフェの拡張主義』の略なんですけど……拡張って、必ずしも良いことばかりじゃないですよね?」
私は頷いた。
「その通り。中身を固めずに広げれば、足元をすくわれる」
ハリンブは嬉しそうにさらに続けた。
「私は、今の2号店スタッフたち、そして本店スタッフたちが幸せに働けるようになってほしいだけです。
その上で、いつか誰かが3号店のマネージャーになれたらいいなって思います」
彼女はケシとはまた違う種類の理想主義者だった。
だが、言っていることは正論だった。
「私はスタリナ社長の多様性を尊重しています。ただ、すべてが完璧だとは思っていません」
そう言って、周囲を気にしながら、さらに打ち明けた。
「できれば、2号店の売上をもう少し伸ばしてから、次の拡張を考えたほうがいいって……顧問さんから、さりげなく伝えてもらえませんか?」
私は頷いた。
「わかりました。私からそれとなく言ってみます」
開店時間になり、2号店の営業が始まった。
やはり1号店に比べると、客足は少ない。
ハリンブの言った通り、まだ効率が十分ではないようだった。
私はスタリナに断りを入れて、もう一人、別のスタッフとの面談を行った。
「名前は……キスジン・ルゼさんですね。お会いできて光栄です」
暗い褐色の肌を持つ、冷たい雰囲気の女性だった。
2号店のスタッフの中では最も大人びた外見だった。
「はい、顧問さん。何のご用件でしょう?」
私は丁寧に、面談の趣旨を説明した。
「スタッフの意見を集め、社長たちが見落としがちな部分を補完する役目です。何か不満や要望はありますか?」
キスジン・ルゼは少し鋭い目で私を見つめた。
他のスタッフとは、明らかに空気が違った。
「不満はありません。ただ……スタッフの数が足りないと思います」
私は少し驚いた。
「現状でも十分な人数がいると思いますが、なぜそう感じるのでしょうか?」
彼女は肩をすくめながら答えた。
「スタリナ社長が新しい店舗を作ると、今のスタッフが抜けるかもしれないからです」
納得はできた。
私はできるだけ柔らかい笑顔で答えた。
「その点は、3号店が正式に決まったら考えるべきですね。もし決まったら、すぐに採用活動をサポートします」
その言葉に、キスジン・ルゼは少し不満げな顔をした。
「……まあ、それならいいです。もう戻ってもいいですか?」
「どうぞ」
彼女が立ち去ろうとしたとき、私はふと声をかけた。
「スタリナ社長が、皆さんの考えを知りたいと言っていたんですよ。だから面談をしているんです」
キスジン・ルゼは一瞬立ち止まった。
「……さっきのハリンブは、何て言ってました?」
私は平然と答えた。
「彼女は今のカフェ運営に満足しているそうです。2号店に来られて幸せだと言っていました」
本当はそんな話はしていなかったが、私はあえてポジティブなことだけ伝えた。
「……そうですか。じゃあ、戻ります」
そう言って去っていく彼女の横顔には、わずかな笑みが浮かんでいた。
カウンターに立ち、スタッフたちの働きをじっと観察する。
スタリナはケシとは違い、自らホールを回ることはしなかった。
その代わり、遅れているスタッフには即座に指示を飛ばしていた。
スタリナはケシとは違うタイプだったが、間違いなく有能な経営者だった。
彼女が新店舗を出したがる気持ちも理解できる。
営業終了後、売上を確認すると、やはり本店の半分ほどしかなかった。
3号店構想は、まだ時期尚早かもしれないと私は思った。
「顧問さん、今日の2号店、いかがでしたか?」
スタリナが尋ねる。
「本店とは違ったメスガキアレンジも悪くない。ただ、スタッフのレベルは本店には及びませんね」
私の言葉に、スタリナも真剣な顔で頷いた。
「私もそう思います。でも、店舗数を増やせば、最終的な利益は大きくなります」
確かに、売上の総量は拡張すれば増える。
「それなら……このあと、少し食事でもしながら、詳しくお話しませんか?」
スタリナの提案を受け、私は彼女おすすめのレストランへ向かった。
そこは妙に奇抜な名前の食堂だった。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
2号店の雰囲気とスタッフたち、それぞれの思惑が見え始めた第4話でした。
次回はいよいよ、スタリナとの本格的な密談と、新たな火種が動き出します!
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