表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/143

6章 尾張遠征 3 寿桂尼(2)

 姫の説明が続く。


 徐々に、僕にも事情が分かり始めた。それとともに、寿桂尼(じゅけいに)様の顔は険しくなっていく。


「このような事情でございまして、御屋形(おやかた)様に御目通りを願いたいのですが、御目通りの御許可がなく、門番が通してくれせぬ。なにとぞ、大叔母様のお力をお借りしたいのです」


 寿桂尼(じゅけいに)様が、ゆっくりと(うなづ)く。

「本当にあれは世話の焼ける。(あい)分かった。このおばばが力を貸そう」


 そう言うと寿桂尼(じゅけいに)様は文机(ふづくえ)に向かい、さらさらと書状を書き始めた。すぐに書き終わると、違い棚の手箱から印を取り出し、文の袖に朱印を()した。


 「(とつぐ)」印だ。それは、確かに寿桂尼(じゅけいに)の書状であることを示すとともに、寿桂尼(じゅけいに)の並々ならぬ決意を表していた。


「この印が()されていれば、必ず御屋形(おやかた)様に取り次がれる。そして、御屋形(おやかた)様ならば間違いなく、冬青(そよご)姫の話を真剣に捉えてくださる」


 差し出された書状を、拝むようにして姫が受け取った。


御屋形(おやかた)様に伝えておくれ。おばばはまだまだ元気であるし、ひよっこの尻拭いは昔から得意だ、とな」

 はい、と姫は短く答えた。


「それを伝えれば、冬青(そよご)姫、そなたの役割は終わりじゃ。早よ行け」

「ありがとうございます」


 姫はガバッと立ち上がると、一礼し、すぐに玄関に向かった。僕も一礼して部屋を後にし、姫の後を追いかける。


 雨は(いま)だに降り続いているけれど、ここに来た時よりは弱くなっていた。


「さぁ、道は開けたわ。何としても御屋形(おやかた)様を説得して、尾張(おわり)に向かって(もら)わねばならないわ。セイも頼りにしているわよ。何かいい説得があったら教えてね」


 うん、と僕は(うなづ)く。と言っても、僕に説得なんてできるだろうか。ちょっと自信がない。けれどそれが姫の望みならば、何としてでも説得しなければならない。姫には返しきれないほどの恩があるのだから。


 何が僕にできるかを考えながら来た道を戻り、再び四足門(よつあしもん)まで来た。いろいろ考えたけれど、いい案は思いつかずに着いてしまった。


 門番の侍は僕たち二人を見ると、やれやれという風に言った。

「姫様、ご許可は取られましたか。取られていないのであれば、お通しできませんよ」


 それに対し、姫は鼻高々に言い返す。

寿桂尼(じゅけいに)さまより書状を頂いてまいりました。通していただけるかしら?」

「拝見できますか?」


「ここでは雨で()れてしまうわ。中に入れてちょうだい。寿桂尼(じゅけいに)さまの書状を(かた)るなんて、馬鹿な真似はしないわよ」


 ここまで言われてしまえば、門番の侍では朝比奈(あさひな)の姫を止めることはできないらしい。渋々ながら姫と僕は門を通され、最初の建物の中の座敷に通された。ここで待て、ということだね。


 しばらく待つと、三浦(みうら)内匠助(たくみのすけ)様お見えでございます、と廊下から声が掛かった。(ふすま)が音もなく開くと、三浦(みうら)正俊(まさとし)殿が入室し、姫の前に腰を下ろした。


寿桂尼(じゅけいに)様の書状をお持ちだとか」

 はい、と言って、姫が懐から書状を差し出した。正俊(まさとし)殿は受け取ると、開いて目を通す。


「確かに寿桂尼(じゅけいに)様の書状。承りました。すぐに御屋形(おやかた)様に取り次ぎましょう」

「お願いいたします」

 姫が頭を下げたので、僕もそれに(なら)う。


(かり)の間にてお待ちいただこう。私はその間に、御屋形(おやかた)様を探さなければならぬ」


 そう言って、正俊(まさとし)殿は部屋を後にした。僕たちは係の侍に先導され、駿府構(すんぷがまえ)の中の奥へ進む。深い水堀にかかった橋を越え、さらに二つの空堀を越えた先にある建物、その一室に通された。


 姫は入口のすぐに座り、僕はその左後ろ、廊下に座るように言われた。正俊(まさとし)殿が先導役に命じた時、下男(げなん)もですか、と小声で聞かれていた。やはり、僕は異質のような気がする。たぶん、ここってかなりの地位のある人でないと入れない場所じゃない?


 部屋は二十畳ほどの広さで、板敷き。奥には畳が敷かれ、その部分だけ少し高くなっている。奥の壁の中央には、何やら文字が書かれた掛け軸が掛かっており、左に(よろい)(かぶと)、右に刀が二振り飾られている。右手は障子が張られ、左手は(かり)の飛ぶ姿が遠く描かれた(ふすま)だ。素人(しろうと)の僕にも、ここは格が高い場所なのだと推測できる。


 しばらく部屋を見物して待っていると、人の来る気配がした。右奥の障子が開かれ、正俊(まさとし)殿、御屋形(おやかた)様、御前(ごぜん)様が現れた。


志麻(しま)ちゃん、ごきげんよう。そこで五郎(ごろう)さまに会って、志麻(しま)ちゃんが来ているって言うものですから、来ちゃった。あたくしも、ご一緒してもよろしくて?」

「お志寿(しず)ちゃん、こんにちは。御屋形(おやかた)様さえよろしければ、わたしはいいわよ」


 皆の視線が、御屋形(おやかた)様に注がれる。

「決まりじゃな。皆で話を聞こうか」


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ