6章 尾張遠征 2 出陣(5)
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次の日の一日は長かった。出征した兄さまや太守様が心配で、居ても立っても居られない。書物を読んでも、弓の稽古をしても、集中できず散々な結果だった。結局、愛馬、夕凪の世話をして気を紛らわした。夕凪のお気に入りの櫛で梳く時だけは、無心になれたのだ。
ようやく夜になり、夢の世界で志麻は覚醒した。すぐに辺りを見回し、お師匠の姿を探す。
すると、目の前の空間がゆらゆらと歪み、お師匠が現れた。
「お師匠、どうでした?」
前のめりに手をつき、かぶりつくようにお師匠の顔を見た。
「左文字で一太刀であったな。承芳殿には、我の言葉は届かなかった」
抑揚も、声色も、いつもと変化はないのだけれども、志麻はそこに落胆と焦りの色を微かに感じた。
「そうでしたか。お怪我は?」
「左文字は名刀じゃが、我を斬れるものではない。心配には及ばぬ。それよりも、これからどうするかじゃ」
「太守様の夢の中に出れないのですか? 尾張までは、まだ道のりが長くあります。その間に説得できれば……」
お師匠は、静かに首を横に振った。
「道標がなくては、承芳殿を見つけることができぬ。今朝はたまたま藤枝であったから、街道で待っていたのだ。もう先へ進んでしまった。実体化するには遠すぎる」
つまり、お師匠ができることは無くなった、ということなのね。
「御屋形様にお願いするしかないわ」
太守様を止められるのは、もうこの世で御屋形様しかいない。寿桂尼さまも止められるかもしれないけれど、高齢でとても太守様を追える体力はない。御屋形様を説得し、太守様に直に話してもらう他にないように思える。
「説得できるかえ」
「するしかないわ」
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。
誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




