6章 尾張遠征 1 花見と稽古と友達のこと(7)
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カンッ、カンッ、カンッ。
源太の繰り出す打ち込みに、セイは必死に合わせて弾く。手はジンジンと痺れ、気を抜くと、手から木刀が飛んでいきそうだ。
「ほら、最後だ、気合を入れろ」
今までよりも強力な一撃を、何とかセイは凌いで弾く。手から木刀が落ちなかったことが、不思議なくらいだ。
セイと源太との実力差は歴然だから、必然、源太がセイをしごくことになってしまう。ただ、源太も教えるのが上手いのか、セイが対応できるギリギリで剣を放ってくる。なので、何とかセイは付いてこれていた。
よーし、そこまで、と師範代から声が掛かった。吹き出る汗をセイは袖で拭い、膝に手を当てて息を整える。道場の庭に集う少年たちは、すでに木陰に移動し始めている。
「早くしないと場所がなくなる。行こうぜ」
源太が親指で、槐の木陰を指して言った。
「うん」
源太に促されて槐の木陰に腰を下ろした。セイと源太は、人のいない木陰にしか座れない。そう、セイだけでもなく、源太も浮いてしまったのだ。他の少年たちがいる木陰に座ろうとすると、先客があるの何のと言って、木陰から追い出そうとするのだ。それ以来、源太は馬鹿らしいと言って、空いた木陰にしか行かない。
僕は一度、源太も浮いてしまったことを謝った。源太はやはり怒って、
「おめぇのせいじゃないし、糞くだらない幼稚な奴らは、俺からお断りだ。一々、詰まらねぇことを言わすんじゃねぇ」
だ、そうだ。
木陰で後ろ手に手をつき、空を見上げた。爽やかな風が通り、心地良い。この空がお花見で見たあの空と同じであることが、不思議に思える。雲がゆっくりと流れる、ただの空だ。
「お前、次の戦、どうすんだ?」
源太が、藪から棒に訊いてきた。たぶん、次の戦って、姫が言っていた五月に予定されているという遠征のことだよね。
「たぶん、行かないよ」
姫は行きたいと言っていたけれど、賛成が得られないと言っていた。それにまだ、付いて来るよう、言われていない。
「お前の主人は留守組か。てか、そろそろお前の主人の名前を教えろよ」
「うーん、また今度ね。まだ秘密」
「ちっ、秘密主義者め」
源太は僕に主人がいると思っているけれど、いない。敢えて言えば、主人は姫になると思う。誰かに仕えるなんて想像できないし、ましてや、それが姫以外なら猶更だ。だけど、それを源太に言う訳にもいかない。
「源太は行くの?」
「行きてぇーんだ。だけどよ、爺さんが反対するんだ。まだ早えって。それに鎧もねぇし。鎧さえあれば爺さんは無視して、勝手に誰かの陣営に加わって付いて行くんだがな」
「そうなんだ」
「早く出陣して手柄を立ててぇんだ。俺は、こんなところでチャンバラごっこをしてる、詰まんねぇ男じゃねぇんだよ」
「でも、戦場はここと違って危ないよ」
「武士がそんなことでビクビクして、どうするんだ。お前は怖いのか」
「うん」
僕は正直に答えた。王国で戦った時も、兇賊が朝比奈家を襲った時も、助けなければ、と思うと同時に、怖くてたまらなかった。五月の遠征と言っても、僕には戦う理由がない。守るための戦いでなく、ただ戦う戦場は、今まで経験した戦場よりも、怖いはずだ。
「そうか。怖えのなら俺の後ろに付いて来いってところだけど、弱い奴じゃ、後ろは任せらんねぇ。五月までに形にしてやるよ。そうすりゃぁ戦場も怖かねぇ」
「えっ、これ以上、稽古がきつくなるの?」
源太は、二ッと笑った。
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




