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6章 尾張遠征 1 花見と稽古と友達のこと(7)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カンッ、カンッ、カンッ。


 源太(げんた)の繰り出す打ち込みに、セイは必死に合わせて弾く。手はジンジンと(しび)れ、気を抜くと、手から木刀が飛んでいきそうだ。


「ほら、最後だ、気合を入れろ」


 今までよりも強力な一撃を、何とかセイは(しの)いで弾く。手から木刀が落ちなかったことが、不思議なくらいだ。


 セイと源太(げんた)との実力差は歴然だから、必然、源太(げんた)がセイをしごくことになってしまう。ただ、源太(げんた)も教えるのが上手いのか、セイが対応できるギリギリで剣を放ってくる。なので、何とかセイは付いてこれていた。


 よーし、そこまで、と師範代から声が掛かった。吹き出る汗をセイは袖で拭い、膝に手を当てて息を整える。道場の庭に集う少年たちは、すでに木陰に移動し始めている。


「早くしないと場所がなくなる。行こうぜ」

 源太(げんた)が親指で、(えんじゅ)の木陰を指して言った。

「うん」


 源太(げんた)に促されて(えんじゅ)の木陰に腰を下ろした。セイと源太(げんた)は、人のいない木陰にしか座れない。そう、セイだけでもなく、源太(げんた)も浮いてしまったのだ。他の少年たちがいる木陰に座ろうとすると、先客があるの何のと言って、木陰から追い出そうとするのだ。それ以来、源太(げんた)は馬鹿らしいと言って、空いた木陰にしか行かない。


 僕は一度、源太(げんた)も浮いてしまったことを謝った。源太(げんた)はやはり怒って、

「おめぇのせいじゃないし、(くそ)くだらない幼稚な奴らは、俺からお断りだ。一々、詰まらねぇことを言わすんじゃねぇ」

 だ、そうだ。


 木陰で後ろ手に手をつき、空を見上げた。爽やかな風が通り、心地良い。この空がお花見で見たあの空と同じであることが、不思議に思える。雲がゆっくりと流れる、ただの空だ。


「お前、次の(いくさ)、どうすんだ?」

 源太(げんた)が、(やぶ)から棒に()いてきた。たぶん、次の(いくさ)って、姫が言っていた五月に予定されているという遠征のことだよね。


「たぶん、行かないよ」

 姫は行きたいと言っていたけれど、賛成が得られないと言っていた。それにまだ、付いて来るよう、言われていない。


「お前の主人は留守組か。てか、そろそろお前の主人の名前を教えろよ」

「うーん、また今度ね。まだ秘密」

「ちっ、秘密主義者め」


 源太(げんた)は僕に主人がいると思っているけれど、いない。()えて言えば、主人は姫になると思う。誰かに仕えるなんて想像できないし、ましてや、それが姫以外なら猶更(なおさら)だ。だけど、それを源太(げんた)に言う訳にもいかない。


源太(げんた)は行くの?」

「行きてぇーんだ。だけどよ、(じい)さんが反対するんだ。まだ早えって。それに(よろい)もねぇし。(よろい)さえあれば(じい)さんは無視して、勝手に誰かの陣営に加わって付いて行くんだがな」

「そうなんだ」


「早く出陣して手柄を立ててぇんだ。俺は、こんなところでチャンバラごっこをしてる、詰まんねぇ男じゃねぇんだよ」

「でも、戦場はここと違って危ないよ」


「武士がそんなことでビクビクして、どうするんだ。お前は怖いのか」

「うん」


 僕は正直に答えた。王国で戦った時も、兇賊(きょうぞく)朝比奈(あさひな)家を襲った時も、助けなければ、と思うと同時に、怖くてたまらなかった。五月の遠征と言っても、僕には戦う理由がない。守るための戦いでなく、ただ戦う戦場は、今まで経験した戦場よりも、怖いはずだ。


「そうか。怖えのなら俺の後ろに付いて来いってところだけど、弱い奴じゃ、後ろは任せらんねぇ。五月までに形にしてやるよ。そうすりゃぁ戦場も怖かねぇ」

「えっ、これ以上、稽古がきつくなるの?」


 源太(げんた)は、二ッと笑った。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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