6章 尾張遠征 1 花見と稽古と友達のこと(6)
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「どうじゃ? 順調に進んでおるかの?」
白い夢の中。日課となっている講義。現在は孫子が二周目に入っている。一度に深く掘らず、何度も読み返すことによって徐々に深い理解を得るのだ、とお師匠は言う。最初に読んだ時と違い、二周目では後半にある章と前半にある章のつながりに気付く。全体を知っていると前半の章が見せる景色はこうも違うのか、と志麻は驚いていた。
「ちゃんと昨日の復習と、今日の分の素読はしてきたわ」
志麻はそれを、お師匠の講義が始まって以来、一度たりとも怠ったことはない。なんといっても楽しいのだ。
「そちらではない。そちらを心配すると思うてか。そうではなく、次の大戦、弥次郎殿に付いて参陣したい、と言うておうたであろう。そちらの進み具合じゃの」
「そっちのことなのね」
志麻は答えて、深く息を吐いた。
「朝比奈家中の三分の一は、わたしが付いて行くことに賛成してくれているわ。けれど、肝心の兄さまが相変わらず反対だわ。何とか家中の支持を半分以上にして、それを梃子に兄さまを説得したいのだけれど、なかなか進まないわね」
「左様か、賊からうまく聞き出しても増えぬか」
「ええ、それがあったから、三分の一が賛成してくれるようになったのよ。なければ、ほとんどの者は首を縦には振らなかったわ」
「うむ。なかなか人を動かすということは、難しいものだ」
「ええ、けれど、まだ諦めないわ。あと二か月はあるはずだから、何としても家中を説得して、兄さまを翻意させるわ」
「弥次郎殿にしても、家中が反対しておるのに妹の姫を連れて行くとなれば、身内に甘いと悪評も立つ。内心はどうかは判らぬが、賛成できぬであろう。やはり、家中の支持が、参陣の分かれ目になろうな」
「そうだわね。努力するわ」
「うむ。武芸の鍛錬も、この講義で行う学問も、一朝にして事態を変える力はないが、徐々に姫の夢に近づく力となろう。なれば、今日の講義を始めようか」
「はい」
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お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




