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6章 尾張遠征 1 花見と稽古と友達のこと(5)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 組み稽古の時間になった。今日も一人で素振りでもしようか、と思っていたところ、おい、と後ろから呼ぶ声がした。


 振り返ると、僕と同じくらいの年の少年がこちらを見ていた。体格は無駄のない筋肉質で、腕も足も長い。やんちゃそうな顔をし、長くもない髪を後ろで結んでいる。服はお世辞にもいい物とは言えない。


「おい、お前、今日も一人じゃないか。俺が組んでやる」

 僕は突然のことに、えっ、と声を発しただけで、その次の句を継げなかった。


「俺は源太(げんた)だ。お前はセイでいいんだよな」

 ぶっきらぼうに源太(げんた)は言うと、木刀を僕の方に突き付けた。


「うん。そう、僕はセイ。だけど僕と関わると、君も仲間外れにされちゃうよ」


 源太(げんた)はそれを聞くなり、ツカツカと僕に近づき、ガシッと胸ぐらを(つか)み上げた。

「俺を()めるんじゃねぇ。俺が誰に話しかけようが、誰とつるもうが、決めるのは俺だ!」


 源太(げんた)の突然の行動と、思いがけない強い言葉に、僕はたじろいだ。

「うん……ごめん」


「わかればいい。それで、お前、どこから来たんだ?」

「すごく遠く」


 異世界のことを言っても理解されないし、混乱させるだけなので曖昧に答えた。


「そうか。家族は?」

「いるよ。すごく遠くに」


 大丈夫。戦乱は家族のいる王都まで届いていないはずだ、と僕は自分に言い聞かせて言った。


「要領を(つか)めない奴だな。置いてきたのか?」

「うーんと、はぐれちゃった?」


「なんで疑問形なんだよ。そいで、何で駿河(するが)にお前はいるんだ?」

「怪我をしたところを助けてもらって」


「おお、助けたのはどこの者だ?」

朝比奈(あさひな)家の人だよ」


「やはりそうか。朝比奈(あさひな)様かっ」

 一人納得した源太(げんた)は、始めるぞ、お前が打ってこい、と言って木刀を構えた。


 僕が上段から打ち下ろすと、それに合わせて払うように弾いた。手に衝撃が走る。御屋形(おやかた)様とは比べ物にならないけれど、源太(げんた)はなかなかに力強い剣筋をしている。上段、中段、下段と、それぞれ十回打ち合わせたところで、源太(げんた)が怒ったように言いだした。


「お前! 手を抜いているだろ」


 思いもしないことだったから驚いた。そんな風に見えていたのかな。


「そんなことない。真剣にやっているよ」


 僕は答えた。もちろん肉体強化の魔法を全力で使えば、源太(げんた)を驚かすことができる。けれど、この道場に通う目的はそれではない。魔法は、ある種のズルだ、と僕は思う。稽古になるように必要最低限の肉体強化を使うことは、見逃して欲しいけど。そういう訳で、今、繰り出した剣が、剣技としては僕の全力なのだ。


「まぁいい、今度は俺が打ち込む。そうすれば判る」


 源太(げんた)は大きく振るかぶり、一直線に打ち下ろしてきた。僕も源太(げんた)がやったように、右から左へと払って一撃を弾いた。弾かれた源太(げんた)の一撃は、僕の左肩をかすって宙を斬った。手は衝撃でジンジンと(しび)れている。


 二ッと源太(げんた)は笑みを見せると、よっしゃ、やるぜ、と言って、意気揚々と上段、中段、下段と打ち込みを始めた。


 ………………


 …………


 ……


「あれ? お前、あれが本気っての、本当だった?」

「だから手を抜いていないって言ったよ」


 僕は少しムッとしながら言った。というのも、僕は剣を受けきれず、さばききれず、源太(げんた)の一撃を何度もその身に受けていたのだ。体のあちこちが、打ち身で傷い。


「すまん。なんか、お前、もっとできる奴だと勝手に思い込んでた。俺の勘違いだった。悪い」

「何と勘違いしていたか知らないけど、僕はこの道場で初めて剣術を習うんだから」


「そうだな。途中からおかしいと思った。本当にすまんかった」

 両手を合わせて頭上に挙げ、源太(げんた)は拝むように謝った。


「いいよ。分かってくれたなら」

「そうか、ありがとな。おっと、ここじゃ邪魔になるから、向こうへ行こうぜ」


 気が付けば、周りは木の(やり)を持っている。今から(やり)の稽古なのだ。(やり)は剣より場所を取るので、半分が稽古をし、半分は木陰で休憩する。


 僕と源太(げんた)(えんじゅ)の木陰に座った。木陰は涼しく、吹く風が気持ちいい。春先であっても陽の当たる場所で稽古をすれば、ずいぶんと暑いのだ。


「ねぇ、源太(げんた)はどういう人なの?」

「俺か、そうだな……」


 源太(げんた)はそう言うと、身の上を話し始めた。


 年は僕と同じ十四。父が信濃(しなの)出身の武士で、母は駿河(するが)の農民の出である。きょうだいは、姉と弟と妹。父は既に亡くなっており、母たちと大伯父の家に住んでいる。午前はこうして武術の稽古に励み、午後は実家の農業を手伝うと言うのだから、半分武士で半分農民なのだと僕は思った。源太(げんた)はまだ、元服(げんぷく)という大人にるための儀式を済ませていない。早く元服(げんぷく)してどこかに仕官したい、と言うのだけれど、仕官するためには実力を示さなければならない。今は稽古に励みつつ、(いくさ)で手柄を立てる機会を(うかが)っているそうだ。


 こうして話してみると、意外に話しやすい人だと思った。もしかしたら、友達になれるかもしれない。姫は気安いけれど、友達というよりは命の恩人であるという意識がある。貸し借りのないただの友達ができるなら、それは源太(げんた)になりそうな予感がした。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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