5章 初陣 5 尋問(6)
「よし、セイも納得してくれたようだな。では、話を進めよう。結果として、本当のことを話させることには成功した。だが、賊どもは、そもそも多くを知らなかったようだ」
「と、言うと?」
姫が頷いて先を促す。
「どうやら、賊どもは三層構造になっていたらしい。一番上が首領。こいつは捕まえた中にも、成敗した中にもいなかったようで、何処かへと消えた。こいつが金と指令を受けていたらしい」
「その首領を捕まえられなかったのは痛いわね」
「そうだな。我らに運がなかったのか、元々用心深い性格だったのか。悔しいな。それで次、二層目は中核だ。こやつらが首領から命令を受け、実際に襲撃の準備やら誘導やら、重要な部分を担ったようだ。白状した三人はこの中核だな。そして三層目が、ただ金で雇われただけで、何も知らない者たちだ。内容が少なかった四人は、これだろうな」
「と言うことは、背景は判らず仕舞いなのね」
「うむ、誠に残念だが、そうだ。分かったのは首領の容姿だけだ。尋問した者の中に絵の得意な者がおってな、折角だから人相を描かせてみた。これだ」
そう言って若さまが差し出した紙には、人の顔が墨で書かれている。角ばった顔で顎が尖っている。左目より右目の方が小さく、その右目の下には矢を受けた古傷であろう跡が残っている。坊主頭で眉は太く、耳は小さい。
「背丈は五尺二寸か三寸(150cm程度)で、体は細いが力はめっぽう強いそうだ。覚えておいてくれ」
「兄さま、嘘をついた二人に、これをお見せになって?」
「ああ、尋問をした者が見せたそうだ。顔を背け動揺しておったそうだ」
若さまが、ニッと笑って答えた。
「そうですか。完全に決まりですわね」
「そう言うことだ。して、三人解放することになった訳だが、セイにまた、追跡の魔法を頼みたい。引き受けてくれるか?」
追跡の魔法は掛ける時にだけ魔力を必要とし、後はいらない便利な魔法だ。発動にはそれなりの魔力が必要だけれど、触媒が三つとも揃っていれば今の魔力でも賄える。けれど、一つ確認することがある。
「うん、いいよ。けど、今その魔法を使っちゃうと、しばらく魔法が使えなくなるけどいいかな?」
「そうなのか。セイの体を支えている魔法は問題ないのか?」
「肉体強化の魔法だね。これを使っているから、いつも魔力を消費してるんだ。それがちょうど回復して新たに発生する魔力とトントンで、今、貯めてある魔力を使っちゃうと他の魔法は使えなくなるかな。だから、普通に動く分には大丈夫だよ」
「なるほど。魔法は案外に難儀なものなのだな」
若さまは何度も頷き、しばらく考えてから言う。
「それでも、やってもらった方がいいだろう。屋敷の警護は前より強化されているし、セイがいなければ自分たちを守れない訳ではない。セイにはセイにしか出来ぬことをやってもらった方がよかろう」
僕には断る理由はない。
「うん、分かった。じゃあ追跡の魔法は僕に任せて」
「ところで兄さま、先の二名に今回の三名で、合計五名です。十兵衛とわたしとセイでも、手が回りませんわ。どうなさるおつもりなのです?」
「今回は、人をやっての追跡は無理だな。どの方向に向かったくらいが分かれば十分だ。何かの参考にはなるだろう。それにな、十兵衛には先日の追跡で随分と苦労を掛けてしまったから、十分に休ませたい。元気でいるのでつい忘れてしまうが、それなりに年を取っておる」
「十兵衛殿が聞いたら、まだまだ若いもんには負けないって言いそうだね」
「そうね。きっと言うわ。けれど、わたしたちも十兵衛に苦労を掛けてばかりはいられないわ」
真剣な面持ちで言って、姫は若さまの顔を見た。
「おっと、志麻、お前さんが追跡に出るのは論外だぞ。そう行きたそうな顔をしても俺は許可せんからな」
「兄さまは過保護ですわ」
「お前さんがやんちゃなだけだ」
そう言って姫と若さまは、二人で見合って笑った。
「追跡の件は分かったけど、他の人たちはどうなるの?」
「ああ、他の者というと残りの七人のことだな。それは処刑だ。朝比奈の家が襲われたのだ。誰も下手人が処刑されないのであれば、朝比奈の沽券に関わる。威信が下がれば、また良からぬことを考える者たちが襲うかもしれん。ある程度の数の処刑は必要だ」
「ですわね」
姫もそれに同意した。こちらはそういう社会なのかな。
「ただ兄さま、黙秘を貫いた一人は殺さずに牢に閉じ込めておきましょう。義理を通す人間のようですし、今の主との約束がなくなれば、使えるかもしれませんわ」
若さまはちょっと考えた後、頷いた。
「なるほど、それも一理あるな。そうしようか」
「兄さま、ありがとう」
「では、そういうことでセイ、追跡の魔法を頼んだぞ。それが終わったら、俺は駿府構に行かねばならぬ。五郎に事を報告して、奉行の許可を得んといかんのでな。日が沈む前に終わらせたい」
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六人の賊が市中を引き回され、安倍川の河原で磔となった。斬首された首は、刑場に三日三晩に渡り晒された。
追跡の鳩羽は、四つが西を、一つが東を指していた。
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
これにて、前半パートの終了です。次回、コラムという名の言い訳を挟んで、後半パートの開始となります。物語の進行はゆっくりですが、お付き合いいただけたら幸いです。
これを機に、評価、応援、感想など、頂けたら嬉しいです。五里霧中という感じで、参考になる御意見などを渇望しています。これを読んでいる貴方、ぜひ!
誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




