5章 初陣 5 尋問(5)
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「兄さま、参りました」
若さまの部屋の前で姫が声をかけると、お入り、と中から声が掛かった。
襖を開けると、若さまが胡坐をかいている。目の前には何やら書き付けが広げられていた。
「セイも来ておるな。ささ、座れ」
促されて僕と姫は、若さまの前に並んで座った。
「結果が出た。まぁ上々だ。だが、その前にだ。今回の策を練ったのが志麻、お前さんだと家の者が聞いて、皆、驚嘆しておったぞ」
「あら、話してしまわれたのね」
「評議でな、俺が策を練ったかのように話が進んでおったからな。俺は人の手柄を奪う趣味はない」
「だから、ここに来る間にチラチラ見る者がいたのね。納得だわ」
僕も感じていた。僕が姫と一緒にいることはよくある。だから、今更見られるのは変だな、と思っていたのだ。それは僕を見ていたのではなく、姫の手柄のためだと知って、自分のことのように誇らしい。やはり姫はすごいのだ。
「それで兄さま、結果はどうなりまして?」
「おう、話したのが三人、嘘をついたのが二人、内容が少ないのが四人、黙って何も話さないのが一人だ」
そう、と言って姫が人差し指を頬に当てる。
「嘘をついた二人は、同じことを話したのかしら?」
「いや、別々だったな」
「ねぇ、嘘をついた内の一人が本当のことを言っていて、他の四人が嘘をついていることはないの?」
あれっ? と思い浮かんだ疑問だ。多い方が本当とは限らない気がする。
「皆、そう思うだおろうな。だから志麻、お前さんは確認したのだろう?」
若さまが姫を見て、説明するように目で促した。
「ええ、もし嘘をついた二人のうち一人が本当のことを言っているのであれば、三人が同じになって一人が違うことはおかしいわ。三人が同じ話をするということは、話してもよい嘘の物語をあらかじめ賊の皆で示し合わせていたことになるわね。そうすると、一人だけ違うことを話す者が出るのはあり得ない。嘘の物語は全員で示し合わせなければ意味がないし、そうであれば、新しく嘘の物語を作らず、示し合わせた嘘の物語を話せばいいんですもの」
「ん? どういうこと?」
姫は、すらすら話してくれたけれど、聞いている僕は、完全に置いてきぼりを食らってしまった。難しいって。姫の目をじっと見て、訴えた。
「そうねぇ、この五人が捕まったとき用の嘘の物語を持っていたとしましょう。すると、それぞれはその嘘物語を話すか、本当のことを話すかの二択になるわ」
「そうだね」
「けれど、話を聞いてみると物語は三つ出てきた」
「うん」
「バラバラの話をした二人の内の一人は用意した嘘の物語ではなく、その場で新たな嘘物語を話したことになる。けれど、それって話す側にとって何の利益にもならないわ。少なくとも用意した嘘の物語を話す以上のね」
「なるほどね。僕もそう思う」
とは言ったけれど、実際のところは頭が混乱してよく分かってない。こんな話を突然されても、解んないよ。けど、それでは格好が悪い。とっさに解ったふりをしてしまった。うぅ、バレませんように。
「でしょ。だから、前提と今ある結果が矛盾するのよ。その矛盾を解くには前提が間違っていた、と考えるしかない。つまり、嘘の物語を全員で示し合わせていないことになるわ」
「そういうことか。だから姫は嘘をついた二人が同じ話をしていないか、確認したんだ」
もちろん解っていない。話を合わせました。ごめんなさい。
「ええ、そうよ。これで、同じことを話した三人が本当のことを話した、と考えていいわね」
若さまは、姫と僕とを交互に見やり頷いた。
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。
誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




