5章 初陣 5 尋問(4)
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再び朝比奈屋敷にある二基の櫓、その一つの上に、志麻とセイ、二人の影があった。前回と違い今回は昼間でなので、屋敷の門からそそくさと去って行く二人の賊の姿が、はっきりと見て取れる。
「どう? 動いているかしら?」
「うん、どちらも大丈夫だよ」
セイの手の上には、二つの追尾の鳩羽があった。一つは以前に掛けた茂吉のもの。もう一つは、今、去って行くもう一人の賊に掛けたものだ。
「上々ね」
そう言って、志麻は逃げる二人の背中を見続けている。
「ねぇ、姫。あの賊たちを、また捕まえに行くの?」
同じく去って行く賊を目で追いながら、セイが尋ねた。
「いいえ。そのつもりはないわ。解放する、好きなところへ行ってよい、と約束したのだから、それは守るわ。朝比奈の家名が懸かっているからね。簡単に破れないわよ」
「そうなんだ。じゃぁ、これからどうするの?」
「これから第二の仕掛けをするわ」
志麻は、笑みを浮かべて答えた。
「第二の仕掛け?」
「そうよ。第二の仕掛け。今、牢の中にいる賊たちは何を考えているかしら?」
「解放された人たちが羨ましい……かな?」
「ええ、それもあるわ。けれどもう一つ、誰か裏切り者がいる、と疑心暗鬼になっているわね。それも二人いると考えているわ。二人の内容が一致したか、矛盾がなかった。なぜ? 本当のことを話したから。そう疑っているはずだわ」
「賊は、何て言ってたの?」
「何も。誰も何も話していないわよ」
「えっ!? 嘘なの? 何も聞けていないのに、解放しちゃったの!?」
そうよ、と志麻は鼻高々に言う。
「わたしも、さすがにあの条件では誰も話さないと思っていたわ。もちろん、話してくれても良かったんだけれど。ただ疑心暗鬼を起こすことが目的だったのよ。普通だったら話さない。だから、どうにかして冷静さを失わせることが重要なのよ」
「賊の人たちは、今頃、騙されて動揺しているんだね」
「ええ、見届け役が、じきに牢に戻されるわ。そして、牢の中に伝わる。羨ましいという思いに、妬みが加わるわ。思い出してちょうだい。あの解放された賊の一人は、名前を話したのよ。一人だけいい食事をずっと貰っていた。食事の度に妬みを覚えたはずよ。さらに解放までされた。心の中は理不尽でぐちゃぐちゃになるわ」
「うん。僕だったら許せないかな」
「今日一日は尋問をしない。ぐちゃぐちゃな気持ちを増幅させて貰うわ。そして明日、尋問をする。条件は今日と同じ。だけれど、今度、助かるのは自分にするわ」
「しゃべるかな?」
「全員でなくてもいいのよ。何人か、本当のことを話せば。いけると思うわ」
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お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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