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5章 初陣 5 尋問(2)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 取引をしてから三日が経った。


 朝飯を食ってから、ただじっと時が過ぎるのを待つ。(ろう)の中で話をしようとすると、見張りが長い棒で(ろう)の外側から突きを食らわしてくる。本気の突きだ。初めに一人が受けて、誰も話をしようとしなくなった。


 いつもであれば、このあと侍がやって来て一人ずつ(ろう)から連れ出し、四半時(しはんとき)ほどの尋問を受けては(ろう)に戻される。俺が呼ばれるのは六番目だから、まだまだ時間がある。


 そう思っていたが、今日は違った。がたいが良く背の高い若い侍、十代半ばの小娘とガキの三人が来たのだ。若い侍には見覚えがある。俺たちが殺そうとした朝比奈(あさひな)の息子の左京亮(さきょうのすけ)だ。こいつはここに来ても違和感はねぇ。ただ小娘とガキには、ここは似つかわしくねぇ。


 気に入らねぇ。そう茂吉(もきち)が心の中でつぶやいた時、左京亮(さきょうのすけ)が口を開いた。


「お前たちの処分が決まった。三日後に(はりつけ)の刑だ。心しておけ」


 にわかに牢の雰囲気が変わった。いつまであるか分からねぇ命だが、拷問もねぇし、どこか舐めた雰囲気があった。だが、あと三日。頭で解っていることと、心で解っていることは違う。突然、現実を突き付けられた。目をキョロキョロ泳がせる奴、はぁと息を吐いてうなだれる奴、天を(あお)いで苦しそうに目をつぶる奴。人それぞれだが、一様に重い。


 その雰囲気の中、小娘が(のたま)う。


「生き延びる機会をあげるわ。知っている背後を全て話すのよ。そうすれば、命を助けてあげるし、(ろう)からも出してあげるわ。好きなところへ行けばいい。けれど、言った本人ではないわ。あなたたちを二人一組に分けたから、その相手を助けてあげる。ただし、話した内容が極端に少なかったり、矛盾したら無効よ。気を付けてちょうだい」


 訳が分かんねぇ。小娘は、もう一度言うわね、と言って繰り返し同じ話をしている。言っていることは解る。が、自分が(ろう)に取り残されたまま他人を逃してやる物好きなど、いるもんか。誰がこんな馬鹿げた取引に応じるっつんだ。


 小娘は話し終わると、半時(はんとき)の後に尋問をするからよく話す内容を考えておいてちょうだい、と言い残し、左京亮(さきょうのすけ)とガキを伴って地下(ろう)の前から去って行った。


 よく考えろと言ったところで、こんなバカげた取引に応じ奴はいねぇ。加えて茂吉(もきち)にとって、この取引は意味がなかった。と言うのも、茂吉(もきち)は単に雇われたに近く、背後など知らないのだ。主要な連中ならともかく、実は首領の顔も()()とは見たことがない。いつも黒頭巾で顔を隠していたからだ。なので、話しても意味がないのは目に見えている。


 馬鹿馬鹿しい。


 胡坐(あぐら)をかき、膝に肘を乗せ、頬杖(ほおづえ)をついた茂吉(もきち)は、そう心の中でつぶやいた。馬鹿馬鹿しい取引を持ち掛けた小娘に、ふつふつと殺意を感じる。(ろう)の中の他の連中も、見た限りでは同じように感じているはずだ。


 そのまま半時(はんとき)が過ぎ、一人一人、次々と尋問に呼ばれた。


 茂吉(もきち)も呼ばれたが話す内容もないので、おめえらに話すことはねぇんだよ、と見得(みえ)を切ってやった。


 全員の尋問が終わったが、その日はそれきりであった。誰かが来る訳でも、何かを言われる訳でも、誰かが解放される訳でもねぇ。相変わらず一品多い夕食を済ませ、眠りについた。


 (はりつけ)台に縛られ、(やり)で刺される寸前の夢を見て、夜半に飛び起きた。額を拭うと、冬だというのにすごい量の脂汗をかいていた。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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