5章 初陣 5 尋問(2)
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取引をしてから三日が経った。
朝飯を食ってから、ただじっと時が過ぎるのを待つ。牢の中で話をしようとすると、見張りが長い棒で牢の外側から突きを食らわしてくる。本気の突きだ。初めに一人が受けて、誰も話をしようとしなくなった。
いつもであれば、このあと侍がやって来て一人ずつ牢から連れ出し、四半時ほどの尋問を受けては牢に戻される。俺が呼ばれるのは六番目だから、まだまだ時間がある。
そう思っていたが、今日は違った。がたいが良く背の高い若い侍、十代半ばの小娘とガキの三人が来たのだ。若い侍には見覚えがある。俺たちが殺そうとした朝比奈の息子の左京亮だ。こいつはここに来ても違和感はねぇ。ただ小娘とガキには、ここは似つかわしくねぇ。
気に入らねぇ。そう茂吉が心の中でつぶやいた時、左京亮が口を開いた。
「お前たちの処分が決まった。三日後に磔の刑だ。心しておけ」
にわかに牢の雰囲気が変わった。いつまであるか分からねぇ命だが、拷問もねぇし、どこか舐めた雰囲気があった。だが、あと三日。頭で解っていることと、心で解っていることは違う。突然、現実を突き付けられた。目をキョロキョロ泳がせる奴、はぁと息を吐いてうなだれる奴、天を仰いで苦しそうに目をつぶる奴。人それぞれだが、一様に重い。
その雰囲気の中、小娘が宣う。
「生き延びる機会をあげるわ。知っている背後を全て話すのよ。そうすれば、命を助けてあげるし、牢からも出してあげるわ。好きなところへ行けばいい。けれど、言った本人ではないわ。あなたたちを二人一組に分けたから、その相手を助けてあげる。ただし、話した内容が極端に少なかったり、矛盾したら無効よ。気を付けてちょうだい」
訳が分かんねぇ。小娘は、もう一度言うわね、と言って繰り返し同じ話をしている。言っていることは解る。が、自分が牢に取り残されたまま他人を逃してやる物好きなど、いるもんか。誰がこんな馬鹿げた取引に応じるっつんだ。
小娘は話し終わると、半時の後に尋問をするからよく話す内容を考えておいてちょうだい、と言い残し、左京亮とガキを伴って地下牢の前から去って行った。
よく考えろと言ったところで、こんなバカげた取引に応じ奴はいねぇ。加えて茂吉にとって、この取引は意味がなかった。と言うのも、茂吉は単に雇われたに近く、背後など知らないのだ。主要な連中ならともかく、実は首領の顔もしかとは見たことがない。いつも黒頭巾で顔を隠していたからだ。なので、話しても意味がないのは目に見えている。
馬鹿馬鹿しい。
胡坐をかき、膝に肘を乗せ、頬杖をついた茂吉は、そう心の中でつぶやいた。馬鹿馬鹿しい取引を持ち掛けた小娘に、ふつふつと殺意を感じる。牢の中の他の連中も、見た限りでは同じように感じているはずだ。
そのまま半時が過ぎ、一人一人、次々と尋問に呼ばれた。
茂吉も呼ばれたが話す内容もないので、おめえらに話すことはねぇんだよ、と見得を切ってやった。
全員の尋問が終わったが、その日はそれきりであった。誰かが来る訳でも、何かを言われる訳でも、誰かが解放される訳でもねぇ。相変わらず一品多い夕食を済ませ、眠りについた。
磔台に縛られ、槍で刺される寸前の夢を見て、夜半に飛び起きた。額を拭うと、冬だというのにすごい量の脂汗をかいていた。
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お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




