5章 初陣 5 尋問(1)
5 尋問
チラチラとまとわりつく視線に、茂吉はいい加減飽き飽きしていた。
始まりは取引に応じたことだった。捕らえられた仲間の名前を言う代わりに、酒と肴を貰う、そういう取引だった。名前が分かったからと言って、何か分かる訳でもねぇ。やってもいい取引だ。俺も話してもいいことと、話してはいけねぇことの区別くらいはつく。話してはいけねぇ話をしたら、お亀が危ねぇ。
お亀は俺が江尻の湊に置いている女だ。三々九度を飲み交わした訳ではねぇが、女房と言っていい。そのお亀は俺が仕事をするときに、人質となる。と言っても、武家とは違い、部屋を与えられてどこかに集められる訳でもねぇ。俺が裏切ったときに、人質のお亀を親方がただ殺す、という単純明快な仕組みだ。当然、お亀はこのことを知らねぇ。
だから慎重に考えた。考えた末、これは裏切りではねぇと結論した。そして取引をしたのだ。
話では酒と肴が貰えるだけであった。ところが、その日から俺の食事には一品余分に付くようになった。しかも少しいいものだ。皆に食事が配られた後、俺に一品差し出され、それを羨ましそうに他の奴らが覗き見る。
茂吉は葱味噌のかかった豆腐を一切れ、口に放り込んだ。
そんなに羨ましそうにするのなら、意固地にならず問題ない取引に応じればよかったのだ。頭の固え連中だ。
それにしても運が悪い。あと数日、ねぐらに戻るのを遅くすれば、ここに戻ってくる羽目にはならなかった。
冷たい地下の二つ並んだ牢屋。その奥の牢屋に茂吉はいた。囚われた仲間は、この二つの牢屋に分けられて入れられている。
まだ俺の命運は尽きてねぇ。この連中は間抜けだ。また錠を掛け忘れるかもしれねぇし、何かの折に逃げ出す機会があるかもしれねぇ。
日に一度、牢屋から出されて尋問を受ける。
どういう訳か、小突いたり叩かれる程度で、拷問という拷問はしてこねぇ。だから、まだまだ体は元気だ。この牢屋から出た時に、絶好の機会が訪れると踏んでいる。まだ諦めるには早えのだ。
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お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




