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5章 初陣 4 采配(2)

  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ねぐらを襲撃したその日のうちに、志麻(しま)たちは駿府(すんぷ)に戻っていた。岡部(おかべ)正綱(まさつな)だけは駿府(すんぷ)に来ず、そのまま山西(やまにし)にある岡部(おかべ)氏の居城、朝日山(あさひやま)城へと帰っている。


 その場で討ち取ったのが、八人。怪我が原因で間もなく死んだのが、一人。生け捕ったのが、六人。その六人は、朝比奈(あさひな)(ろう)屋に(ほう)り込まれている。


 対する味方の損害は全くない。死人はもちろんのこと、怪我人すら一人も出さない完全な勝利であった。


 一晩明けた昼、朝比奈(あさひな)の屋敷。その広間には志麻(しま)、セイ、泰朝(やすとも)氏真(うじざね)元康(もとやす)の五人が集まっていた。


「参集、ご苦労」

 御屋形(おやかた)様が一同を見渡し、満足そうに言った。


「何がご苦労だ。連絡も入れず突然来よって……、あぁ、これは五郎(ごろう)に言ったのであって、次郎(じろう)三郎(さぶろう)に言うたのではないぞ。どうせまた、五郎(ごろう)に無理やり連れて来られただけだろ」

「分かってるじゃん」

 ぼやく(にい)さまと対照的に、岡崎(おかざき)殿は笑いをかみ殺しながら答えた。


「これこれ、勝手に話をするでない。今からは、どうやって口を割らせるかの会議じゃ。話を最初から逸れてはならぬ」


五郎(ごろう)、そのために来たのか?」

「当然であろう。賊退治の目的は、捕まえることでも、ましてや殺す事でもあらぬ。背後を聞き出すことが肝要じゃ」


「そんなことは解っておる」

 ムスッとして、(にい)さまは答えた。


「では、弥次郎(やじろう)。もう少しは尋問をしたであろう。どうであったのじゃ?」


 (にい)さまが命じて、すでに尋問が行われたことは、志麻(しま)も知っていた。けれど、その結果はまだ聞いていない。志麻(しま)も早く知りたいと思っていたのであった。


「まだ本当に尋問しかしておらぬからな。何もしゃべらぬ。名前すらな」


「左様か。相手も阿呆(あほう)ではない。人質くらい取って話せないようにしている、と言うところかのう?」

「そうだろうな。うちの家中での話し合いでも、それぐらいには組織だっている、と結論した」


「うむ。口裏合わせはありそうかの?」

「今のところはないだろう、という見立てが支配的だ。もちろん今からされないよう、見張りは厳重にしておる」


「左様か。なればこれから拷問かの」

「嫌だな」

「じゃな」


 そういう(にい)さまと御屋形(おやかた)様の顔は、明らかに曇っている。志麻(しま)には不思議に思えた。今は戦国の世。拷問が行われることは珍しくないはずだ。


「何、志麻(しま)。おかしな顔をしておる」

「あっ……いえ……」

 慌てて取り繕ったけれど、もう遅い。顔に出てしまっていたらしい。それを(にい)さまに(とが)められてしまった。


志麻(しま)は拷問があるとは知っておっても、見たことがないであろう。もちろん見るようなものでもないし、見せる気もない。あれは受ける方は地獄の苦しみだが、する方もしんどいのだ。戦場で敵を討つは武士の誉れ。討たれる方も納得だ。だが、拷問は違う。名誉などなく、ただおぞましい。普通の神経の者ならば、しばらく、食事が喉を通らなくなる」


「そうであったのね。わたしもやれと言われてやる自信がないわ。(にい)さまも御屋形(おやかた)様も同じなのね」


「そうだな。だが、真実、こればかりは同じであったことは幸いだ。この世には、拷問することが苦にならぬ者もおる。なれば、その者にさせればいいと思うであろう。だが、その者が行うと、責め苦を与えることが目的になり、情報を聞き出すことを疎かにする。さらに悪いと、拷問をするために罪をでっち上げる。なのでな、そういう者は案外、使いにくいものなのだ」


「そういう訳じゃ。冬青(そよご)姫、お主の兄とわしが、ただ怖じ気づいている訳ではないことを、理解さてくれるかの?」


 志麻(しま)は承知しましたと、深く(うなづ)いた。人を殺すことを仕事にすると、中にはそれを趣味にしてしまう狂人が現れる。それと同じように、拷問をさせると、それを趣味にしてしまう狂人が現れる、と言うことなのだ。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 夜雨雷鳴と申します。


 応援、感想など頂けたら嬉しいです。画面の前で滝のような涙を流して喜びます。もしかしたら、椅子の上でクルクル舞い踊るかもしれません。


 誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?


 では、次のエピソードにて、お待ちしております。

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