5章 初陣 3 ねぐら(3)
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「あれが賊のねぐらだ」
尾根の上から見渡した先、田んぼの中を南北に一本の道が通っており、そこにポツリと一戸の農家屋敷がある。屋敷内には三棟の建物があり、そのいずれも全ての出入り口が板で閉められている。一見して人が住んでいるようには見えない。
「だいぶ大胆よね。こんな所に住み着くなんて」
こんな所と言うのは、今いる尾根の南端には八幡山と呼ばれる砦があり、そこからねぐらは丸見えなのだ。
「灯台下暗しなのか、却って目立たないのかもしれんな」
「それにしても、弥次郎、よう見つけられたのう」
「信頼のおける仕事の出来る者にやらせたからな」
「ほう、その仕事にセイも一枚咬んでおるのかのう?」
「それは秘密だ」
「左様か。それでよい」
御屋形様はそれ以上詮索しなかった。もしかしたら、兄さまがどのくらいセイの秘密を話してしまうか試したのかもしれない。
志麻にはまだ、御屋形様が何をどう考えているのか、分からなかった。すごく軽いように見せてはいるけれど、それだけではないと思う。
「ねぇ兄さま、あの中には何人の賊がいるのかしら?」
「十兵衛の申すところでは十五人前後だそうだ」
「その数だと、普通に戦えば怪我人が出るかしら?」
「怪我人くらいは出るだろうな。ただ殺したり引かせればいいだけでなく、生け捕りも捕らねばならぬ。下手をしたら死人が出る。それだけ追い詰められた相手を生け捕りにするのは難しいのだ」
「そう……、兄さまはどう戦うおつもりなの?」
「こちらの方が人数が多いのだから、ねぐらの周りをぐるりと囲み、火矢で炙り出して捕らえるのが良いだろう。幸い周りの田には麦が植え付けられておらぬ。少しくらい田を踏んだところで、百姓に大して迷惑がかかる訳ではあるまいしな」
「それが一番現実的……だわね」
そう言いつつも、志麻は何処か納得できないでいる。自然に人差し指が右の頬を叩き始めた。
「ねぇ、セイ。あなたは弓矢は撃てるの?」
傍らにいるセイに、こっそりと聞く。
「狙いを付けたら八本くらいかな。ばら撒くだけだったら五十本くらいはいけるけど、今は触媒が必要だよ。今は持ってないから、そんなに同時には撃てないよ」
セイも、こっそりと答えた。
「違うわよ。魔法で、ではなくて、本物の弓で撃つのよ」
「えっ、そっちなの? じゃあ僕、弓を使えないんだ。練習したこともないんだよ」
「そうなのね。では今日は出番がなさそうね」
「姫は使えるの?」
「あら? こう見えても、わたしは得意なのよ。今日も持ってこようと思ったのだけれど、兄さまにお前は戦うな、と置いてくるように言われてしまったわ。なので、今日は本当に後ろで見ているだけになりそうだわ」
「残念そうだね」
「ええ、せめてセイが弓を使えたら、セイに付いて行って前に行けたのにね。ところが弓を使えないのよね。先日のように、どこからか水を持ってきて、氷の牙を飛ばす訳にもいかないし……」
そこまで言うと、志麻の右頬を叩く指が止まった。
固まること十拍。
「ねぇ、兄さま。一つ提案があるのだけれど……」
お読みいただき、ありがとうございます。
夜雨雷鳴と申します。
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誤字脱字もあったら教えてください。読み返すたびに必ず見つかるんですよね。どこに隠れているんでしょう?
では、次のエピソードにて、お待ちしております。




