5章 初陣 3 ねぐら(1)
3 ねぐら
駿府の町を望み、そして御屋形様と手合わせをしてから十日と二日が経った永禄三年一月二十七日。
そこへ十兵衛から知らせが舞い込んで来た。ついに、賊のねぐらが判明したのだ。
すぐに掛川へ使いを走らせた。朝比奈屋敷から掛川城までは八里。朝に出た使いが走って夕方に着く距離だ。
志麻はジリジリと待っていた。決して一人で勝手に動くな、と泰朝に命じられている。
さらに二日が経った昼。泰朝が朝比奈屋敷に到着した。今回は手勢を何人も連れている。
志麻はセイと一緒に門で出迎えた。
「兄さま、長旅ご苦労さま。わたし、一昨日から二日間、首をキューと長くして待っていたわ」
「ははは、そうか。だが、志麻の首はちっとも伸びておらぬから、安心せい。それはそうと、志麻、抜け駆けはしておらぬであろうな?」
「していないわよ。ちゃんと我慢したもの」
「駿府構へは?」
「報告はしてあるわ」
「よし、それでは今から参上し、御屋形様から正式に許可を頂いてくる」
「兄さま、約束は覚えておいでで?」
「ああ、討伐に付いて来たいのであろう? 覚えておる。そういう志麻はもう一つの約束、決して俺の背中より前に出ない、と約束したことを覚えておるか?」
「覚えているわよ。兄さまは心配性ね。わたし、約束したことは破らないわ」
「という訳で、このじゃじゃ馬は、何が楽しみなのか、俺の後に付いて来たいと言う。本来、こんなものは俺と手勢でちゃっちゃと済ませるのが筋なのだがな。そこでセイ、すまぬが志麻について護衛をして欲しいのだ。頼んでも良いか?」
泰朝はセイの肩に手を掛けて頼み込んだ。
「いいよ。僕やるよ」
「そうか。すまぬな。ことが終わったら何かお礼をしよう」
「楽しみにしているね」
「それでは、駿府構に行って来る」
そう言うと泰朝は、後ろに控えた二人の家人に付いて来るよう命じた。
「他の家人は荷物を片付けたら役目がないゆえ、体も冷えておろう、飯を食わせてやってくれ」
「そう思って、甘酒を用意してあるわ。もう少しでご飯も炊けるわ」
「気が利くな。母さまか?」
「わたしの方が早かったわ」
「そうか。でかした」
泰朝は、家人たちに志麻によって甘酒が用意されていることを大声で伝えた。家人たちはもう疲れを忘れたかのように、口々にお礼を言って喜んでいる。
「姫、よかったね」
「ええ。こんなに喜んでもらえるなんて、作った甲斐があったわ」
「あとは任せた。行ってくる」
「はい。兄さま。いってらっしゃい。兄さまの分もちゃんと残しておくからね」
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夜雨雷鳴と申します。
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では、次のエピソードにて、お待ちしております。




